プロローグ
どこまでも続く深い森……
森には清涼な湖が湧き、動物があふれ、どこまでも穏やかな時間が過ぎていた。
ここは龍族が暮らす国。──龍王国。
代々、龍王が統べる国。
『目が回るような忙しさだな』
『仕方が無いです。久しぶりに水姫を迎えられるのですから。 団長も当日は護衛に付かれるのですよね。しっかりして下さい!』
『わかってるよ……』
王宮から届いた書状には水姫をこの国に迎える旨を通達する内容が書かれていた。
『人間がこの龍王国に入るだって? 問題がおきないといいけどなぁ』
『変なこと言わないで下さいよ〜。唯でさえ王宮も神殿もてんてこ舞いなんですから〜』
『ただの独り言だろ?』
『団長はたまに確信をつくから問題なんです。先日も陛下が仰ってましたよね』
『あぁ……そうだったな。宰相殿が嫌そうな顔をしていたな』
遣り込めたことが嬉しいのか、ククッと思い出し笑いをしてみる。
『私はこの書類を出しに行きますが、団長は当日部隊の再編をお願いします! 急ぎですよーー!』
バタン!
必要最低限の家具しか置いていない殺風景な部屋に静けさが戻る。
『随分と性急だよな〜。まぁ……水龍さまの望みなら頑張るしかないよな』
口元に柔らかい笑みを浮かべると書状を机の上に放り投げ、男は執務室をあとにした。
この忙しさも水姫を迎えるまで──……