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第106話 対策会議?

 


 部屋の壁一面に黄色みを帯びた赤い光が映しだされていた。射し込む窓の方を見ると、絵の具を混ぜたような茜色の空がひろがっていて時間の経過を物語っている。


 もうこんな時間なのね……。


 ミレイは淹れたての紅茶を水龍さまに給仕したあと、自分の分を向かいの席に置いたところポンポンと音が聞こえてきた。不思議に思って顔をあげると、水龍さまがソファの座面を叩いていた。


 えっ……なに?


 ポンポン 

 頬杖をついて無表情で音を鳴らせる。


 こっちに来いってこと?


「あの……?」

『なぜそちらに座る』


 少し不機嫌そうに見える?


「いえ、二人なら普通は対面で座りませんか?」

『まぁ、その場合もあるがお前は例外だ』


 それだけ言うと、またポンポンと座面を叩いた。今度は少し仏頂面で……。


 まるで小さな子供がだだをこねてるようにも見えて、ミレイは微笑ましい気持ちになり、要望通り隣に座った。


『……なにを笑っている』

「いえ別に」


 流石にかわいくて〜、なんて言えない。


 それを面白くなさそうに目を細めて見ると、ミレイに向かって手を伸ばしてきた。咄嗟にその手を押し戻して「それよりも……」と、現実的な会話をすることにした。


「真面目な話をしましょ」


 気が重いけど、話を進めないと終わらない。それなのに水龍さまはキョトンとした顔つきで『何を話すんだ?』と聞いてきた。


「なにって、あのいけ好かないおじさん達のことですよ」


『いけ好かないか……』


 ククっと笑うと『たしかにいけ好かないな』と楽しそうに言った。


 えーー?なんでこんな余裕なの!?

 頭にハテナマークが飛び交う。


『大丈夫だ。あのクズ共はこちらでなんとかする』


 あれ? 穏やかな声だけど……もしかして怒ってる?


 ほのかに怒りの秋波をキャッチしたミレイは「水龍さま?」と控えめに声をかけてみと、私の表情から何か感じ取ったのか、

『私は売られた喧嘩は買う主義だ。それが何百年も前の話であろうと、時間が止まっていたのだから有効だろう?』とニヤリと笑ってみせた。


 こわいーー!

 麗しいだけに迫力ありすぎ。


『なんだ。お前も陰謀崩しに参加したいのか? 策略謀略まみれで、いかに効率よく膿を出すか議論する場だが……。腹黒い意見が出せるなら、まあ考えてやってもいいぞ』

「いえ、遠慮させてもらいます」

『それが正解だな。ただ宝珠は預からせてもらう』

「私がその場に居なくても見れるんですか?」


 水龍さまは『私なら可能だ』と言うと、足を組み直してソファの肘掛けに体重を移し、ふぅと息を吐いた。


 ──ただそれだけのこと。


 おそらく水龍さまの頭の中で既に思考が始まっているのだろう。表情は真剣なものだった。


 それがまた良かった……。

 ミレイは『憂い顔、たまんない!』と、叫びたい気分だった。


 自然体でこれだけ色気を放出できたら、私も向こうの世界で無双状態だっただろうな。


 なんて馬鹿が考えも頭をよぎる。

 ──仮に装備していたとしても、鈍感なミレイは宝の持ち腐れのスキルには間違いないだろう……。


『どうした?』


 怪訝な顔で質問を投げかけられたが、ミレイは馬鹿な事を考えてるのを知られたくなくて、咄嗟に

「その会議ってサンボウも参加するのかな〜なんて思って」と口にした


 口にして思った。

 そうだ。サンボウを失脚させる狙いもあったんだ! でも……


『心配か?』

 ふと投げかけられた言葉。

 ミレイはゆっくり首を振った。


 心配と言えば心配に決まってる。

でもサンボウはそんなに弱くない。私しか知らない顔もあると思う、それと同じて私が知らない顔もあるはず


「私の杞憂なんて吹き飛ばすくらい、彼は強いし優秀ですから。そうですよね龍王陛下?」


 じっと見つめて意味有りげに笑うと、水龍さまは私の頭を撫でながら


『そのとおり。私は実力主義者だ』と言った。

『先刻まで心配心配と言ってたのに、どういう心境の変化だ?』


 長い手を杖にして、器用に頬杖をつきながら、興味深気に聞いてくる。


「…………ナイショです」

『なに?』


 フフッと笑ったミレイを面白くなさそうに眺める。


 教えてあげない。

 水龍さまを見てたからこそ、安心できた……なんて。


 水龍はグッと距離を縮めて、ミレイの腹に腕をまわすとそのまま体ごと攫った。先程と同じ『お膝に抱っこ』ポーズだ。


「ひゃあ。なにするんですか〜!」

『距離が遠い』

「遠くないですよ。適切な距離です!

 むしろコレは近すぎます!」

『適切かどうかは私が決める』

『横暴ですね』


 ムムっとして口を尖らせて反論した。


『横暴か……。前にひきこもりって言われたし、お前の中での私の評価はなかなか上がらないな』

「……たしかに! そんなこともありましたね〜」


 ミレイは少し懐かしくなって、クスクスと笑った。あれはまだ龍王国に入る前の話。


『こら否定しろ』

 水龍さまと反対側の頭を小突かれた反動で胸にしなだれるようなポーズになる


「……水龍さま、これは誰かに見られたら誤解されるのであまりやらない方がいいですよ」


 呆れ半分で進言してみる。


『これを誤解とするかどうかは私がきめる』

「……本当に横暴ですね」

『権力者だからな』


 ニヤリと笑い少し冷めた紅茶を飲む。

 私も半ば諦めてわかりました、と頷いて肩の力を抜いた。


 ほっとしたら喉乾いたな……。私も紅茶飲みたい。


 チラッと私の分のティーカップを見ると、察してくれたのか水龍さまが手を伸ばした。


 察するとか、デキル男はやっぱり違うわね〜


 関心してると、ミレイの手元にティーカップが渡されたが、それは水龍さまのティーカップだった。


「これ水龍さまのですよね?」

『お前のカップは遠くて届かないからな。かまわん飲んで良いぞ』


 かまわんじゃなくて〜……。


「……おろしてくれれば良いのでは?」


 思わず引き攣り笑いを浮かべてしまう。


『私の膝の上はそんなに嫌か』


 至極真面目な顔で、どうでも良いことを聞いてくるイケメン国王様。


 ……無言。

 外では鳥が鳴いている。鳥さえも家にかえるようだ。


「嫌です」

 ミレイは簡潔に極めてわかりやすく答えた。すると水龍は目を見開いて、明らかに驚いていた。


 なんで驚くの?

 膝抱っこなんて子供じゃないんだから嫌に決まってるでしょ!? いや、嫌と言うか、まぁ……。


「むしろ、なんで膝抱っこしたがるんですか?」


『…………ナイショだ』


 不貞腐れたような表情を浮かべながら、ミレイの言葉をもじった。


 なんだかは一本取られた気分。やっぱり水龍さまはいろんな意味で強いなぁ〜。




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