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第二十話 おっさんずトーク

申し訳ない、ギャグ回です。

 ベルナール邸での夕食中の歓談で、ベルナール大公が出兵した戦争の話になった。


「異界へ繋がるという巨大な虚について何かご存知ないですか? 戦争の際にバダブの民が生み出したという……」


 私の質問にベルナール大公は苦笑いする。


「やはりオールドマンの血統か。オールドマンは異界の神々に愛され、そして異界を志向する。君の父君とてそうだ。

 ……あの虚は四大貴族が一角コンスタンティーノ家の持ち物だ。近辺にはコンスタンティーノの私兵までいる、虚を肉眼で捉えることすら容易ではあるまい。近づいたところで何も得るものはないだろうがな。あれは今やただの穴に成り果てた」


 彼はぶどうジュースを口に運び、目を細めた。


  *


 翌朝、雛鳥のようにくっつき合って眠る姿をベルナール大公に見つかり大目玉を喰らう。当然といえば当然である。アダム王子はまた泣いていた。私は説教のほとんどを聞き流した。

 着替えも終わり、ぽんやりとアダム王子と朝食を食べていると疾走してくる馬車が見えた。やたらと見覚えがある馬車である。


「リリアぁ! 私のかぁいいリリアぁっ! この国で一番の美丈夫と謳われるお父様が助けに来たよぉ!!」


 聞き覚えのある声の主は馬車から体を乗り出して叫んでいる。石っころに引っかかって車体が大きく揺れ、声の主は馬車から転がり落ちる。旦那様ぁ! という悲鳴がここまで聞こえてくる。


「『戦場の音楽家』め……!」


 椅子に座ってコーヒーを飲んでいたベルナール大公は忌々しそうに大きな舌打ちをする。


「リリア嬢、はっきり言っておく。君の父君とは先の戦で死線を共にした仲だが、私は奴が大嫌いだ。トラウマになるレベルで音痴だし、生理的に無理だ。奴との会話は聞くに耐えないものになるが聞き流せ」


 私たちは慌てて準備を整え城門まで行くと、そこには満身創痍のお父様とそれを介助するテオがいた。テオは私を見つけると泣きそうな顔になった。


「ベルナール大公! 貴殿のせいで有能な使用人を流出、娘とは絶縁、私は馬車から落ちて全身傷だらけだ!

 私がボロボロになったのは気持ち良いから良しとしても、貴殿のせいで我が家はしっちゃかめっちゃかだ! このド外道が!」

「黙れうんこマゾ野郎! その怪我は貴様がこさえたもんだろう! 嬉しそうにしやがって! ほら、リリア嬢も貴様のマゾっぷりに引いてるぞ!」

「あっリリア! 私の可愛いリリアー! 絶縁なんて認めません! こんなのこうだ!」


 お父様は私が置いてきた絶縁状を破り捨てる。


「見切り発車でここにリリアがいると踏んできてみたが本当にいた! よかった! 流石私! 私すごいぞ!」

「早馬はどうした!」

「それっぽいの道中で見かけたけど貴殿とできるだけ関わりたくなかったから華麗にスルーしましたぁ〜」

「このお間抜けさん太郎が!」


 お父様とベルナール大公はくんずほぐれつの殴り合いを始める。私はお父様の知られざる性癖に心がついていけなかった。アダム王子は所在なさげだ。テオも巻き込まれまいとこちらへ来た。


「リリア嬢の懇願があったから見逃してやるが、そも私はバダブの民の『禍ツ除け』だなんだを一切信用していない! 『鍵』は百歩譲って信じたとしよう、だが先の戦争は『禍ツ除け』であるバダブの民を消すためだなんて暴論、誰が信じるすっとこどっこい!」

「『鍵』っていうな! ちゃんとイヴって名前があるんだぞ! それに私の研究を否定するな!」

「名を隠せ痴れ者が!」


 私は耳を疑う。


 イヴ? 『恋と邪悪な学園モノ。』の主人公の名前ではないか!


「お父様! イヴという名は……」

「そうやって大口叩けるのも今のうちだい! 貴殿と対立すると干からびるから目くそみたいな命令も従い続けたけど、もう限界だ! 私の可愛いリリアだって覚悟を決めた、次は私の番だ! 決闘しろ『血塗れの嫉妬卿』!」

「お前の領地に食料と水輸出せんぞ!」

「ごめんなさいそれだけはやめてください」


 ふたりに私の声は届かない。彼らはそのままベルナール邸に設えられた闘技場へ歩き出す。

 何かを思い出したかのようにベルナール大公が戻ってくる。うしろでは逃げんな腰抜けへっぽこ太! とお父様が叫んでいた。


「黙れ腹黒狸が! ……見苦しいものを見せてしまったな」

「えぇ本当に」


 うっかり私の口から本音がこぼれる。


「……三人とも自宅へ戻れ。リリア嬢、私はこれから君の父君を半殺しにする。別に許してくれなくていい。

 さて、お前がテオか」

「はい」

「私はレオン・ベルナール。お前を解雇しろと言い出した者だ。お前がいるだけでオールドマン家はいらぬ災難を被るだろう。バダブの民というだけでお前は害悪なのだ」

「……存じております」


 私が声を上げようとすると、ベルナール大公が目で私を制してくる。


「だがな、リリア嬢は己が手を切り裂いて畏れ多くもこの私に人道を説いた。バダブの民にも同じ赤い血潮が流れているとな。はっきり言おう。彼女はお前が人生を賭して仕えるに値する人物だ。この先の人生で、彼女以上の主は現れないだろう。

 リリア嬢は地位を投げ打ってでもお前を守ろうとした。その恩義を忘れるな」

「はい……!」


 テオは頭を深々と下げる。

 ベルナール大公それだけは言うと私たちに背を向けた。


「テオ! 安心してくれ! この傾国のイケメンであるアーサー・オールドマンが必ず君の安寧を守ってみせる! 血便になりながら死んでくれレオン!」

「それはすでに取り消した! 貴殿の働きではなくリリア嬢の功績だ! 今更でしゃばるな目立ちたがりめ! イボ痔を患って激痛で死んでしまえアーサー!」


 まるで子供の喧嘩のように喚き散らすふたりを見て、アダム王子が呟く。


「なんなんですか、あのふたり……」


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