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第121話 夜会 ─ 開幕



 長い廊下を抜けると建物の造りが変わった。窓枠一つにもこだわりが感じとれるような、歴史と重厚感のある趣きだ。


「わあ~。滝だぁ~!」


 水の音が聞こえてくると思ったら滝が見えた。

 沈む夕陽の色が水に映り込み、幻想的な雰囲気を作っている。


『城の裏山に湖があるからな。……今度連れて行ってやろう』 

「本当ですか!? 約束ですよ」


 無邪気に振り向くミレイを見て、水龍は口元を緩めながら約束した。


『こちらの城は実務重視の王宮とは違い、歴史と雅さを堪能できると思います』


 夜会の会場でもあるお城は、建国当初に建てられたものらしい。国の繁栄により手狭になった為に、今の王宮を増築、改装を重ねている。今では夜会などの催しものや外交に使用するくらいらしい。

 水龍さまにエスコートされた部屋は、賓客の控室らしく、優美な装飾が施された見事な部屋だった。辺りをキョロキョロ見回していると、懐中時計をチラリと見るダニエルさんが視界に入った。


「水龍さまエスコートして下さり、ありがとうございました」

『お茶の一杯くらいなら……』


 そう言いかけた水龍さまに、ダニエルは『陛下……』と声をかけた。

 イレギュラーな騒ぎもあっただけに仕事が詰まっているのだろう。


『……わかっている』


 不満そうな主君に、ダニエルはすまなそうに眉を下げた。


『ミレイ、決して無理はするなよ。私も早めに向かうから』


 ミレイの巻かれた髪を一房持ち上げると軽くキスを落とした。


「そっ、それでは計画と変わってしまうではありませんか」


 至近距離の美麗な顔と甘い行為に、動揺してしまう。目を泳がせるミレイを水龍はそっと抱きしめて耳元で囁いた。


『それでもだ。お前を傷つける者は決して許さない』


 一瞬ゾクリとした感覚が背中に走ったが、水龍さまの表情は伺えない。


『……まぁ、あえて言うのなら……。お前はこの私が認めた女であり、あのクセ者揃いの側近達を言いくるめた女だ』


 言いくるめたって……。と、モゴモゴと反論をしてみる。そんなミレイをクスリと笑い、


『いいか、下を向くな。慌てるな。時には言葉を駆使せずとも、笑み一つで相手を怯ませることも可能だ。

 自信は最大の武器になる。……いいな』


 真摯に言葉を重ねてくれる、優しい水龍さまの手を両手で包み「会場でお待ちしています」と笑顔で伝えた。



 計画といえば……。

 会議に参加する前は、水龍さまが入場する直前に私が会場に入り、エスコートを代わる予定だったらしい。

 なんでそんな面倒くさいことを……。と思ったのが顔に出ていたのだろう、ダニエルさんに『王と共に来臨できる方は王家の方か婚約者に限ります』と言われて納得した。


 部屋の外で護衛をしてくれてる、騎士団員の話し声が聞こえてきた。


『到着されたようですね』


 ソニアが扉まで移動すると、ノックの音が響きエリオールさんが現れた。


『遅くなりました水姫様』

「いいえ、こちらこそお忙しい中ありがとうございます」


 淑女の礼で挨拶をすると、ほぅと感嘆の息が漏れた。


『今夜のあなたはまるで薔薇の精霊ようですね。満開のエメラルドグリーンの花から生まれた銀白の精霊。美しさと可憐さを兼ね備えてるあなたをエスコートできるなど、望外の喜びにございます』


