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特異でいいじゃん!  作者: クロリ
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吸血鬼の釈明 & side ファフニール 01

 

「本当に、ですか?嘘ですよね?加護の契約だなんて……」

「嘘じゃないよ。今度は本当に……なんて言っても説得力ないけど。でも、これを見て」


 私はシャルの手首を掴み、その手の甲を見せる。

 そこには私の通り名に似た黒い薔薇の刻印が刻まれていた。


「嫌かも知れないけど、ちょっとだけ我慢して。さっき言った通り契約は次の新月の日……ちょうど二日後までだから」

「っ!……そう、なのですね。分かりました。あの……恥ずかしながら加護の契約について私はあまり知識がないのですが、お教え願えますか?」



 そっか。

 話し方から全部知ってること前提で話を進めてたからそりゃ置いてけぼりになるよね。


「それなら私が説明しますよ?」


 と、そこに笑顔のシエルが話に割り込んでくる。

 そして一瞬私を汚物を見る目で見ながら小さく舌打ちをされる。


 あ、やべ。完全に存在を忘れてた。

 めっちゃ機嫌悪いですよね。



「シャルロットさんがされたのが【守護の契約】で、私が何故か、強制的に、私がやられたのが【隷属の刻印】なのは分かりますか?」



 ……シエルさん、顔が怖いよ!

 なんでこっち向いてるの?!


 そりゃまあ、私も悪かったとは思うよ!

 でも仕方ないじゃん!……多分。

 まぁ、この流れで特に考えなしで隷属しちゃったなんて言えないけども。


 でもでも!シエルなら私をセーブしてくれるし、隷属したらパシリとか盾にされないかなって思ったんだもん。

 だから……それに、後でなるべく早く隷属は取り消すし!


 そんな私の心境を知ってか知らずか、シエルの笑顔の圧は増していく。


 こ、恐い。

 魔物なんかよりもずっと恐いよ。



 そんなかなりやばぁーい雰囲気を切り裂いた勇者がいた!

 その者、シャルメシア!



「あの、具体的には何が違うのでしょうか?」

「え?えっとですね……」


 ナイスゥウ!!

 前に私を襲いに来た聖女よりもずっと聖女に見えるよ!



 なんて盛り上がっている私を横目にシエルは話し出す。


「まずシャルロットさんが掛けられた方は【守護の契約】と言って、対象者と加護を誓う者の間にある程度の信頼感がある事と、加護を掛けるものに膨大な魔力がある場合のみ、発動できるおまじないみたいなものなので、()()()()()()()()()()、害はありません」

「そう、なのですね……でも私には、ということはエレセリア様には害が及ぶのですか?」


 シャルが不安げな瞳でシエルに問いかける。

 しかし、シエルはニコニコ笑顔をやめ、私を鋭い眼光で射抜く。



 あー、これ、自分で言わないといけない感じ?

 恥ずかしいからシエルに説明全部放り投げようと思ってたのに。



 …でもシャルが!

 プルプル震えながら小動物みたいな目で見てくる可愛い!


 ……はぁ、しゃあないか。



「えーっと、ね。加護を与えた私は、簡単に言うと、シャルが危険になると自動的に私の魔力を使って防御結界を張り、シャルを守る。今回の場合、私の魔力量で無理やり成立させた加護だけど、シャルに危険は及ばない!」

「エレセリア様は、どうなってしまうのですか?」



 うーん……やっぱそこに行き着くか。

 でも全部言うのはなぁ。



「シャルの命令を聞くようになる!」

「そんな…」

「大丈夫!シャルが取り消せば無しになるから!」


 これは本当。



「他にはないですよね…?」

「ないよ!まあ要するに、私が護衛になったみたいな!!」



 これは嘘。


 加護は軽い気持ちでするものじゃない。

 場合によっては加護者の命を使って加護を掛けた者を優先することもあるから、最悪の場合加護者は死に至る。


 だから、最後までは言わない。




「……じゃあ、命令です」

「はい…?」

「本当のことを全て言ってください」



 やべ。


 むぐぐぅ!

 口が勝手に…


「加護を受けた者が死ぬと今回はオプションで加護者も死にます!」

「……嘘つきなんですね」



 ああぁああぁ!!!!


 だから!だから言いたくなかったのにっ!!!

 隅で笑ってるシエルからまた吸血してやりたい!!



 私は天使に知られたことと秘密にしようと心に誓ったダブルの恥ずかしさで檻の中をゴロゴロと転がりまくり、シエルに蹴り飛ばされた。

 痛いよー。ひどいよー。


 くっそぉ、こいつ、私が逆の立場なら……



 ……そうじゃん!

 シエルって今隷属してるじゃん!


 そうと分かれば即実行!


「シエル、立って。抵抗はなしで」

「はぁ?なっ!?え?!」



 私の命令通りにシエルは素直に立ち上がる。

 ふっふっふ。ぬかったな!


 これからさっきの辱めをお前にも味わってもらうぞっ!!


