表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カードチェス  作者: 破天ハント
第二部第二章︎︎ 準クリエイター編(前編)
66/73

第十九話〖観察眼と鑑識眼〗

『学園カードチェス』前回までのあらすじ!(大嘘です)

激闘の末、卓美ちゃんとの和解を果たした銀河ちゃん。TCG研究部とアイドル研究部は合体。両者の部員は互いに兼部することになった。

こうして、アイドル研究部廃部の危機は免れた。だが、新たな脅威が襲いかかる!

「⋯⋯銀河ちゃん、キミだけは許さないよ」

元アイドル研究部員で、銀河ちゃんのかつての相棒、如羽城子ごとばじょうこちゃんが復讐のキバをむく!


※この前書きはジョークです。本編とはいっさい関係ありません。

【一】


 大会前合宿、第一日目が終わろうとしていた。寮の部屋に戻ったカイザとケイマは、床の上で練習対局をしつつ、互いにその日の出来事を報告しあった。

 ケイマは口下手で、自分のことを話すのが苦手だった。何度もつっかえたりどもったりしたが、時間をかけて言葉を紡いだ。


 一方、カイザは話をするのが苦手ではないが、ギンガのようなおしゃべりでもない。どちらかといえば聞き役だ。

 カードハンター時代は、メンバーの相談事を聞いたり、ココナのおしゃべりに付き合う役回りだった。

 カイザはケイマの話を辛抱強く聞いた。途中でさえぎったり、自分の話をしたりはしない。絶妙なタイミングで相づちを打ち、話す意欲をかき立てさせた。


 不思議なことに、口下手のケイマでもカイザの前でなら楽に話すことができた。カイザはカードハンター時代に似たような子どもを相手にしていた経験があった。

 ケイマにとって、これまでの人生の中でカイザ以上の話し相手はほかにいない。たとえ母国に戻る機会があったとしても、カイザといるときのほうが会話量は多いだろう。

 カイザとケイマは、会ってからまだ日が浅い。だがケイマにとって、カイザはすでにかけがえのない友人だ。同時に、もっとも身近にいるライバルでもある。カードチェスを通して互いに競い合い、磨き合っていた。


 カイザは頭の中でケイマの話をいったん整理した。

 本店の代表選手、でー子との対局。ギンガ対ハジメの対局。本店のもうひとりの代表選手、後醍醐ダイゴの存在。そして、偶然出会ったという秋山対局所の代表選手、天ナゴミについて。

 ケイマとギンガは、カイザよりも先に寮の部屋に戻っていたらしい。ギンガはでー子の部屋へ移動し、ケイマはその後、忘れ物を取りに対局室へ出戻った。

 そこでナゴミと出会い、ナゴミを本店の対局室前まで送ってから寮へと戻る。カイザはその間に入れ替わりで部屋へ戻っていことになる。


「ふうん、そのナゴミっていう人、そんなに僕に似ていたの?」

「おおおおう、最初は全然気づかなかったぜい。だだだだけど、中身はカイザと真逆だな。ああああいつ、どこぞのお姫様だってよ」

「アキラのお気に入りみたいだから、覇道テイトクの身内かもしれないね」

「アアアアキラって誰だよう?」

「秋山アキラだよ」

「ああああの下摂津七人衆の?」

「そう。ケイマは車酔いでダウンしていたから、秋山対局には入っていなかったんだね。アキラは秋山対局所の所長でもあるんだ。で、彼女のお気に入りがナゴミってわけ。下摂津ノ國の都の人間のつながりで、なおかつ王族といったら、覇道テイトクの近親者でしょ」

「ででででめえ、やけに詳しいな」

「たった今推理したんだけどね。それに、ナゴミは僕たちと同じ代表選手なんだ。ライバルの動向はもらさずチェックしておかないとね」

「ほほほほかの代表選手のことなんて、いちいち気にしていられねえぜ。おおおおではおでの対局をするだけだからよう」

「さすが、ケイマは肝が座っているね」

「カカカカイザみてえに器用な生き方ができねえだけさ」

「僕だって、ちょっと人の顔と名前と特徴を覚えるのが得意なだけさ」

 カイザはケイマとの会話の中で、ほかの代表選手の情報をそれとなく聞き取った。自分がいない場面にケイマが遭遇した有力クリエイターに関して、ケイマ以上に分析していた。



【二】


 まずひとりめ、でー子。でー子のことは、Q2機関つながりでタクミからも聞いていた。ケイマから聞いた内容とすり合わせ、人物像を構築してゆく。

 ふたりめ、タクミ。カイザの実力からして、タクミは敵ではない。決闘対局でも勝利した。トーナメントで当たっても問題はないだろう。おそらく、初戦で敗退する可能性が高い。

 三人目、ダイゴに関しては不明な点が多い。黒髪でメガネの目立たない少年という程度しか情報はない。


 そして四人目、ナゴミ。彼女の話題は、秋山対局所でアキラと話したときにも出ていた。ケイマの話と合わせると、様々なデータが浮かび上がる。

 カイザに似た容姿をしていて、どうやら麻雀が好きなようだ。ケイマとナゴミの会話の中で二度も麻雀の例えが上がったらしい。そういえば、秋山対局所のテーブルにも麻雀牌が転がっていた。

 秋山対局所の麻雀セットはアキラがひとり遊びをするために出してきたと思い込んでいたが、カイザたちが訪れる少し前までナゴミと対戦していたのかもしれない。明日、タクミに聞けばわかることだ。 

 今日の午前中まで、アキラ、タクミ、ナゴミの三人は秋山対局所に集まっていたのは確かなようだ。その後、タクミは自家製自動車にナゴミを乗せて外町へ行った。

 カイザたちはあとから遅れて秋山対局所に訪れた。店に入ったときには、すでにアキラひとりになっていた。それから、タクミたちを追いかける形で外町に来たというわけだ。


 どうやら、タクミとナゴミはそれほど仲が良いわけではないようだ。タクミがナゴミのことをどこか胡散臭いと言っていたのを覚えていた。

 おまけに、タクミは二次クリエイション専門の準クリエイター、ナゴミは一発クリエイション愛好家の二次クリエイション嫌いときたものだ。同じ対局所の代表選手同士だが、犬猿の仲なのかもしれない。

 そうなると、ふたりが同じ車に乗って外町まで来たのが不思議だ。もしかすると、アキラの計らいだったのだろうか。

 アキラは置いてけぼりを食らったと言ってなげいていたが、その様子がどうも怪しかった。あえてそういう役回りを演じ、ふたりの仲を深めさせようとしたのかもしれない。ただし、逆効果だった可能性が高いが。

 カイザはアキラの言動を嘘だと断定できないまま、違和感だけが残っていた。その違和感がカイザの人物鑑定を誤らせていた。ギンガによってフォローされるまで、アキラを信用できない人物だと決めつけてしまったのだ。

 結論から言えば、置いてけぼりを食らったこと自体は事実なので嘘ではない。ただし、故意にやったのだろう。

 ここまで、すべてカイザの推理だ。

 

 さらに、ナゴミにはもうひとつの謎がある。正確無比なクリエイション鑑識眼だ。

 ナゴミは、ケイマの所有物をひと目見ただけで非クリエイションだと看破した。そして、一発クリエイションの愛好家だと自称。

 ナゴミは一発クリエイション、二次クリエイション、非クリエイションの違いがわかるとでも言うのだろうか。カイザが知る限り、クリエイションと非クリエイションは原理的に区別がつかないと教わっていた。


「どうやって見分けたんだろうね。まさか、超能力?」

「いいいいくらなんでも、そんなわけねえぜい。おおおおでの槍のほうに、なにか手作り風の痕跡があったんだろうよ」

「でも、優秀なクリエイターなら、その痕跡すらも完全に真似てクリエイトできるよね。コピーしたい品物と同型クリエイションタイプの能力があれば、人の手を介さずに手作り品とまったく同じものを一瞬で生成できるはず」

