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カードチェス  作者: 破天ハント
第二部第三章︎︎ 準クリエイター編(後編)
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第二十四話〖将棋〗

遠征編では、カードチェスの由来でもあるチェスや将棋類の対戦をします。ほかにも、囲碁とか麻雀など様々なゲームをプレイします。カードチェス以外のカードゲームもやります。


お い 、 カ ー ド チ ェ ス し ろ よ 。


【一】


 遠征先の対局所に到着したカイザとタクミ。徒歩で追いかけてきているギンガとケイマよりも、ひと足先に対局室へ⋯⋯と思ってドアを開けると、すでにギンガとケイマの姿があった。

 ドアを背にして座るケイマ。その広い背中とトゲトゲヘアーの後頭部は、間違いなくケイマだった。

 その向こう側には、行儀悪く立膝をついてイスに座るギンガ。余裕を含んだ表情で盤面を見つめ、駒を動かしている。

 どうやら、ふたりは対局中のようだ。といっても、カードチェスの対局ではない。将棋の対局だ。


「おう、カイザァ。ほんでタクミィ。遅かったやんけ。安全運転かぁ? それとも、先に入るんが怖くてわざと遅れてきたんちゃうやろなぁ?」

 カイザたちに気づいたギンガは、ニヤニヤ笑いながらタクミに軽口を言って挑発した。


「なんだとコラ! オレと対局しやがれ!」

 対局室に入って早々、頭に血が上ってギンガに対局を挑むタクミ。

 なんだかんだ言っても仲がいいふたりだ。


「ままま待ちくたびれたぜい、カイザ」

 ケイマはふたりの声に反応し、背もたれごしに身をよじって振り返った。カイザの姿を確認すると、豪快に笑って手招きをする。


「どうして僕たちよりも先に来れたんだよ?」

 カイザは目の前の光景に驚いて、とっさに質問をぶつけてしまった。が、わざわざ聞かなくても答えはすぐに思い浮かんだ。


「おおおおでのクリエイションを使ったのさ」

 カイザの自問自答になってしまう前に、先にケイマが正解を告げる。


「ペガサスか。そういえば、忘れていたよ」

 一歩出遅れるカイザ。


「ももも元々、おでは放浪型の裏クリエイターなんだぜい。おおおおで以外の人を乗せて飛ぶのは初めてだったがよう」


 兵頭対局所に登録する以前のケイマは、自分のクリエイションに乗ってあちこち飛び回っていた。とはいえ、耐久時間は数十分程度。しかも、ほかに人を乗せて飛んだことは今までなかった。

 琵琶海峡を越えたときは「飛び石」となる休憩地点が無数にあったようだが、今回は一発飛行。以前に比べると、クリエイターとしての実力は相当上がっている。


「さささ最初に乗せた人がギンガ姉さんでよかったぜい」

 ケイマは誇らしげにギンガのほうを見た。


「ホンマ、ヒヤヒヤもんやったわ。途中で霊力が尽きてみぃ、クリエイションが消えて地面に真っ逆さまやで。さすがのあてでも骨折るわ、死にはせんけどな」

 ギンガはタクミを軽くあしらいつつ、カイザとケイマの会話にも割り込み参加する。


 カイザはギンガとケイマの話を聞きながら、例の黄色いペガサスにふたり乗りする様子を想像した。

 前に乗って手綱をさばくケイマ。後ろからこわごわとケイマの腰に手を回すギンガ。

「普段とは立場が逆転しているね。まあ、たまにはそういうシチュエーションもいいんじゃないの?」


「せやけど、手綱さばきは大したもんやったでぇ。ケイマは乗り物が苦手なくせに、自分のクリエイションは難なく乗りこなせるんやからなぁ。よう分からんわ」

 ギンガは、暴走寸前のタクミを見事な手綱さばきで制御しつつ、同時にケイマをおだてて転がした。


 やはりギンガはどうしようもない悪女だ。と、カイザは心の中でつぶやきつつも、ギンガとケイマの進展は素直に応援しようと決めていた。

 カイザにとってケイマはライバルでもあり、同時に今や親友でもある。そのケイマが自分の意思でギンガを選んだのだ。王族の地位すら捨てて、ギンガを追って裏クリエイターになったのだ。