 自身の左手を後ろに回し、右手で軽く女性の手を持ち上げて頭を下げる。これがこの国の紳士の挨拶。


 ……なんか、すごい言葉が飛び出てきたよ。

 これが社交の最前線で戦う貴族男子なの!? これは別の意味で心理的負担を負うかもしれない……。


 陰謀とは別の心配が増えた気がした。


『レッスンを初めて二週間ほどと伺っておりましたが、これほど修得されてるとは思いませんでした。素晴らしいです』

「ありがとうございます。とても心強いですわ」


 ──これはシャーリー嬢達に学んだ会話術。

 先生クラスとは違い、私達の世代は語尾に「〜の、〜ですわ」をつけるのが一般的らしい。更に謙虚に振る舞い、常に上を立てて場を離れる時は基本は上の方々から。


 会社員かよ!?……ってツッコミ入れたくなったけど、そこは我慢した。


 今夜開かれる中ホール『水の間』に近づくにつれ、人々のざわめきや演奏が微かに聞こえてくる。気づかないうちに、エリオールの腕に添えた指に力を入れていたらしく、歩みが止まった。


『大丈夫ですよ。今宵は私があなたの専属騎士です。どんな輩からもお護りします。──それに言うほど反人間派は多くありませんよ』

「そうなんですか?」


 これは寝耳に水だった。


『えぇ。水姫に幾度となく救われた歴史もありますから……。ただ龍族至上主義の派閥があるのも事実です』

「なるほど」


 周りはみんな敵!……ぐらいの気持ちでいたから、ミレイは一安心した。


『それにしても可愛らしい一面もあるんですね』

「えっ?」


 螺旋階段を下りて赤い絨毯がひかれた一階の廊下の壁面には、龍をモチーフに描かれた巨大な絵画が何枚も飾られている。


『すみません。どうにも会議に乱入してきたイメージが先行して、勝手に強い女性だと思っておりました』

「それはその……。あの時は本当に失礼しました」


 クスクス笑いながらも言いづらそうに語るエリオールに、何故か頬が熱くなる。


 乱入って言われちゃった。

 たしかにそうだけど、恥ずかしいよぉ……。


『いいんですよ。……いや良くはないかな? まぁ、龍族は好戦的は生き物ですから、己をもってる方は好ましく思うものです』

「好戦的……ですか」


 引っかかった単語を繰り返すと、エリオールは腕に添えられている私の手に、自身の手を重ねると『えぇ』と答えた。


『それに今宵のあなたは美しい。

 黒曜石のような瞳と艷やかな唇で微笑まれたら男は大体、黙りますよ』

「そんな簡単にいくわけ……」

『簡単ですよ。男は美しい女性に惹かれる生き物ですから……』


 色気を含んだ一瞬の流し目にドキリとしたが、フフッと笑った後はいつものエリオールさんに戻っていた。


 そんな簡単に出し入れ自由なんだ。

 そんなのドラ◯もんじゃあるまいし……。


 ミレイは乾いた笑いで誤魔化した。



 エリオールの新たな一面に、戦々恐々としてる間に『水の間』に到着した。

 

 重厚感のある大きな扉が左右に開き

『国賓ミレイ•ミズハラ様。アルハンドラ・エリオール様、御入場されます』

 朗々たる声がホールに響くなか、ミレイとエリオールは視線を合わせて力強く頷き、入場した。



 ホールはまばゆいほどの巨大なシャンデリアに、青の国旗が等間隔で掲げられおり、正面中央階段の上には、青地に金の刺繍で龍と剣が描かれた王家の紋章が掲げられていた。


 優雅な談笑が不意に止み、微かな演奏が耳に届く。今夜の参加者は主要官僚とその家族のみとされているが、彼らの視線はミレイ達に注がれていた。


 想像してたより広い。これで中ホール? 

