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第10話 森


 ミレイは森の中にいた。

 夜と朝の狭間で東の空が茜色に染まり始めている。

 明け方と言ってしまえばそれまでだが、ミレイはあえて「東雲(しののめ)」と呼ぶ。古語で使われるような言葉だが、その方が風情があるし、ミレイ自身もこの自然が生み出す色合いが好きなのだ。


 ──日本にいた時は、何度も見てきた色合いなのに森の中だとやはり違う。前方に目を遣ると、夜の黒と茜色が入り混じり、足がすくむ思いだ。身震いをするのは凍てつく寒さのせいか、恐怖のせいかミレイ自身よく解らなかった。


 飲み会上がりに良く見た茜色だけど、いつもなら妙な達成感でテンション上がるんだけど、流石にここでは上がらないな〜。


 リリスの後を歩きながら、考えている事は相変わらずである。

 でもこの性格だからこそ、この急な生活環境の変化にも対応できるのだろう。

 ……まぁ。ミレイが聞いていたら「異世界転移を田舎から都心に移ったとか、今年から社会人!みたいなレベルで言わないで欲しい! 」と、クレームを言われそうではあるが、どちらも個人の主観に違いはあっても「急な生活環境の変化」には違いはない……。




「痛い! リリスさん。待って〜」


 先を行くリリスは森の中とは思えない足取りで、サクサク進んで行く。

 「私の足跡を辿って歩きな」と、慣れない私を気遣ってくれたのだが、スピードが早すぎる。


「無理はしない。転ぶよ」と、振り返って忠告をしてくれたが少し遅かった。

「転びました〜」

「……早速かい」


 溜め息をつきながら、怪我をした箇所を治療してくれた。とても手際が良くて「リリスさん上手ですね」と、褒めたら「本職だからね」と言われた。


「……」

 互いに沈黙が流れる。

 デジャヴを感じるやり取りである。


 歩きながら聞いた話では、リリスさんは薬師──今で言うところの薬剤師と医者を合わせたような仕事をしているらしい。だから頻繁に森に入る必要がある為、森で暮らしていると言われた。

 

 話をしながらも、リリスさんはぬかるむ場所を見極め、薬草を摘み、きのこを採取していた。その間に私の世話をやいてくれて、休憩の時には水筒から温かいお茶を入れてくれた。


 これは完全に足手まといだなぁ。早く慣れないと。


 慣れていないとはいえ、へっぴり腰でついて行くだけでは申し訳ない。自嘲気味にそう評していると、リリスさんは立ち止まって、思いついたように言った。 


「ミレイは昔からのんびり屋なのかい? 」

「遅いですか? 」


 てっきり歩くペースだと思って、スピードを上げようとしたら、違うと言われた。


「仕事の話だよ。普通はもっと早くに何をしてるのか、とか聞いてくるもんじゃないのかい」

「はは……」


 呆れた口調で言われても反論できなかった。

 たしかに裏庭には色々な種類の草が干してあるし、奥の部屋は絶対に入らないように言われていた。


 「言われてみると家中、怪しい物がいっぱいありますよね〜」と、しみじみ言うと「怪しいものなんて一つもないよ! 」とすぐさま反論された。


 お互いおかしくなり笑いあっていた時、私はふと思い出した。


「リリスさん。もしかして私が最初に飲んだすごく不味い薬は……」

「わるかったね、不味くて。私が調合したものだ」

「やっぱり! リリスさ〜ん。いくら薬でも味も大切ですよ〜」


 頭を振りながら諭すように伝えてみる。


 「良薬口に苦し」と言うけど限度はあるでしょ。子供向けのシロップとは言わないけと、あのレベルの不味さはみんなキツイと思うのよ〜。


「村の人にしてみると病に苦しむか、薬の不味さに耐えるか、究極の選択ってことかな」

「あんた何気に失礼なやつだったんだね」

「あれ? 私、失礼なこと言いました? 」 


 何も考えずにポロっと言ったので、実感がない。


「まぁいいよ。堅苦しいのは好きじゃないしね」

それに、と後に続いた。「あれは効果だけを追求した特別な秘薬だから味は考慮してないんだよ」と、私を一瞥して言った。


「特別な秘薬ってかっこいいですね! 」

「まったくあんたは……」

「なんですか?」

「……いいや。なんでもないよ」


 意味ありげに呟いたあと、今日の目的地である、森の中心部に着いた。


 空気はひんやりしていて、霧も出ている。

 樹木の葉も朝露に濡れ、隙間から届く太陽の光で乱反射する様子は宝石のように美しく、とても幻想的だった。

 私はリリスさんに声を掛けられるまで、その光景に魅入ってしまった。


「森もいいだろ」

「はい! 」


 その後はリリスさんに聞きながら薬草を摘み、木の実をとり、自分用にもいくつか葉と花を摘んだ。


 帰り道、不思議な果実があったのでリリスさんに聞いたら、あっという間に刈り取ってしまい、あまりの男前ぶりに「リリスさんってかっこいいですよね〜」と真顔で伝えると「馬鹿いってるんじゃないよ」とコツンとされた。

 それが何だか嬉しくて、冗談で言った訳じゃないに……と伝えたら「尚悪い」……だそうだ。


 私は、笑いながらコツンとされた頭に触れ、帰りの道を足早に進んだ。


 行きよりはマシだったと思う……。




 不慣れな点や拙い文章ではありますが、モチベーションの維持にも繋がります。


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これからも宜しくお願いします。

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