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カードチェス  作者: 破天ハント
第二部第二章︎︎ 準クリエイター編(前編)
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第十八話〖本店の所員寮〗

悲報!ケイマパート終了のお知らせ。


今回でケイマパートは終了です。

最後のシーンでカイザパートと合流し、次回からは本格的にカイザパートに戻ります。

カイザ視点で初対面の人物は、しっかりねっとり描写をやり直します。

ケイマ視点は、カイザと違って人物描写が楽でした。性格も単純でわかりやすいので、描きやすかったのですが⋯⋯。


あ、学園カードチェスはまた次回のお楽しみです。

【一】


「対局ありがとうございました。今日のところは、ギンガちゃんに勝ちを譲ろう。だけど、明日からは僕が勝たせてもらうよ」

 ハジメは対局室に寝転がっているギンガに手を差し伸べた。口調や性格は元の落ち着いた状態に戻っている。


「そうはいかんでぇ。明日もあてが勝つから、覚悟しときやぁ」

 ギンガはハジメの手を取って立ち上がった。対局終了時の挨拶と握手をすると、観戦者から拍手が沸き起こる。


 観戦者の中には、もちろんケイマとでー子もいた。ハジメはダイゴのことが気になって姿を探したが、見当たらなかった。

 ダイゴは本店の代表選手で、新参の対局室利用客でもある。いつもフラリとあらわれて、気づけばいなくなっている。今日はギンガとハジメが対局している途中で帰ったようだ。


「めめめ名対局でしたぜい。ふふふふたりともスゴかったぜい」

 ケイマはギンガとハジメの両方に賛辞を呈した。観戦に集中するあまり、持ち込みの塁とコインを片付けることを忘れていた。


「さすがはギンガお姉様やでー。うちの応援のお陰やでー」

 でー子はすかさずギンガに抱きつき、頬をグリグリ押し付けた。


「でー子ォ、あんたは仮にも本店の上級所員やねんから、一応はハジメパパを応援したれやぁ」

 でー子を引きはがしてお尻をペンペン叩くギンガ。


 対局所の閉店時間が迫っていた。ハジメとでー子は対局室を閉める作業に取りかかる。ケイマとギンガは先に店を出て、本店所員寮へと移動した。

 外は日が暮れつつあった。ふたりは所員寮の食堂で夕食を済ませ、借りている部屋へ戻る。


 ケイマはギンガとふたりきりの時間を満喫した。いつもなら、間にカイザがいるはずだった。

 今回の合宿では、カイザだけ別行動。タクミの工房に行くことになっていた。これを機にギンガとの仲をより深めようと考えていたが⋯⋯。


「どどどどうして、でめぇがいるんだよ」


 なぜか、でー子が部屋に紛れ込んでいた。


「閉店作業なら別の所員に任せてきたやでー。うちは今日、休みなのやでー」

 ギンガの横にベッタリと張り付く妖怪でー子わらし。


「ほーん。そういえば、カイザとタクミが決闘しとったとき、でー子はQ2機関の本部で寝とったんやったなぁ。よう考えたら、ホンマやったら仕事中の時間やんけ。寝坊やなくて、元々休みやったんかい」 

 非番の日でも対局所に顔を出すでー子に感心するギンガ。

 でー子は毎日、Q2機関と対局室に顔を出している。さらに、今日はギンガが帰って来る日だとわかっていた。それをでー子が忘れるはずがない。


「かかか感心している場合じゃないですぜい。いいいいつからこの部屋にいたんだよう?」

「最初からずっとやでー。うちの部屋は、ここと同じフロアにあるやでー。廊下を挟んですぐだから、合宿中はいつでも来れるやでー」

「いいいいや、来なくていいぜい」

 ケイマ、頬を引きつらせる。


「せやったら、あてがでー子のところに行くかぁ。ちょうどあての居場所がなくて困っとったんや。この狭い部屋に三人はちょっと厳しいわ。でー子、部屋貸してやぁ」

「もちろんですともやでー。こんなケダモノと同じ部屋だなんて、ナニをされるかわからないやでー。ギンガお姉様はうちの部屋に泊まるべきやでー」

 急に目を輝かせるでー子。ギンガの申し出を快諾。

 こうしてケイマは、ギンガと同じ部屋で寝泊まりする予定を打ち砕かれたのだった。

 