 ふたりは案外、良い組み合わせかもしれない。ギンガとケイマは、お互いに欠けた部分を補い合える関係だ。

 カイザは一歩引いた地点から見守っていた。



【二】


「それにしても、ケイマはいつの間にリミテッドクリエイトの練習をしていたの?」

「ででででめえには内緒にしていたんだよう。ここここの一週間、おでが毎日、本店で対局だけしていたと思っていたのかよう?」

「てっきり、大会が終わるまではカードチェスに専念するものだと思い込んでいたよ」

 合宿期間中、同室で寝泊まりすることになったカイザとケイマ。ふたりは毎晩、就寝前にその日の出来事を語り合っていた。だが実は、ケイマはカイザに黙ってクリエイトの練習をしていたのだ。


 カイザは機島工房の仕事や遮断能力の特訓などで精一杯だった。合宿初日からだんだん疲れがたまり、洞察力が鈍っていた。

 すぐ顔に出るケイマの隠しごとすら見抜けなかったとあって、カイザは自分もまだまだ甘いところがあるのだと改めて痛感した。

 嘘ならばすぐに見抜ける自信があった。が、ケイマはなにも言っていなかった。ただ黙っていたのだ。

 ケイマは大会に向けてひたすら対局しているに違いないと、カイザは頭から思い込んでいた。そもそも疑ってすらいないことは見破りようがない。


「ででででめえが機島工房で準クリエイターとして活躍しているなら、おでだって負けてられねえぜい。のうのうと対局ばかりしてられるかよう」

「たしかに、僕がケイマの立場なら同じことを思っていたに違いないよ」


 ケイマが真剣対局で白星をあげたなら、カイザも負けじと後を追った。カイザが準クリエイターになったのなら、ケイマも同等にクリエイションを操れるように努力した。

 ライバルがいれば、お互いに高めあえる。カイザとケイマは互いに相手を意識しながら競い合っていた。


「で、ケイマ。どうしてギンガと将棋を指しているの?」

 言った数秒後には、将棋は指し終わっていた。

 ギンガの鋭い一手によって、ケイマは投了を宣言。


「驚くなや、カイザァ。この対局所の表対局室はなぁ、カードチェスをやる奴がおらへんねん。ここは旧時代にあった世界各地のカードゲーム、ボードゲームを扱う対局所なんや。カードゲームとボードゲーム専門のQ2機関みたいなもんやな」

 将棋で負けて口をつぐつケイマのかわりに、ギンガが早口で説明をする。


「せや、Q2機関にもアナログゲーム部門を設立したろ!」

 説明中に新しいアイディアを思いつき、ひとりで興奮しだす。


「うるせえギンガ! カードチェス以外のゲームなんて知ったこっちゃねえぜ。いいからオレと対局しやがれ!」

「あんたが一番うるさいねん、タクミィ! カードチェスで負かして黙らしたるわ。よっしゃ、練習対局や!」

「望むところだぜ! 今日こそはオマエに勝って、塾生時代の因縁を晴らしてやるぜ!」

 将棋が終わった途端に、今度はカードチェスの練習対局が始まった。


 ふたりの対局を観戦しつつ、カイザは周囲を見渡した。

 将棋を指している者や、囲碁を打っている者。チェスを楽しんでいる者。麻雀をやっているグループもある。カードチェス以外のカードゲームや、双六のような謎のボードゲームに興じる者もいる。

 カイザは兵頭対局所の所員になってから、空いた時間に様々な本を読んで勉強していた。カードハンター時代には得られなかった知識を吸収し、ある程度は旧時代の文化についても知っていた。

 カイザは囲碁、将棋、チェス、麻雀のルールを少しだけ把握していたが、実際にやったことはなかった。ケイマとギンガに教えてもらいながら、人生初の将棋を指した。



【三】


「既存のカードゲームに将棋類のボードゲーム要素を足して生まれたんが、カードチェスなんや。あ、将棋類っていうんは、将棋とかチェスみたいなゲームのことな。その起源はインドのチャトランガっちゅうゲームで、元々は――」

