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第135話 元妖精の恋心

 


 なっ……何を言おうとしてたんじゃ! 

 想いを自覚して即、告白など子供の初恋じゃあるまいし……!


 サンボウの頬は僅かに赤く染まるが、内心は暴風雨のようだった。

 国の舵取りをする宰相に限ってあるまじき行動であり、上流貴族の一員として育てられた自分が感情のままに発露しようとするなど、考えられないことだ。


──クウ達が来てくれなかったら、あのままこの想いを伝えてたじゃろう。そしたら姫はどんな顔をしたのか……。


 チラリと姫を見るとはロスと楽しそうに談笑している。

 あの様子を見る限り悟られてはいないようにみえる。……安堵の気持ちが九割だが、ほんの少し残念な気持ちもある。


 あのまま告白していたらどんな反応を返してくれたのだろうか。

……知りたいような知りたくないような、心の柔らかい部分がむず痒くなり、今すぐ大声を上げて叫びたい衝動が沸き起こる。


 むろんそんな事はしない。

 成人男性が街中でいきなり叫びだすなど、騎士団が呼ばれてもおかしくない事態になってしまう。でも……。


『ひめ……』


『姫……ってあの子のこと?』


 うわ言のような熱を帯びた声に反応したのは、もちろんミレイではなく後を追ってきたアリスだった。


『あなたは……。どうしてここに?』


『あの子の事が心配だったから追ってきたの。人攫いなんて辺境だけだと思ってたけど、最近は王都でも何件かあるんだよね。でも無事で良かったよ。

 あーー。もちろんあなたの事も心配したのよ。……サンボウさん?』


 上目遣いで挑発的な笑みを浮かべる仕草は、男心を擽られたりするんだろうが、サンボウは別の事に意識を奪われていた。


 なぜこの女がその名を呼ぶ

 その名はあの人から貰った、ただ一つの名なのに……。


 当時の状況が想い起こされた。

 それと同時に軽々しく扱われた気がして、サンボウは許し難い嫌悪感に襲われた。


『……サンボウさん?』

『……その名で呼ぶことを誰が許した? その名を呼んでいい女性は、世界にただ一人だ』


 突如として向けられた凍えそうな硬質な空気は、今まで味わったことの無い恐怖であり、アリスはその場に崩れ落ちた。


『…………なによ、なによ』


 自身の足元でカタカタと震える女性を見て、サンボウは我に返って深い溜め息を吐き、猛省した。


 何をしてるのだ自分は。

 守るべき民に、しかも女性に。


『失礼しました。狼藉者達をいなしたあとだったので、少々気が立っておりまして……お赦し頂けますか?』


 社交界で令嬢相手にするような笑みを浮かべ、手を差し伸べるとアリスはポォーっとした顔でゆっくり立ち上がった。


 女の扱いは心得ている。

 ポイントさえ間違わなければ、古狸相手にするよりもずっと気楽……だったはずだ。


 …………姫。



『……その顔はこの場だけにしておいて欲しいの』


 いつの間にか隣にいたクウは、前方を見据えながら、こちらを見ることはなかった。


『……その顔とは?』

『はぁーー。今すぐ鏡を突きつけてやりたい気分なの。今のサンボウは序列一位の宰相様の顔でもなければ、ペトラキス家子息の顔でもない。……ただの男の顔なの』

『…………』


 視線がかち合った。

 長年の友はとても苦しそうな顔をしていた。


『共に生きた者として、サンボウには幸せになってほしいし、それを願ってる。でも……姫に想いを寄せる他の御方の存在も……留意しておいて欲しいの。

 クウに言えることはそれだけだし、それしか言えないの……』


『クウ……』


 クウの気持ちが痛いほど伝わってきて、サンボウも何も言えなくなった。そんな重い空気に一撃喰らわせたのは……あの男だった。



『いやいや、他に言えるだろう』


『ロス!』


『別に女の取り合いくらい騎士団なんて日常茶飯事だぞ? それが王と宰相なんで「重役会議かよ」なんてツッコミ入れたくなるよう面子であっても、所詮、男と男だ。お互い譲れないならガチンコ勝負をすればいい』


『…………なっ!』

『ロス……』

『馬鹿なの!? 王の一番の側近だからこそ、気まずくならないようにしようと言葉を選んだのに! 第一、二人がガチンコ勝負なんてしたら国が滅びるの!』

『そしたら騎士団総出だなぁ〜。ハハッ! 自分、この国護れるかなぁ〜』


『ロス!』


 笑うロスに、怒るクウ。

 その光景が懐かしくてサンボウは声を上げて笑った。


『一番ややこしくしてんのは、サンボウ……お前なんだけど? そのサンボウが傍観して笑ってるって、どんな神経してるの?』


 下から上目遣いで覗きこまれているのに、可愛らしさの欠片もない。なんならメンチ切ってるようにも見えるから不思議だ。


『いや懐かしくてなぁ』


『自分も思ったぞ! やっぱりクウはこうでないとな!』

『……ほう? ロスは蔑まれたい願望があったのね。「新たな扉」を開けてしまったことだし、ここはクウが責任取らないと……ねぇ?』


 笑顔のはずなのに笑ってるようには、微塵も見えない。ロスの表情もカチンとかたまり、しどろもどろで弁解に勤しんだ。


「なあに? 楽しそうだね。何の話をしてたの?」


エリー達と会話していたはずのミレイが目の前にいた。


『……あ〜。実はサンボウが……』

『クウ!』


 叫ぶのと同時に後ろからクウの口を塞いだ。そして耳元で何やら内緒話をする様子は端からみると、抱きしめているようにも見えてしまい……はっきり言って、そこだけ妖しい空気が生まれていた。

 それを見ていたエリー達は、つい歓喜の悲鳴を上げた。


『まったく忙しないヤツラだ』


「……なんの話をしてたの? 大事なこと?」


『……あぁ。大事なことだよ。大切な子の話をしてたんだ』

『へぇ〜、恋バナかぁ。今度は私もいれてね! みんなの大事な人、聞いてみたいなぁ』


 無邪気に笑うミレイが眩しくてロスは目を細めて『今度な!』と告る。



 ──そして不意に爆弾は落とされる。


 ロスは思わず絶句してしまい、それを見たクウとサンボウが訝しむ。


 ある意味、懐かしい空気がそこにはあった。



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