第二十話〖準クリエイター〗
ながらく活動報告をサボっていたので、あとで久しぶりに更新します(予定)
『学園カードチェス』は前書きから活動報告にお引越しです。今後は本編のネタバレを連発しまくるので⋯⋯(予定)
それと、10月からは本編の更新回数を増やします!(予定ではなく願望)
【一】
カイザが早めの眠りについた矢先、ギンガが部屋を訪ねてきた。ドアノックの音で眠りを妨害される。
ケイマはずっと起きていたようだ。カイザのかわりにケイマが素早くドアの前まで行って鍵を開けた。
「おう、ケイマァ。あての下着知らへん? この部屋に置いてきたと思うんやけど」
「いいいいや、さっき布団を敷いたときに確認しましたけど、見当たらなかったぜい」
「あれぇ、おっかしいなぁ。てっきり、部屋を移動したときに忘れたんやと思うとったけど。まあ、ええわ。ありがとうなぁ」
「ねねね念のため、もう一度部屋を探してみるぜい」
カイザは布団の中で聞き耳を立てていた。足音が聞こえる。ギンガが部屋に入ってきて、電気をつける。カイザはやむなく起き上がり、ギンガの下着捜索に協力した。
「どこいったんやろぉ? 盗まれたんかなぁ? 誰の嫌がらせやねん」
「おおおおでじゃないですぜい」
ケイマは慌てて否定した。
「どうやらケイマはウソは言っていないみたいだよ。僕が保証する。それに、ケイマはそんなことをするような人間じゃない」
カイザはケイマをフォローした。
「わかっとるがな。せやけど、ケイマの言い方が怪しすぎるねん。犯人やないのに濡れ衣を着せられるパターンのヤツやん。ほんま、ケイマはベシャリが立ち回りが下手くそやなぁ」
「ちなみに、僕でもないからね。なにが悲しくてこんな奴の下着を盗まなくちゃいけないんだよ」
「オイ、それはさすがに言いすぎやろぉ」
ギンガとカイザは冗談半分にふざけていたが、ケイマは熱心に捜索活動に励んでいた。
「ダダダダメだ、見つからねえぜい」
「やっぱり、こっちにはなかったかぁ。でー子の部屋でもう一回荷物を確認してみるわ」
「ややや役に立てなくてすまねえぜい」
「こちらこそ、夜分にいきなりスマンかったなぁ。ほんならおやすみぃ。明日も早いから、あてもはよ寝るわ」
「おおおおやすみ」
ギンガは夜風のように去っていった。
「おやすみなさい。戻ったら、でー子の部屋『を』もう一回確認するといいよ」
カイザはギンガに軽くアドバイスをしてから、ふたたび眠りについた。
合宿二日目。空の色はオレンジ。タクミの瞳を連想した。
今日もカイザとケイマは別行動。カイザは早起きして食堂で朝食を摂り、その足で機島工房へと向かう予定だった。カイザ、ケイマ、ギンガ、でー子の四人でテーブルを囲み、そろって同じものを食べる。
「じゃあ、僕は先に行くよ」
ほかの三人がのんびり食べている横で、カイザは急いで食べてトレーを返却口に戻した。早足で食堂をすり抜ける。
「おおおおう、頑張れよ、カイザ」
「そっちもね」
「ななななんか、カイザだけ損な役回りですまねえなあ。おおおおでが本店でいろんなクリエイターと対局して勉強している間、カイザはミッチリ仕事なんだろう?」
「そんなことはないさ。仕事時間が終われば、タクミが対局の練習相手になってくれる。まあ、ちょっと物足りないけどね。それに、機島工房の作業員はQ2機関の顔ぶれが多いだって。こっちはこっちで楽しく頑張るから、ケイマものんびりはしていられないよ」
それに、カイザは遮断能力を身につけるという急務がある。アバターチェンジの技術も盗むつもりだ。自分が損な役回りだとは思っていなかった。
「おおおおう、そうだよな。おおおおでも頑張らねえと、カイザに先を越されちまいそうだぜい」
ケイマは考えを改めた。
「行ってきます!」
カイザは手を振って寮を出た。
「行ってらっしゃい、カイザァ。はよぉ工房生活に慣れやぁ」
「行ってらっしゃいやでー」
手を振って見送るギンガとでー子。結局昨夜、ギンガの下着は見つからなかったようだ。
【二】
カイザはクローバーの空き地を超え、機島工房へと向かった。途中、またもや四葉のクローバーに出くわして足をとめる。
気が早って急ぎすぎたようで、工房にはまだ作業員の姿が見当たらない。タクミとワンコが出迎えてくれた。
「オハヨ! 早起きじゃねえか、カイザ。一発芸でも考えてきたのか?」
タクミは相変わらず機械油で汚れたつなぎを着ていた。両手になにやら工具を持っている。
「おはよう、タクミも朝は早いんだね。一発芸はやらないからね」
「冗談だって。オマエのことは、オレがきっちり面倒見てやるぜ」
「ありがとう、そりゃあ心強いよ。だけど、カードチェスに関しては僕がきっちりタクミの面倒を見てあげるからね」
「チッ、相変わらずクソ生意気だな。仕事が終わったら、また対局だ。今日こそオマエの泣き面を拝んでやるぜ」
「やれやれ、早起きだと思ったら、まだ寝ているみたいだね。だって寝言を言っているんだもん」
ふたりが軽口を叩きあっている間に、工房の作業員が続々と出勤してきた。全員が集まったところで、タクミはカイザを紹介した。
とはいえ、半分以上はQ2機関のメンバーで、昨日会った顔ぶれだ。カイザは一度でも話したことのある人を忘れることはない。
カイザはすぐに皆と打ち解けて仲良くなり、仕事を教えてもらった。工具の使い方から、機械の仕組み。製品の用途や搬入先。クリエイション発電機についても学んだ。
ちなみに、自己紹介時に一発芸はやらなかった。
昼休憩を挟み、カイザは午後の作業にとりかかる。箱詰めした製品をトラックの荷台に運び込む。腰を痛める肉体労働だった。
カイザは体力には自信がなかった。細腕で荷物を持ち上げるのは限界だった。
「クリエイションを使えよ、カイザ」
タクミは横でアドバイスをした。
「よし、やってみるよ」
カイザは持って来た白札を使い、人間と同サイズの悪魔をクリエイトした。
悪魔はカイザと感覚を共有し、カイザのかわりに荷物を運んだ。空を飛ぶことも可能なので、作業が一気に楽になった。
「やった! 僕のクリエイションが、実生活で初めて役に立ったよ。霊力が足りるか心配だったけど、作業が終わるまでは持ちこたえそうだよ」
今までカイザは自分の能力を活用できていなかった。せいぜいクリエイトバトルに使う程度だったのだ。
「やったな、これでオマエも立派な準クリエイターだぜ」
「僕が準クリエイターか。この前まではカードハンターだったのに、なんだか不思議な気分だよ」
「まあ、プロにはほど遠いがな」
「タクミに言われたくはないけどね」
以来、カイザは単純な作業を悪魔に任せるようになった。翌日からは二体同時クリエイトをして、さらにクリエイション維持時間も倍に増やしてみた。
クリエイトバトルではものの数分の維持時間だったが、作業に用いるならば何時間も維持し続けなければならない。並の霊力では魂が持たないだろう。
カイザは五日かけて少しずつ準クリエイターとして成長した。楽しみながら実力をつけていく。悪魔はカイザの手足、翼となり、複雑な作業もこなせるようになった。
カイザは単なる作業員から、正真正銘の準クリエイターへと昇格した。やがて、工房内でタクミに次ぐ実力者として認められるようになった。
仕事が終わればタクミやほかの作業員たちと対局し、カードチェスの練習も怠らない。合宿期間中、カイザは充実した毎日を送っていた。
【三】
「暴れるなよ、暴れるなって。オレに任せておとなしくしやがれ!」
「ちょっと、いきなりなにをするんだよ!」
六日目の仕事終わり。カイザとタクミはクローバーの空き地にて、遮断能力の訓練をしていた。
タクミはカイザの顔面に真っ黒の機械油を塗りたくる。カイザは抵抗したせいで髪や服も汚れてしまった。
「これでよし。今からオマエは覇田カイザという名前を捨てろ。人間を辞めて、草木と一体化するんだ」
「言っている意味がまったくわからないんだけど。この特訓、本当に効果があるの?」
「うるせえ、オレを疑うのかよ。オレも昔はこうやって遮断能力を鍛えたんだぜ」
タクミは腰に手を当てて豪語した。強引なところは悪友のギンガとそっくりだ。
「いいか、カイザ。いや、そこの岩。今のオマエの顔を見たって、誰もカイザだとは気づかねえぜ。オマエはしばらくそこでじっとして、変な形の岩になりきるんだ」
「変な形で悪かったね」
「よく聞きやがれ、そこの変な岩。クリエイト能力ってのはなあ、『自らの魂を輝かせ、他者に知らしめる力』なんだよ。感知系能力は『他者の輝きを知る力』。逆感知能力は、『知られたことを知る力』そして――」
カイザの話を無視して進めるタクミ。
「『輝きを知らせないようにする力』、それが遮断能力の正体だぜ。自らの魂を汚して、輝きを内側に閉じ込めるのさ」
「いや、魂じゃなくて顔が汚れたんだけど」
「一緒のことだぜ。カイザ、いや、変な岩。オマエはたしかに可愛い顔をしているが、今は誰からも認知されない単なる変な岩。オマエは世界から遮断されたんだ。だから、オマエも世界を遮断して変な岩になりやがれ。オマエが世界を遮断するとき、世界もオマエを遮断する。誰からも認知されず、孤独の中で自分の魂に集中しろ」
タクミはそう言い捨てると、カイザを残して工房へと帰ってしまった。
謎の特訓がはじまった。有無を言わさず、強引に。
(こんなことで本当に遮断能力を鍛えられるのかな?)
半信半疑のカイザ。だが、とりあえずはタクミの指示に従って岩になりきってみることにした。
空き地の真ん中に座り、まぶたを閉じた。精神を集中させる。自分自身の魂を霊視するような感覚だ。
カイザはほとんどなんの特訓もせずに霊視能力を手に入れた。その能力を使い、リヒトやアキラの魂を霊視した。
タクミを霊視したときは、逆感知能力で即座に反応されてしまった。一瞬で遮断能力に切り替えられ、魂が見えなくなったのだ。
クリエイト能力は真剣対局によって鍛えられる。
感知系能力は生まれつきの才能でほとんど決まっている。逆感知能力もしかり。
ならば、遮断能力はどうか。タクミによると、遮断能力は後天的に強化可能だという。タクミも、昔はそれほど遮断能力が高いわけではなかった。自ら訓練方法を編み出し、実践したのだ。
タクミがなぜ遮断能力にこだわるのかは不明だ。なにかきっかけがあったのかもしれないが、カイザの知るところではない。今は自分のことが最優先だ。
さて、第二部もいよいよ中間ポイントに到達しました。
次回からは準クリエイター編の後編です!
チョイ鬱展開にご注意ください。