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カードチェス  作者: 破天ハント
第二部第三章︎︎ 準クリエイター編(後編)
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第二十三話〖遠征〗

【一】


 台風一過。アキラが去ったあとの対局室は、静けさをたたえていた。

 カイザはいまだに信じられなかった。アキラのようなふざけた雰囲気の女が★×5(スーパー)ランク上位の有名クリエイターだということを。カイザは自分の観察眼がまだまだだということを再認識した。


 カードハンター時代のカイザは、瓦礫ノ園に流れ着いた様々なタイプの人間を見てきた。

 だが、高ランククリエイター相手に常識は通用しない。カイザは、これまでの経験をほとんど生かせない未知の世界に飛び込んだのだ。

 カイザはそんなことを考えながら、ケイマとダイゴの練習対局を観戦していた。


 対局は粛々と進行した。

 ダイゴは序盤から中盤まで、始終微有利の状態を維持。このままわずかな差で押し切るつもりなのだろう。

 だが、ケイマがこのままなにもせずに終わるはずがない。ダイゴが気を緩めた瞬間、例の「跳躍」と「屈折」の移動コンボがさく裂する。盤面はたった一手番のうちに一変する。

 結局、練習対局はケイマの勝利で幕を閉じた。


「よよよよし、これで本店は制覇だぜい!」

 ケイマは合宿初日から本店の代表選手のでー子を打ち破っていた。そして本日七日目にして、もうひとりの本店代表選手・後醍醐ダイゴを倒す。

 ケイマは人生最大の好調期だった。最近は負け知らずで、破竹の勢いで白星をあげている。


「よし、じゃあ次は僕と対局してよ」

 カイザはダイゴに対局を申し込んだ。

 カイザも本店の代表選手と一度対局しておきたかった。それに、ケイマには負けていられない。一刻も早く白星をあげてケイマに追いつきたかった。


「あ⋯⋯、よろしくお願いします」

 ダイゴ、快諾。ダイゴもまた、ほかの対局所の代表選手と対局することで情報を得ようとしているようだ。


 選手の中には、大会終了後までほかの選手と対局したがらない者もいる。自分の情報を与えない作戦だ。

 一方で、自分の情報をどんどんさらすことで、より多くの選手と交流して相手の情報を得ることに専念する者もいる。

 カイザたち兵頭対局所組の方針は当然、後者。合宿まで開くほど熱心さだ。


 そして、本店組もまた後者の方針をとっていた。

 でー子は所員として仕事をしつつ、強敵があらわれては手合わせをして己を磨いていた。でー子対ケイマの最初の対局も、挑まれたのではなく、でー子が自分から挑んだのだ。

 ダイゴは一見すると人とコミュニケーションを取るのが苦手そうだが、実はすでに多くのクリエイターと対局を積み重ねていた。

 自分から積極的にアクションを起こさずとも、代表選手というだけで多くのクリエイターから対局を申し込まれるのだ。

 ダイゴは受動的な方法で秘密裏に情報収集をしているようだった。ほかの人は気づいていないようだが、カイザの観察眼はあざむけない。真相を確かめるため、カイザはあえて自分からダイゴに対局を挑んだ。

 

 カイザ対ダイゴ。自称つい先日まで初心者同士の対局。両者は共に、相手が本当は初心者ではないのに初心者のふりをしていると疑っていた。


「へえ、なかなかやるね。つい先日まで初心者だったとは思えないよ」

「あ⋯⋯、君こそ、つい先日まで初心者だったのに、むずかしそうなデッキを使うんだね」

 腹のさぐり合い。


 どうやら、ハジメ所長もダイゴが嘘をついていると思っているようだ。ハジメは奥のテーブルで仕事をしながら、ダイゴの対局をチラチラ見ていた。

 カイザが見たところ、ハジメはカイザのことも信じていない様子だった。だが、カイザを発掘してクリエイターに仕立て上げたのはギンガだ。カイザが初心者だということは、ギンガが保証してくれる。