「ふふふ普通はそこまでやらねえぜい。ぱぱぱぱっと見て、クリエイションっぽくなかったから言ってみただけじゃねえのかよう?」

「だけど、ナゴミはひと目見て断言したんでしょう? やっぱり変だよ。タイムマシンで生成の瞬間にでも立ち会わない限り、完全に見分けられるわけがないじゃないか」

「いいい言われてみれば、そうかもしれねえ」

「まったく、どうしてその場で気づかなかったんだよ」 


 新時代以降、本物はイミテーションに取って代わられた。なにが本物か、という問い自体が意味をなさなくなったのだ。

 歴史的価値をもつ遺物のたぐいや希少性の高い品物は即座にその価値を失った。札束も金銀財宝も無価値。かわりに白札が絶対的価値基準となり、実用性の高いクリエイションが重宝されるようになった。

 そんな中で、もしも一発クリエイション、二次クリエイション、非クリエイションを見分けられる人間があらわれたとしたら⋯⋯。



【三】


 フローリングの床に布団を並べるカイザとケイマ。風呂とトイレはフロアごとに共同なので、先に就寝の準備をしつつ、風呂の順番を待っていた。

 その間、カイザはナゴミのことを考え続けていた。だが、いくら考えても謎は解けそうになかった。カイザひとりの頭では解けない難題だ。ケイマとふたりでも無理のようだ。

 湯船の中でも考えたが、やはり答えは出なかった。

 カイザは久しぶりに湯船に浸かった。兵頭対局所の所員寮にはシャワーしかなかったのだ。一日の疲れが消えていくような気がした。

 カードハンター時代はよく川で水浴びをしたり、ドラム缶風呂に入ったりしていたものだ。川の水は霊毒によってけばけばしい色に変わっていたが、気にしてはいられなかった。

 風呂から上がると、考える気力も失って布団の中へ直行した。


「うーん、やっぱりわからないや。こんなとき、ギンガがいればなあ⋯⋯」

 ギンガは現在、廊下を挟んだ向こう側にあるでー子の部屋にいる。

 

「あれ? ちょっと待てよ。たしか、このフロアは元々男性専用だったはず。今は女性所員も同じフロアで部屋を借りているみたいだけど、でー子は昔から住んでいるわけだから、本来の部屋はこのフロアじゃないわけで⋯⋯」

「おおおおい、カイザ。ででででめえがどうしてそんなことを知っているんだよう?」

「工房の仕事が終わったあとで、タクミから聞いたんだよ。タクミとでー子はQ2機関が設立される前からの友人同士なんだ。タクミは昔、こっそりでー子の部屋に泊めてもらったりしていたらしいんだ」

「ななななるほど、そんなのよく覚えていたな」

「でー子は、ギンガが帰ってきたときに本店の寮の部屋を借りることを見越して、部屋を移ったんだと思うよ」

「いいい一杯食わされたぜい。そこまでしてギンガ姉さんを自分の部屋に連れ込みたかったのかよう」

「この部屋が決まったとき、ギンガはでー子のことを口にしていなかったでしょ? もしギンガが部屋替えのことを知っていたら、最初に自分からでー子の部屋に行くと提案していたはず」

「ギギギギンガ姉さんにも知らせずに、この日のために裏工作していたわけかよう」

「まあ、僕は別に構わないけどね。そもそも、この部屋に三人は狭すぎるよ。川の字になってギリギリじゃないか。出て行ってくれてちょうど良かったじゃないか。じゃあ、僕はもう寝るよ。おやすみなさい」

 カイザは倒れ込むようにして眠りについた。


「おおおおやすみ⋯⋯」

 余計な真実を知ってしまったケイマは、しばらくモヤモヤして寝つけなかった。

『学園カードチェス』にて、ギンガの元相棒・如羽ジョーコを登場させてしまいました。

本編より先に活躍するとは、まるで意味がわからんぞ。

ちなみに、本編のジョーコさんは第三部か第四部あたりで顔見せする予定です。(何十話先なんだ⋯⋯)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