「だだだ誰がケダモノだ。ででででめぇにだけは言われたくねえぜい」

 ケイマの視線の先にあるのは、イチャイチャとギンガにちょっかいをかけるでー子の姿。


「ギンガお姉様、大好きやでー」

「ちょっと、あんまり胸元にくっつきすぎるなや」

 でー子の髪の毛を引っ張り、お仕置きをするギンガ。


「いやん、ギンガお姉様。手加減してやでー」

 抵抗するでー子。


「おい暴れんなや、ガーゼがズレたわ」

 でー子の手がギンガの左肩に触れた拍子に、左肩と胸のまわりにさらし代わりで巻いていたガーゼが緩んだようだ。

 ギンガはその場で服の下から手を突っ込み、胸元のガーゼを巻き直した。ケイマがいることなどお構いなしだ。


「今日はちょっと締めが甘かったか。せやけど、あんまりキツくしすぎると血ィの巡りが悪くなる気がするねんなぁ」


 ギンガがごそごそやっている間、ケイマは顔を真っ赤にしてうしろを向いた。そのあと振り返ると、ギンガはあっという間に部屋を出る準備をしていた。


「早く早く、行きましょうやでー。こんなトコロとはオサラバやでー」

「ほな、あてはでー子の部屋で世話になるわ。カイザが帰ってきたら伝えといてやぁ」

 ギンガはでー子に連行されて部屋を去った。

 

 ひとり残されたケイマ。ドアが閉まる音がむなしく響く。


 

【二】


 ケイマはひとり、寮の部屋でカイザを待っていた。ギンガとハジメの対局を頭の中で再現して、イメージトレーニングをしていた。

 ふと、対局室に木製の塁を置き忘れていたような気がした。いつもの収納場所である赤槍を分解して中身を確認したところ、やはり一枚足りなかった。コインも数枚不足している。


「ししし仕方ねえぜ、取りに戻るか」

 重い腰を上げ、来た道を引き返す。


 対局室にはまだハジメの姿があった。あと片付けの最中のようだ。ドアは閉まっていたが、事情を説明して中に入れてもらう。

 どうやら、名対局を真剣に観戦しすぎて、塁の木片プレートを一枚直し忘れていたようだ。

 同じテーブルを探したところ、コインも見つかった。コインはそれでも一枚足りなかったが、テーブルの下で発見した。


「よよよよし、最後の一枚だぜい。ここここんなところに落ちていやがったのかよう」

 四つんばいになってテーブルの下に潜り込み、最後の一枚をゲット。

 拾ったコインを握りしめ、テーブルから抜け出そうと正面を向く。視線の先には、対局室のドア。アユムの店の対局室と違って縦長のガラスが入っているので、外の景色が少しのぞける。

 対局室の外には、赤紫のドレスを来た人影があった。長い髪は紫がかっていて、背格好もカイザに似ている。


「カカカカイザの奴、帰っていたのか。りょりょりょ寮の場所を覚えていないようだぜい。ししし仕方ねえ、教えてやるか」

 ケイマは対局室を出て、カイザらしき人影を追った。


「おおおおい、待てよカイザ!」

 カイザらしき人影に追いついたケイマ。少し走ったので、ぜいぜいと息を切らせる。手には塁とコインを持ったままだった。


「このプリンセスであるわたくしに、なにか御用ですかしら?」

 その人物は長髪をなびかせ、ゆっくりとした仕草で振り返った。


「へへへ部屋の場所を忘れたんだろう? しょしょしょ正直に言えよ、おでが案内するからよう」

「部屋の場所? なにを言っているのですかしら。わたくしはこの対局所の所長を探しているのです。プリンセスであるわたくしが、直々に会いに来ているのですわよ」

「ハハハハジメさんなら、対局室にいるぜい」

「対局室?」

「ささささっき、でめえがスルーしたじゃねえか」

「あら、わたくしとしたことが、目的地を通りすぎてしまったようですわね。東西南北が麻雀と違うので、いつも方向を間違えてしまいますの。そこのあなた、礼を言いますわ。わたくしはプリンセスなので、普段はお付きの者に案内してもらっていますのよ。ですから、方向オンチでも問題ありませんのよ」

 口元に手を当てて笑った。


「ででででめえはカイザじゃねえな」

「カイザ? わたくしの名は(あま)ナゴミ。さる王家のプリンセスですわよ。別の方と勘違いしていらっしゃるのではなくって?」

「ななななるほど、王族かよ。おでも元王族だぜい」

 吐き捨てるように言った。ケイマはかつて国を捨て、裏クリエイターとなる道を選んでいた。王族や貴族にはアレルギーがある。


「あら、その木の板と赤い槍はクリエイションではありませんのね」

 ナゴミはケイマの持ち物をひと目見るなり、言い当てた。

 