 もっとも、対局が始まってしまえば初心者かどうかなど関係ない。問題は、勝つか負けるか。その一点のみ。カイザは全力でぶつかった。



【二】


 カイザ、本日一戦目。対ダイゴ戦。ふたりの実力はほぼ互角。

 デッキの性質上、スロースターターのカイザは序盤こそダイゴにリードを譲ったが、終盤で巻き上げる。

 カイザはギリギリのところでなんとか耐えしのぎ、ダイゴの親札体力をゼロにすることができた。とはいえ、カイザが負けていてもおかしくない状況だった。


「ふう、なんとか勝てたよ」

 カイザは冷や汗をぬぐった。

 カードチェスは対局開始時から終了時まで、気をゆるめるタイミングがいっさいない。一時的に優勢盤面を取ったとしても、浮かれたが最後。隙を見せれば食われるのがこの世界の習いだ。


「さて、次はでー子と対局だ」

 勝利の余韻もつかの間、カイザは間髪入れずにでー子を捕まえて対局を挑む。


 ケイマに遅れをとったままでは我慢がならない。絶対に勝たなければと、肩に力が入りすぎる。結局、それが敗因となった。


「うちを倒そうだなんて百年早いのよやでー。出直してきなやでー」

 本日二戦目、対でー子戦。カイザ、惨敗。

 でー子はタクミと似たコンボ系のデッキを使うが、プレイングはタクミよりもはるかに上手い。カイザはタクミ相手に軽く勝ってきたが、でー子に同じ作戦は通用しなかった。


「あ⋯⋯、やっぱり、タイプの違う強敵と二戦連続で対局するのは疲れるよね」

 フォローを入れるダイゴ。自分がカイザに負けたことへの言い訳ともとれる発言だ。ダイゴも、ケイマと対局したあとに連続でカイザと戦って負けていた。


 だが実際、ダイゴの言葉には一理ある。

 カードチェスは気をゆるめるタイミングがないので、常に精神力と集中力を必要とする。一局終われば、もうフラフラだ。練習対局の途中で食事を挟み、栄養補給をするプレイヤーも多い。

 対局空間では魂を活用して霊力を使うのに対し、机上の対局では脳を働かせてエネルギーを消費する。真剣対局と練習対局のスキルはまったく別物なのだ。


 そのときカイザはふと、ダイゴの発言に別の意味を見出した。対局中はみじんも感じなかった。だが今、でー子に負けて休息をとっていると、別の考えがわき上がってきたのだ。


(もしかして、ダイゴはわざと僕に負けたのかもしれない。さっきのフォローは、そのことを隠すための言い訳だったんじゃ⋯⋯)