「シャル、まだ【隷属の刻印】については話してないよね?」

「は、はい…?でも、なぜシエルさんをお姫様抱っこしているんですか?」



 そう、私は今シエルを姫抱きしている。

 シエルはというと、私の腕の中に大人しく収まっている。

 まぁ騒いではいるけど。


「これが加護と隷属の一番の違いだよ。加護は自分の魔力を代償に拒否もしようと思えばできるっていう抜け穴が沢山あるんだけど、隷属は上下関係がハッキリとしてるの」

「降ろしてください!こんな侮辱、後で何倍にもして返してやりますからね!!!」

「はいはい、じゃあ降ろしますー……外に出てから」

「はあ!?外でもなんてふざけないでください!訴えますよ!」


 真剣なんだけどなあ〜。心外だなぁ。

 仕方ない、降ろしてやるか。


 よっと、と?ととっとととっとととっ!?


 やばっ!足がもつれてっ、シエルは上にっ……ぶつかるっ!?



 ーーガチッ


 そんな音とともに、唇に柔らかい感触が吸い付く。



 …それよりも、唇切れた。

 歯茎がクソ痛い。

 とにかく痛い。

 自分の血が口内に広がってくるよー。


 ……でも、甘い…?



 そっと目を開けると、綺麗な青空が広がって……あ、これ、シエルの目だ。




 ……んん?



 私たち、リアルちゅーしてる……?


 というかシエルが退かないと、私動けないんですけど…



 数秒経って、シエルが漸く唇を離し、軽いリップ音がなる。


 なっ……がっ!

 そういうのは好きな人と恋人以上になってからするんだぞー?


 うーん……ま、それはいいや。

 女の子同士だし、とっくに吸血したされたの間だし。


 でも押し倒されてるから長い髪がカーテンみたいになって、白金色に輝く空の中に青の宝石が二つ煌めいてるみたいで綺麗だなー。

 ほんと羨ましいくらい綺麗な色だ。


 ま、私にはこの闇夜のようでカッコいい黒髪があるから!

 ちょっとしか羨ましくないし!


 でもなんでシエルは顔が赤いんだろう?

 今更過ぎない?まぁ可愛いし萌えるから寧ろばっちぐーだけども。



 でもさ、その気持ち、分かる。

 とっくに唇は離れているけども、これだけカッコいい私を逆床ドンだからね!

 今までも私、女の子にいっぱい告白されたことあるし。




「お二人とも、大丈夫ですか……?先程からお二人とも微動だにしていませんので…」



 すると、ショートしたシエルとその下で動けない私を心配する声が掛けられる。


 あぁー、シエルはきっと文句と蹴りをいれてくるんだろうなぁ。

 あれ地味に痛いんだよね。



 しかし、シエルは無言で倒れそうになりながら立つと、私から離れたところでぶつぶつと何やら呪文のように落ち込み出す。


 そこの天使、失礼だぞー。

 私、魔界じゃ結構モテてたんだからなー。


「……シエル?」

「だっだだいじょうぶです!平気です!すみません重かったですよね!すみません!!!」

「えっ、うん?大丈夫だけど…?」


 あ。

 分かった。きっとシエルはーー



「初めてだった?」

「言わないでくださいっ!!」

「えっ、本当に!?てっきりもう経験済みかと思ってた…」

「初めてで悪いですかっ!!もう…不潔です……」


 す、すまねえ………そうだ!



「じゃあ、私が責任とるよ!」

「はぁっ!?そっ、それってまさか、けっ……っ!!」


 シエルは茹で蛸に変化した。

 なぜに今黙り込むかね?


 でも察しのいい私はキメ顔&イケボで宣言する。


「うん、もちろん!シエルの主人の間はね!」

「……ッ!!!」

「痛いっ!?なんで無言で殴るの!?」

「……私は天使様の味方です」

「なんで!?」


 わけわからん!!

 世の中不平等だよー!


 誰か私の味方はいないのかー!!!!



 *****



 一方、少女達のいる地下牢の真上ではーー



「……チッ」


 竜人の青年がメイドの少女にちゃっかり頼まれた人族領でしか入手出来ないナマモノの買い出しや、自分の人間に見える外見にハエのように群がってくる女性(メス)どもに苛々としていた。



(これだから人族はキライなんだよ。見た目でしか判断しない上に竜の時は僕の爪とか皮とか狙って〈ボウケンシャ〉って言う鬱陶しいのが来るし………でも、何でご主人様いないんだろう?この辺りにいると思ったのになぁ)




 青年の怒りが砂時計の砂のように時間が経つにつれ高まっていく最中、そこに一際目立つ貴族の物らしい馬車が、青年の眼前で止まる。


 そして可愛らしい顔立ちをした少年が二人飛び出して来ると、片方の少年Aがスルーしようとしていた青年の荷物を奪い取り、もう片方の少年Bが青年を羽交い締めにし……ようとした。


 そして少年Aが奪い取ったはずの荷物は、もうその腕の中には無かった。


 すると馬車の扉から派手な身なりと濃い化粧をした女性が出て来る。

 そして右手に持った馬用の鞭で少年達を叩こうとし……また、その手に持っていた鞭が消えた。


 いや、消えたのではない。

 取り上げられたのだ。

 馬車の上空を背から生えたアメジスト色の翼で飛ぶ、青年の魔法で。



「そーゆー人攫いみたいなことするんならハエ同士でやれよ。見ててウザいんだけど?」



(……なんで僕めんどくさいことに巻き込まれるんだろう?本当に、これだから人族(ハエ)はキライなんだ)


 青年は迷子の末、巷で問題になっている美少年攫いに目をつけられるも、めんどくさいので荷物を小さなポーチに仕舞い、自分の主人を探しに飛び去るのだった。




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