 うんちくを語り出すギンガ。右側でタクミと練習対局しつつ、左側で将棋盤に駒を並べた。これからカイザの相手役になるのだ。


「駒の並べ方は覚えたよ。あとは動かし方だけど、何枚かわからないのがあるんだ。この駒はどんな動き方をするの?」

 カイザは一枚の駒を手に取った。


「そそそそいつは桂馬っていうんだ。おおおおでが一番好きな駒だぜい」

「なるほど、名前も一緒だしね」

「おおおおでの一族は、みんな名前に『ケイ』が付くんだよう」


 ケイマは桂馬の動き方を説明した。桂馬は、前に一歩進んだあとに右上か左上に進むことができる。目の前に他の駒があっても飛び越えられるのが特徴だ。


 ケイマが一番好きだと宣言した駒は、ケイマ本人にどこか似ているような気がした。

 桂馬の特殊な動き方は、カードチェスの「跳躍」に似ている。「跳躍」はケイマがよく使うワンフレーズ能力だ。

 エース駒札の〔ペガサス〕は、場に出た瞬間に好きな味方駒一体に「跳躍」を付与できる能力を持っている。まさに起死回生の切り札といえる。

 目前に障害物があっても引き下がることなく、いきなりカッ飛んで予想だにしない地点に着地する。他人の想像よりも上寄りの斜め上を行くのがケイマという人間だ。

 すぐ顔に出るため感情は読みやすいが、思考は読めない。なにを考えているのかわかるのに、わからない。

 本人の中では筋道立てて考えたつもりでも、他人からすれば論理の飛躍、跳躍は多々あり。


 カイザは将棋の駒を身近にいる人たちに置きかえてみることにした。


 一番サイズの小さい歩兵は、兵頭アユム。一見すると最弱だが、将棋の基本となる駒だ。枚数も一番多く、盤面からすべて取り除かれることはまずないだろう。

 カードチェスにおいて、アユムは体力強化デッキを使用する。一見すると、単に味方駒の体力を増やしていくだけの単純戦法。初心者でも扱いやすく、アユムのような高ランククリエイターには不釣り合いにも見える。

 だが、駒を破壊されないように守りを固めるのは、カードチェスの基本戦法だ。誰でも使えるが、誰でも上手くは使えない。初心者向けかつ、極めれば最強。それがアユムの真骨頂だ。


 いつでも王のそばについて守りを固める金将は、金子ココナ。ふと、カイザの頭にカードハンター時代の思い出がよぎる。

 昔のココナは、いつもカイザのあとをついて回っていた。カイザにとって、ココナは妹のような存在だった。そんなココナも、いつしかカイザの右腕的な存在となり、カイザ組のサブリーダーに。

 思い返せば、ココナはいつもカイザのそばにいて、どんなときでも味方だった。ずっとカイザを支えていたのだ。

 最後は別々の道を歩むことになったが、それでもココナのことを忘れたことはなかった。たとえ遠く離れていても、いつも隣で見守ってくれているような気がしていた。


 前もナナメもソツなくこなすが脇の甘い銀将は、白銀ギンガ。なんでもできるが器用貧乏。ギンガのデッキそっくりだ。

 銀といえば銀メダル。二番手のシンボルだ。兵頭対局所では副所長、アユムに次ぐ二番手。ギンガという人間をよく表している。

 将棋の駒は端から香車、桂馬、銀将、金将、そして中心に王将、という順番でならべる。中心寄りでも端寄りでもなく、ちょうどその間にある銀将は、どっちつかずの中間ポジション。

 使用デッキはのモチーフは、旧時代の歴史上の人物。江戸と明治の境目、幕末。中級駒札に関連する能力を持ったカードを使用する。

 また、雄弁といえば銀だが、いぶし銀とは真逆の模様。博識だがお喋り。服装は地味なのに、すらりとした長身で華があり、いつも周囲から注目されている。


 では、自分を将棋の駒にたとえると⋯⋯。カイザは考えるのをやめた。今は、ギンガとの将棋の対局に専念しなければならない。

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