Tale5:仮想と現実の橋渡しをしましょう
農場での魔物退治を終えて。
そこから、まだ時間があったので、私とスラリアはもうひとつ依頼を行うことにした。
「お姉ちゃん、これで合ってる?」
「おー、正解。ミリナちゃん、あたま良きだねー」
よき? と女の子が首を傾げる。
女の子の後ろで、スラリアも真似するようにぷにゅっているのが目についた。
冒険者ギルドに寄せられる依頼には、冒険っぽくないものも含まれている。
その中のひとつ『娘の勉強を見てください』を受けてみることにした。
この街には学校というものがなく、代わりに神殿が教育を行う役割を担っている。
しかし、農作業とかで忙しい子どもは、神殿に行く時間を確保できないことも多いらしい。
「円すいって、なーに?」
ミリナちゃんは、神殿に行くことができていない農家の娘だ。
でも、配布されている教科書を使ってまじめに勉強をしている。
ふわふわな癖っ毛が可愛い、10歳ぐらいの女の子だ。
「スラリア、円すいになってくれる?」
「ぷにゅっ」
ぷにゅぷにゅぷにゅ、とスラリアが形を変える。
勉強を始めてから一時間ぐらい経つけれど、ミリナちゃんは集中が切れる様子もなくがんばっていた。
「これが円すい、底の面が円形なんだね」
スラリアを両手で抱え上げて、ミリナちゃんに見せた。
ちょっと角が丸いけれど、まあ、問題はないだろう。
「ほほー、なんかお野菜みたいだね」
「あー、確かに……?」
なんだろう、玉ねぎとかかな。
どちらかと言えばイチゴっぽいけど。
スラリアの色が青いから、食べ物で想像しづらい。
「じゃあ、円すいを展開すると、どうなるのー?」
「展開図の問題ね。よし、スラリア、展開して」
「ぷにゅにゅにゅ!?」
こんな感じで、『テイルズ・オンライン』の世界では、あらゆる物語を紡ぐ用意がされているようだ。
まさか、学校の先生になるという現実世界での私の夢、その練習がゲーム内でもできるとは思わなかった。
最近のゲームってのは、本当にすごいのね。
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「お姉ちゃん、また来てねっ」
嬉しいことに、ミリナちゃんは私に懐いてくれた。
元気よく振られた手に、私も半分ぐらいの元気を乗せて返す。
「ぷにゅっにゅにゅー」
スラリアが残りの半分を担っているから、ちょうどいいだろう。
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【スキル】知恵の泉を取得しました!
思考速度を零程度だけ増加します。
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郊外のミリナちゃんの家から、街の冒険者ギルドへの道すがら。
さっき獲得した、知恵の泉のスキル効果を確認する。
「思考が速くなる……うーん、なにかが変わった感覚はないなぁ」
「ぷにゅにゅぅ?」
頭の中で素数を並べてみたけれど、いつもより速かった気もするし、そうでないような気もする。
「まあ、零程度って書いてあるし、こんなものなのかも」
「ぷにゅぷにゅ」
ふりがなが振られていないけど、零ということはないと思う。
スキルの意味がなくなっちゃうからね。
「オージちゃんのところに依頼の達成報告に行ったら、今日は終わりかな」
「ぷにゅにゅー」
「いや、ギルドに行ってから終わり、だからね? まだ帰らないからね?」
相変わらず、去り際になるとなんだかドライなスラリア。
ちょっと寂しいから余計にぷにぷにしながら、私はのどかな街道を歩いて行った。
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【名前】リリア
【レベル】4
【ジョブ】テイマー
【使用武器】スライム:習熟度3
【ステータス】
物理攻撃:10 物理防御:25
魔力:25 敏捷:5 幸運:15
【スキル】スライム強化、なつき度強化、勇敢
知恵の泉
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