 しかも静まりかえってるし……。


 チラリと隣を見上げると、飄々と笑みを浮かべるエリオールがいた。


 頼もしいな。

 彼にとってはこれが日常だもんね。


『お久しぶりでございます。エリオール卿。こちらの女性は……』


 エリオールに促されて、微笑みと共に優雅に一礼をする。


「ご挨拶させていただきます。ミレイ・ミズハラと申します。水姫としてこの国に参りました。宜しくお願いいたします」


『私はキリアコス・サボスと申します。こちらこそよろしくお願いいたします。こちらは私の妻で──』

『私もご挨拶させて下さい水姫様。私はメルクーリと申します』

『それにしてもお美しいですわ〜』


 あっと言う間に数人の紳士淑女の皆様に囲まれたが、これはサンボウに(あらかじ)めお願いされた人達。つまりヤラセだ。


 うん。計画通り。

 会話を交わしつつ、周囲に意識を向けると、興味と好奇心に……厭う視線。クスクス笑う嘲笑も聞こえてくるけど、大部分は静観組かな。


 要注意人物は頭に入ってる。あとは……。


『あら〜。わたくし達もご挨拶よろしいかしら?』


 その独特の感情が含まれた声に、ミレイは「きたか」と身構えて振り返った。


 そこには赤いドレスを着たお化けがいた。


 ……いや。正確に言うとちゃんと人型をしてるので、お化けじゃない。

 でも赤と黒のレースに包まれた、揺れる二つの果実が『我こそは!』とばかりに主張している。高笑いのたびにグニャグニャ揺れるし、なにソレ……生きてるの!?

 しかもドレスはソレを強調するデザインのもので『慎み』って言葉を知らないのか? と、思ってしまった。


 いろいろ言われても頭に入ってこないなぁ。

 ヤラセさん達もいつの間にか、数歩下がったし……。もしかしてかなり上流階級の人なのかな?


『ちょっと聞いてらっしゃるの?!』


 パチンとなった扇の音で思考が戻された。


『下等な生き物ですから、言葉が理解できないのではないでしょうか』

『アングレール様の美しさと気品に気後れしているのでは? なにしろアングレール様は次期王妃候補ですもの』


 隠しもしない蔑む視線。


 一応、国賓として招待されてますけど……? 

 それにしても、この人が次期王妃候補? それって水龍さまの奥さんになるってことだよね。


 なんだか胸がモヤッとした。


『皆さま、どうかされましたか?』

 話を遮ったのは、隣で別の人と社交をしてたエリオールだった。


『いいえご挨拶させて頂いただけですわ。エリオール様』


 扇で口元を隠しながら媚びるような視線を投げかけて優雅に微笑む様子は、少し前に私を睨みつけていた人と同一人物とは思えない。


『アングレール•パウロス嬢、お久しぶりでございます』


 ──パウロス。その名を聞いて理解した。

 この令嬢がマクマード卿の反対勢力の令嬢なのね。たしかにこんな顔だったかも。


 それとなく教えてくれたことに感謝しつつ、ミレイは早速、カマをかけることにした。


 おそらく彼女よね……。


「申し遅れました。ミレイ•ミズハラと申します。以後よろしくお願いいたします……美しき龍の国の方」


 最後は小声でそっと呟くと、その柳眉がピクリと動いた。


 ビンゴ!

 第三の勢力だったら面倒だな、と思ってたけど、こんなに分かりやすく反応してくれるなんて……むしろ助かるわ。


「お美しいドレスですね。艷やかな赤地のドレスに黒のレースがとても映えて……。宜しければ、この国の流行など教えて頂けませんか?」


 その言葉に、その場にいた全員が固まった。


『……えぇ。……よろしくてよ』

『水姫様!』


 挑戦的な了承の言葉と握りしめられた扇に、エリオールの焦りの声が重なる。


「エリオール様。私、皆様方と少しお話したく存じます。よろしいでしょうか?」

『それは構いませんが、私も同席いたします』

「あら、女同士の語らいに……男性が?それは少々無粋な気がしますわ」


 令嬢を背にしてエリオールを見上げる。その目は……邪魔しないで、と明らかに言っていた。


『水姫様?』


 エリオールに焦りが見える。

 それもそのはず。決して離れない、という約束のもと、今回ミレイが囮になることが許可されたのだ。


『随分高慢な方ですこと。……いいでしょう。いろいろと教えて差し上げるわ。いらっしゃい』


『お待ちください』

『まぁまぁ良いではないですか。エリオール卿。女性は女性同士ですよ』


 ミレイとエリオールの間に割り込んできたのはパウロス派の者だった。


 チッ。普段は大人しいくせにこんな時ばかり……。


 エリオールが次の言葉を紡ぐ前に、令嬢三人に囲まれるようにミレイは連れて行かれた。


 なに考えてるんだ。あの人は!?




