王立学園の怪談~七不思議のふりをした王室の黒歴史と肝試し~
ある雑誌の新人記者が、王立学園に取材にきました。
時刻は生徒たちが帰宅した夕方。そこには濃い赤色の服を着た人物が、記者を待っていました。
「ようこそ、王立エーム学園へ。学園長のエリーです。
『月刊 怪奇マガジン モー』の記者さんですね?この度は、本校でまことしやかに語られている『七不思議』についての取材でしたね。
……怪奇現象ではないと何度も伝えているのに、わざわざ確認に来るのは新人の通過儀礼なんですかね?
では、さっそく校内を案内しましょうか。
……まずは『夕暮れに校庭を徘徊する老婆ですね。
少し暗いけれど、……あ、あそこを見てください。ちょうど居ますね、呼びましょうか。おいで!!ウマコ!!
え?ロバじゃないかって?そうなんですよ、馬じゃなくて驢馬なんです。
一昨年までここに通っていた王弟が初等部時代に『珍しい馬を見つけた!』と他国から連れて来たんですよ。
そして、そのまま『もういらない』と放置していきました。
その後、学園の厩で飼っていたんですが、最近は夕方に脱走するようになってしまって、困ったものです。
……え?次に行きたい?わかりました、ではこちらへどうぞ。
階段を上がってすぐ横が、『開かずのトイレ』がある男性用トイレです。
手前のド派手な個室の扉がそうです。
過去に通われていた何番目かの王子が『こんなところで、落ち着いて用が足せるか!!』と勝手に改装をしたんですよ。
取っ手の下に特殊な鍵があって、王族専用になっていたんですが、暗証番号を忘れてしまってそれ以降開かなくなってしまいました。
はいはい、違うところに行きたいんですね?
では、『血の涙を流す初代学長の肖像画』に行きましょうか。
こちらがその肖像画です。ええ、血の涙は流していません。多少きらびやかなだけで……普通の肖像画なんですよ。右下を見てください。
この絵を描いたのは、学生時代の女王陛下です。
初代学長は女王陛下の母方の曾祖父なのですが、『うちのおじいちゃまは、こんな平凡ではありませんわ!!』と元の一般的な肖像画を撤去して、『敬愛するおじいちゃまの肖像』というタイトルをつけて飾ったんですよ。
凄いでしょう、独特のタッチで。周りの額縁も女王陛下の手彫りなのですよ、……この赤い部分は、薔薇らしいです。
愛する曾孫の行動なので叱ることも出来ず、さらに女王になってしまって権力的にも敵わないため、初代学長は血の涙を流しているそうです。
実際には、見た瞬間に飲んでいたトマトジュースがむせて、逆流通り越して鼻から出たんですけどね。
全然、七不思議じゃないと言われても、こちらも困ってしまいます。怪奇現象ではないと最初から伝えていましたよ。
あとは『窓から覗く人影』と『放課後の不気味な歌声』と『特進クラスの中心で婚約破棄を叫ぶ女生徒』ですか?
……在籍中の王子たちですね。この間も授業をサボるために、窓から逃げようとして護衛に捕まっていましたし。もう少し頭を使ってほしいですね。情けないことです。
王女は合唱部で……毎日練習に励んでいるのですが……王族はなぜか芸術面が独特でねぇ。幼い頃から音楽家に指導を受けていたはずなのに、不思議ですね王族の遺伝は。
最後のものは、特進クラスの伝統の劇のタイトルですね。正確には『特進クラスの中心で婚約破棄を叫ぶ』です。
数十年前に実際にあった事件をもとに、『二度とこのようなことを行わないための教訓』として代々行っています。
最終学年の特進クラスにいる、一番身分の高い生徒が主役になります。今年は王女が主役なので『女生徒』なんでしょうね。
今年はミュージカル風らしいので、宜しければ取材に来ますか?お望みの阿鼻叫喚が楽しめると思いますよ。
ちなみに、全校強制鑑賞です。
以上でしょうか?
え、六つしかない?
最後の七不思議は……『夜になると髪が伸びる学園長』ですか。
……ふふ、今の私の髪の長さは伸びる前なのか、伸びた後なのかどちらでしょうね。
正しい内容は『長い髪の血まみれ学園長』だよ。姿を見られても、七不思議に託つけたら、どんなことがあっても怪異ですむだろ?
さて、いい記事は書けそうか?
え、怖くて書けそうにない?こんなの書いたら王室に処刑されるって?
そうだな。たくさん王族の秘密を知ったからなぁ。
……だが、『怖い』と感じられるのは、いい感覚だぞ。
これからもその感覚を失わなければ、いい記者になれるからな。『週刊パ・パラッチー』の新人さんよ。
何を驚いてるんだ?裏取りは基本だろう。何年かに一回、こういうするからなぁ、お前のとこ。
……でも、残念だな。
いい記事になるって言ってくれてたら、息子たちが改造して四足歩行するようになった、骨格標本の代わりが作れたのになぁ」
ある夫婦の会話
「わたくしの黒歴史は調べればわかることだけれど、部外者が王族を面白おかしく勝手に記事にするのは許せないわ!」
「事実だからなぁ、うちの王族のやらかしは」
「うちの子たちが黒歴史を量産しないように、あなたが見張っていてちょうだい」
「……下の子の卒業まで、十年くらいあるんだが」
「あなたのお仕事は、わたくしの補佐でしょう?わたくしが安心して国政に励めるように、家族のことはよろしくね」
「……(丸投げされた!)」
王族がやらかすので、王族以外が尻拭いが大変な話。