 たとえ練習対局といえども、本気を尽くして戦うのが対戦相手へのマナーだ。

 わざと悪手を指すが許されるのは、完全初心者へのティーチング時のみ。途中で手加減するくらいなら、最初からハンデを負ってスタートするべきだ。

 カイザはまだ、ダイゴの正確な実力を知らない。ダイゴが本気でぶつかってきた場合、カイザは打ち勝つことができるのか。考えても答えは出なかった。


 怪しい一勝と、散々な一敗。このままではケイマの戦績に追いつけない。

 カイザはダイゴを呼びとめて二戦目を申し込もうとした。が、ダイゴはすでに対局室から消えていた。目を離した隙にどこかへ去ってしまったのだ。



【三】


「よっしゃ。今日はカイザもおることやし、三人で本店以外の対局所も行ってみようや」

 ギンガの提案により、カイザとケイマは近隣の対局所を見学しに行くことになった。


「オレも入れて四人だせ!」

 ちょうど、そのタイミングで仕事終わりのタクミがやってきた。対局所めぐりのメンバーは四人に増える。


「ギンガちゃん、僕を置いてもう帰るのかい?」

 ハジメは対局室から去ろうとするギンガを引き止めた。


 ハジメとギンガは、閉店後に裏対局室で真剣対局をすると約束していた。合宿が始まってからというもの、ふたりの間ではそれが日課になっていた。

 ギンガは思いつきで対局所巡りを提案し、ハジメとの暗黙のルールを破ろうとしていた。


「すまぁん、ハジメパパ! 今日の対局はお預けや。あての勝ちっちゅうことにしといてもええで」

「それじゃあ仕方ないですね。今回は僕の勝ちということにしておこう」

「なんでやねん、そこは引き分けやろぉ!」

 実際にはおこなわれない対局の勝敗について、不毛な予測をするギンガとハジメ。

 ギンガは最初の一日目のみ勝利し、あとの五日間は負け続けだった。このごろは、不調期へ向かって下り坂。日に日に実力が落ちている。現在、好調期のケイマとは対照的だ。


 一方、カイザはというと。ダイゴの件があるので、好調とも不調とも判別がつかない。うやむやな状態だ。

 前日から今朝まで、遮断能力暴走の一件を思い返せば、対局の戦績とは別にカイザの体調は最悪の絶不調だった。が、新たな能力を手にしたと考えれば、絶好調といえなくもない。


 ギンガはハジメに断りを入れ、対局の約束をキャンセルした。対局所巡りという名の偵察作戦を実行するためには仕方のないことだ。早くしないと、よその対局所も閉店してしまう。


 物足りなさそうな顔でギンガを見送るハジメ。

 店の中で★×4(エキスパート)ランク以上のクリエイターといえば、ギンガのほかにはいない。アユムが独立してからというもの、物足りない日々を送っていたようだ。


「ほんなら、遠征開始や!」

 かけ声を上げるギンガ。


「どどどどこまでもついて行きますぜい!」

 絶好調のケイマはテンションもいつもより高い。


「遠征⋯⋯。一応、聞いておくけど、歩いて行くんだよね?」

 カイザは病み上がりで体力に自信がなかった。


「安心しろ。オレが車を出してやる」

 徒歩でも行ける距離だが、カイザとタクミだけ車で行くことになった。


 外町には無数の対局所が点在している。今回の目的地は、兵頭対局所本店から少し離れた場所にある対局所だ。

 もっと近くにも対局所はあるが、他の対局所の関係者は出入り禁止というルールがある。クリエイターの情報を隠しておきたいのだろう。

 兵頭対局所本店のように誰でも自由に出入りできる対局所は、外町全体の半数程度だ。数店舗が提携協力してグループを構成しているところもある。

 それに対して、都の中にある対局所は外町よりも秘密主義の傾向が強い。出入り自由の店の割合は低い。中には、完全会員制で紹介がなければ場所すらも教えてもらえないという秘密結社じみた対局所もあるという。


 カイザは車の中でタクミの話を聞いていた。お得意の話を引き出す術によって、タクミは運転しながら気持ちよくお喋りを続けた。

 タクミは外町在住だけあって、近隣の様々な情報を知っている。どこにどんな対局所があって、有名なクリエイターがどこに所属しているかも把握していた。

 あそことあそこの所長同士は仲がいいとか悪いとか、下世話なゴシップの数々がタクミの口からこぼれ出る。カイザはそのひとつひとつを頭の中に叩き込んだ。


「ほら、着いたぜ」

 徒歩のギンガ・ケイマ組よりひと足早く目的地に到着。

 カイザとタクミは先に入っておくことにした。 

女性キャラの扱いについて書いておきます。


『カードチェス』には、作品全体を通したメインヒロインとは別に、第一部のヒロイン、第二部ヒロインという感じで部ごとに限定ヒロインが登場します。


ギンガは作品全体のメインヒロインかつ第一部の限定ヒロイン。

第二部の限定ヒロインはタクミ。


ほかはサブキャラ扱いですが、そのうち限定ヒロインに昇格する可能性もあります。

アユムやアキラも、主人公がスーパーランクに追いついたら活躍するはずです、多分。

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