『本日は通常の夜会と様相も異なり、水姫様歓迎の為に、趣向を凝らしたそうですわよ』


 令嬢に連れて来られたのは、壁際の軽食が並ぶスペース。

 王家が主宰なだけあって、饗される食事は格が違う。グリーンのリボンと生けられた花々が華やかで魅惑的な空間を作り上げている。

 テーブルの周りには若い令嬢から、年を重ねたご夫婦まで、軽食を囲んで会話に花が咲いているようだ。


『今夜は一段と華やかですわね!』

『えぇ、美味しそうデザートばかりで目移りしてしまいますわ〜』

 などと、可愛いらしい声も聞こえてくる。


 できれば私も向こうのご令嬢と仲良くして、料理を堪能したいなぁ〜。


『なんとも品のないこと』


 嘲笑混じりに呟かれた一言に、令嬢達は一瞬で黙りこむと、一礼してその場を離れていった。


 ……これが貴族社会なのね。

 上の者には反論もできないとか……好きじゃないなぁ。


『王家の夜会はいつもは荘厳な雰囲気で、格式高いものですのに、主賓に合わせたばかりに、()()()()と軽薄なものになってしまいましたわね』

『本当に嘆かわしいこと……』


 そう皮肉たっぷりに笑うのは、パウロス家の腰巾着と言われているナウグーリ家の令嬢、モニカ様……だったはず。

 シャーリー達から情報集めといて本当に良かった。


「古い考えに囚われず、柔軟に対応できるのは、むしろ美徳ではありませんか?」

『古き良き風習も、輝かしい歴史もないような種族に何がわかるんですの?』


 下の者には取り付くろうそぶりも必要ないってことかな。パウロス家のご令嬢は絶好調のようだ。


「……長命の龍族ならではの歴史は、とても興味深いものですわ。そうしますと、皆様が今お召しのドレスは何百年前のデザインのものになりますの?」

『失礼ね! これは今、王都で一番人気のデザイナーのドレスなのよ? これだから流行もわからない田舎くさい者は……』


 モニカ嬢はドレスを軽く持ち上げて、これ見よがしに見せつける。


「あら、おかしな事を仰るのですね。古き良き風習はどこにいったのでしょうか?」


 扇を広げてクスリと笑ってみせると、モニカ嬢は顔を赤く染めて、小さな屈辱に耐えるかのように口元を歪ませた。


『やはり()()()()()()は、上の者に敬意を払うことすらできないのですね』


 反論されたことが面白くなかったのだろうか、アングレール嬢が真顔になり、もう一人の令嬢もズイと前に出てきた。


 この令嬢は……。名前覚えたのに出てこない。まぁいいか。

 一人ずつであれば楚々としているのだろうけど、徒党を組むとやっかいになるのは、人間も龍族も同じなのね。


「敬意を払うべき相手には、きちんと払いますよ」

『……そう。では、こちらをどうぞ。あなたをイメージして盛り付けて差し上げたわ』


 差し出されたお皿には、肉や魚がデザートと重なり合うように盛り付けられ、お世辞にも美しいとはいえない代物だった。


『国賓のあなたに敬意を払って、上流階級のこのわたくしが、わざわざ盛り付けて差し上げたのよ』

『アングレール様のご好意よ。残さずに召し上がりなさい』


 ……これは料理に対する冒涜でしょ。

 ミレイの脳裏に、泣きながら夜会への意欲を口にした、料理人の姿が思い起こされる。


「なるほど……。パウロス嬢は独特のセンスの持ち主ですのね。王宮料理を日頃頂いていなければ、龍族皆様の美的センスを疑ってしまうところでしたわ」

『なっっ!』


 ミレイはお皿を一枚貰うと、トングを片手に流れるように三種類のデザートと果物を色どり豊かに配置し、仕上げにエディブルフラワーの花を添えた。


「いかがでしょうか?」


 ミレイの盛り付けに会場が湧いた。

 口々に『なんて美しい』『お店のものみたいですわ』と称賛の声が上がる。


 向こうの世界にいた時は、ブュッフェスタイルなんて普通だし、映える写真の取り方だって知ってる。

 現代を生きてきた私をなめんな!!