「一発で見抜くとは、でめえ、なかなかやるじゃねえかよ。ここここれは、手作りの特注品だぜい」

 非クリエイションは、手軽に生成できるクリエイションよりも高価な場合が多い。ただし、地域のクリエイター分布によるが。

 ケイマの母国にいた王族や貴族は、非クリエイションの愛好家が多かった。ナゴミもその手のコレクターだろうと決めつけたが、その予想は間違っていた。

 

「おほほ、このプリンセスであるわたくしにかかれば、品物の善し悪しなどは一発で解析できますのよ。一発といえば、麻雀にしてもクリエイションにしても、なんでも一発に限りますわ。わたくしに言わせれば、二次クリエイションなどは劣化品。手作りなんて論外、下の下ですわ」

「どどどどうやら、でめえとおでは水と油、考え方が正反対のようだぜい。同志を見つけたと思ったのによう」

 ケイマは敵対心をあらわにした。

 ナゴミは王族のお嬢様で、なおかつ非クリエイション嫌いの一発クリエイション愛好家。ケイマとはとことん反りが合わない。

 とはいえ、ケイマは根が真面目の正義漢だ。敵対する者であっても、困っていれば手助けをしてしまう。道に迷っているナゴミを放っておけず、対局室へと案内した。



【三】


 機島工房での第一日目を終えたカイザは、クタクタになって寮の部屋へ帰ってきた。

 部屋には誰もいなかった。ギンガとケイマの姿が見当たらない。対局所は閉店時間を過ぎている。すぐ戻ってくるはずだと見込み、カイザはシャワーを浴びて就寝の準備をすることにした。

 室内にトイレと浴室はなく、各フロアごとに共同だった。タクミから聞いた話によると、所員寮は元々男性専用だったらしい。だが、女性所員が増えたことで、女性用のフロアが新設されたようだ。


 タクミは昔、本店対局室の常連客だった。時期的には、琵琶海峡を渡ってきた直後あたりだろう。その後、機島工房を開いて独立。アユムやハジメ所長、上級所員のでー子という人と知り合ったのもその時期だったという。

 タクミはでー子と親交を深めるうちに、こっそり寮の部屋にお邪魔することもあったという。だから寮の構造を知っていたのだ。

 ふたりは似た者同士だった。両者とも、女性ではあるが恋愛対象は女性だった。ただし、タクミの場合は心が男性だが、でー子は違う。

 そして二年前、ギンガが裏組織から逃亡して外町に流れ着いた。ギンガは外町に旧友のタクミがいるといううわさを聞きつけ、頼るつもりで本店のドアをくぐったのだった。

 ギンガとタクミの付き合いは古い。松平対局塾の塾生時代からのライバルだ。

 その後、ギンガの立案によりQ2機関が設立される。タクミは新しい友人のでー子らと共に、機関の設立に貢献した。


 カイザはまだでー子と話していなかったが、顔だけは覚えていた。Q2機関本部でタクミと決闘騒動が始まったとき、机に突っ伏して眠っていた少女だ。

 そのときはタクミの相手をするのに必死で、でー子の存在は気にも留めていなかった。あとでタクミの話を聞いて、彼女がでー子だったのだと確信した。

 今回の大会では、でー子は本店の代表選手に選ばれたという。

 タクミが秋山対局所に登録替えをしたのは、本店では予選を通過する見込みがなかったからだ。つまり、でー子がいなければ、タクミは登録替えをしていなかったも同然だ。友人同士でありながら、複雑な関係だ。

 複雑に絡み合ったQ2機関の人間関係。でー子以外のメンバーの話も、タクミからうんざりするほど聞かされた。

 カイザはもの覚えが良かったので、タクミの話をすべてを丸ごと覚えてしまった。人間関係には人一倍敏感なのだ。実際に会ったことがなくとも、タクミの話から人物像を推測した。

 でー子とも実際に話したことはなかったが、タクミの話からどんな人かを想像していた。会う前から完璧にシュミレーションしておくのがカイザのやり方だ。

 ちなみに、もうひとりの本店の代表選手・後醍醐ダイゴというクリエイターに関しては、タクミもよく知らないと言っていた。


 部屋でしばらく待っていると、ケイマがひとりで帰ってきた。ギンガの姿はなかった。

前々から名前だけ出ていた新キャラちