カースト最下位の俺、イギリスからの転校生に何故か超溺愛されているのだが。「あなたのような人、大好きです」って照れるからやめてくれ。
俺こと、佐枝潤が思うに、ラブコメってのは現実では再現不可能だってことだ。
どんなに頑張ろうと、あんなのを実現できるのはクラスカースト上位の奴らで俺のような陰キャが再現できるものではない。
それは間違いのない事実のはずなのだ。
けれど――。
「あなたのような落ち着いた人、大好きデス」
どうして俺はイギリス人美少女に溺愛されているんだ?
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
始まりは新学期の初日だった。三学期制ということもあるので、二学期の始まりは夏休み明けである。
俺はいつものように教室の扉を通過し、誰にも挨拶されることなく着席する。
内心、くそ寂しいなぁなんて思ってもいるが打開策は今の所見つかってはいない。
見つかったところで実行するかどうかは別であり、俺はきっと実行しない。そもそもできない。
スマホを適当にいじっていると、担任が入ってくる。ハゲ散らかった頭皮を掻きながら、教卓に立つ。
そして、大きくあくびをしてから――。
「転校生を紹介する」
そして、教室の手前の扉から一人の少女が入ってきた。
金色の長い髪に端正な顔立ち。高い鼻梁にモデルのようにすっとした体型。ブレザーがとても似合っていて、思わず見惚れてしまう。
「はじめまして。サーシャデス」
流暢とは言えないが、綺麗な日本語で彼女は自身の名前を言った。
天使のような声に思わずドキリとしてしまう。
なんて可愛いんだ。
そう思い、俺は顔を伏せた。
目があってしまったのだ。緑色の宝石のような瞳と。
「それじゃあ、サーシャ。お前はあそこの席な」
そんな声が聞こえた。
そしてふと思う。俺は窓際の席、教室の最奥に位置している。
人数の関係で他の列からは頭ひとつ抜けていて、異常に目立っている。
そう。つまり俺の隣には誰もいないはずなのだ。
けれど今見てみれば隣には空席がある。
顔を上げて彼女を見てみると、明らかにこちらの席に向かっていた。
サーシャさんが隣を通過する。
シャンプーの香りが鼻孔をくすぐった。
「よろしくネ」
「ああ……よろしく」
小首を傾げて言うものだから、思わず吹き出しそうになってしまった。
その姿が愛おしすぎて心臓が痛い。
彼女は席に座り、担任のくだらない話を熱心に聞いている。
そしてホームルームが終わり、彼女はクラスメイトに囲まれていた。
それもそうだ。海外からの転校生。興味がわかないはずがない。
けれど俺はあまり関わらないことにした。
何故なら目立ってしまうからだ。
カースト最下位の人間が目立つとどうなってしまうのか。
答えは簡単で「あいつ生意気じゃね?」と判断されて処刑されてしまう。
無慈悲な世の中なのだ。しくしく。
「ねぇ。あなた、気に入ったわ」
きっと、俺以外の誰かに言っているのだろう。
早速こんな美少女に気に入られるなんて羨ましいな陽キャラ野郎。
しかし、サーシャさんは陽キャに言ったのではなかった。
俺の右腕に違和感を覚えたかと思うと、ぐっと引っ張られる。
なんだ、と思い顔を上げるとそこにはサーシャさんがいた。
そして俺の右腕を引っ張っているのだ。
「ど、どうしたの。サーシャさん」
「皆に囲まれて息苦しいノ。逃げましょ」
「え、ちょっと――」
しかし、彼女は俺の返事を待たないまま駆け出した。
俺はただひたすらに引きずられながら廊下を走っている。
クラスでは喧騒が飛び交っている。
けれどサーシャさんは止まらない。
「ど、どこに行くの?」
「屋上ヨ」
振り返って、彼女はウィンクした。
その姿が妙に色っぽくて、俺の心臓はずっと早鐘を打っていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ああ。だめデスね」
ガンガン、と屋上に繋がる扉を叩いているサーシャさん。
俺はその隣で嘆息しながらその様子を見守っている。
「だから言っただろ。この学校は屋上、封鎖されているんだ」
「アニメでは空いているって言っていましタ」
「アニメだけな、それ」
頭を掻きながら、階段に腰を下ろす。
彼女も倣って俺の隣に座った。
こう、改めて見ると横顔も可愛らしいものだった。
いつかのテレビで見たような、ハリウッド映画に出てくる女優のような風貌をしている。
うっとりとして見ていると、彼女が口を開いた。
「私、あなたのような人が大好きなんデス」
「ぶぼっ!?」
思わず、吹き出してしまう。
好き……好き!?
ちょっと言っている意味が分かりませんね。
これがアメリカンジョークと言うやつですか?
でも彼女イギリス人だよな。んじゃこれってマジなのか?
「そ、それはどうしてなんだ?」
訊いてみると、彼女は微笑して答える。
「からかい甲斐があるからデス」
「なんだそれ」
んじゃ、俺は結局陽キャ共にからかわれているのと同じことじゃないか。
まあ……彼女のような人にからかわれるのは悪くないと思うけれど。
ってこれじゃあドMじゃないか! 戻ってこい俺の正常な思考。
「ねえ。あなたって昔イギリスにいたことありマスか?」
真剣な形相で訊いてくるものだから、思わずたじろいでしまう。
顎に手を当てて考えてみる。
うーん。俺はずっと日本にいた気がする。てか海外にいたのなら、今頃コミュ力お化けになっていたはずだ。
首を振って返答する。
「そうデスか」
残念そうに地面を見据えるサーシャさん。
俺はどうすることもできなくて、ただただ天井を仰ぐことしかできなかった。
「あの。今度遊びに行きまセンか?」
「遊び? 別にいいけれど」
「やったー!」
承諾すると、彼女はその場でぴょんぴょん跳ねて喜んだ。
階段の上だったこともあってヒヤヒヤとする。
「これ、お礼デス」
そして、俺にハグをしたのだった。
彼女に香りがダイレクトに鼻孔へと届く。
柔らかな何かが俺の胸に触れている。
ずっと心臓はバクバクと脈を打っていて、思考はまとまらない。
えっと……俺は一体どうなっているんだ?
「それじゃあ、また」
そう言って、彼女は階段を降りていった。
俺はただ彼女の背中を呆然と眺めるのみ。
――キーンコーンカーンコーン。
「やばっ!」
チャイムが聞こえたので、慌てて俺も彼女の背中を追っていく。
その間も、ずっと体はフワフワとしていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「さて、お弁当タイムデス」
「ああ。いいけれど」
正直、唐突すぎて状況が飲み込めないでいた。
周りからは俺の噂話が聞こえてくるし、勘弁してほしいとも思っている。
けれど、転校生を無視するなんて酷いマネは俺にはできない。
なので付き合うことにした。
リュックから弁当を取り出し、彼女の隣を歩く。
サーシャさんはコンビニパンの袋を握りしめていた。
「あそこに行きましょう」
言われるがまま、彼女に着いていった。
到着。そこは数時間前に訪れた場所。屋上へと繋がる階段だった。
腰を下ろして弁当を開く。
中にはミートボールやパスタ。簡単なサラダ等が入っていた。
対して彼女はメロンパンのみである。
もぐもぐと口の中に頬張ってはいるが、すぐに平らげてしまった。
「足りません……」
「そりゃそうだろ」
嘆息しながら、弁当の蓋にミートボールやパスタを置く。
そして、彼女に差し出してやった。
「ほら、食べなよ」
「いいんデスか?」
目をキラキラと輝かせて訊いてくる。
ゴクリとツバを飲み込む音も聞こえた。
「ああ。俺、あんま食欲ないし」
あなたが可愛すぎて心臓が破裂しそうなのです。
言うと、彼女は俺の箸を奪い取ってもぐもぐと頬張り始めた。
「あ、それ間接――」
「美味しいデス!」
間接キスだよ、と指摘しようと思ったのだけれど、彼女の笑顔に打ち消されてしまった。
「あなたが作ったんデスか?」
「いや、俺の母さんが作ってくれたんだ。美味いだろ?」
「はい! もう、今すぐにでもあなたと結婚したいです!」
「…………」
その冗談はやめてくれ。俺に効く。
恥ずかしくなってしまい、彼女から目をそらしてしまう。
とにかく顔が赤くなってしまっているのを隠すために壁を見据えていたのだが――。
何かが俺の頬に触れる。
「ご飯粒、付いてる」
振り向いてみると、彼女の人差し指にはご飯粒が付いていた。
どうやら俺の頬に付いていたらしい。
「と、取ってくれたのか」
「ええ。嫌デシた?」
「嫌、逆に――」
と、ここで嬉しいと言ってしまうのはさすがに気持ち悪いのでやめた。
しかし言い淀んだことが気になったのか、サーシャさんは追求してくる。
「逆に……なんデスか?」
「いや……だから……」
「嬉しい、だったり?」
「あ、いや……」
本当に、反則すぎるだろ。
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