「この花はトレニアといって、私のいた国でも食用花として人気でした」


 花びらを一枚取り、そっと口に運ぶ。

 その優美な仕草に男達からほぉっと、溜め息が洩れた。


『貴女の国でも食用花が流通してるのですか? あれは綺麗な水がなければ栽培は困難です。人間の国の認識が変わる思いです』

「えぇ、水は生命そのものですから。私の世界でも、とても大切にしております」


 年を重ねたご老人が、嬉しそうに私の言葉を拾い、うんうんと頷いてくれた。周囲の視線も比較的、好感触のように思える。


 カシャン!

 パウロス嬢がテーブルの上に勢いよく皿をおいて、踵を返した。


「お待ち下さいパウロス嬢。そちらのお料理はあなた様が盛り付けたもの。きちんとお召し上がり下さい」


『こんなもの食べられるわけ無いでしょ!?』

「おかしいですね。先程、私に勧めてくれたばかりですが……。まさかご自身が召し上がれないような物を私に勧めて下さったのですか?」


『それは……』


 口籠るアングレール嬢を前にして、ミレイはこれだけは言いたかった。自身が盛り付けた皿をテーブルに置き、姿勢を正す。


「これら料理は王宮の料理人が心をこめて皆様の為に、陛下の為に作りました。料理人の皆さんが日々研鑽を積むからこそ、私達は美味しい料理を頂くことが出来るのだと思います。

 ──私の国の話をさせて頂きますと、食べ物や作ってくれる人に謝意を示すのは、我が国では普通のことであり、私達は食事の前に手を合わせて『いただきます』と感謝の言葉を口にします。

 これは昔から伝わる、()()()()だと自負しております」


 いつの間にか演奏も止み、シーーンとなった会場の視線は三人の令嬢達に向けられていた。その視線の意味に気付き、三人は『失礼するわ』と言ってホールを出ていった。


 わぁーー!

 令嬢達の姿が見えなくなると歓声が上がった。


『すごいのねぇ、貴女。パウロス家の令嬢が下がるなんて、おもいもしなかったわ』

『えぇ本当に驚いたわ。こんな事、今までなかったことよ』


「あ、ありがとうございます。ご歓談中、お騒がせして申しわけありません」

『いいえ、貴女の仰りように共感をもてるわ。ねぇ?』


 受けられて貰えたことが嬉しくて、思わず満面の笑みを浮かべるミレイに周りもつられて微笑んだ。


『水姫様……』


 受ける賛辞とは裏腹に、冷え冷えとした声に呼ばれて振り向くと、エリオールが険しい顔で立っていた。


『なぜこんな真似をしたんですか? 約束をお忘れですか?!』

「すみません。もちろん忘れてはいませんが、私が会議に参加した経緯を覚えていますか? 」


 エリオールは溜め息をつくと『……彼女が?』と不満気に聞いてきた。


「はい。少しカマをかけたら、すぐに反応してくれました。

 父親に命じられたのか、ご自身の判断かわかりませんけど……ぬるいと言うか、脇が甘いというか……」

『……そう、ですか』


 エリオールの頬がひくついた。


 ……水姫のパートナーを引き受けたのは失敗したかもしれない。やはり自分が討伐に行けば良かった。


 自分のパートナーと害獣討伐が心の中で天秤に掛けられているなど、ミレイは知るよしも無かった。




 その少し前のこと。

 ミレイと令嬢と遣り取りの一部始終を、食い入るように見ている男達がいた。

 会場内の紳士淑女とは違った視線を送る者達は、互いの存在を確認すると、到底紳士とは思えないような忌々しい顔をした。

 

『別に殺す必要はないんだ。だから大丈夫……。

 そうすれば私は……』


 男は二階からゆっくり降りると、ミレイを目指して歩き出した。



いつもお読みくださりありがとうございます。

ようやく夜会が始まりました。


皆さんに読んで頂けて嬉しいです!

これからもよろしくお願いします!

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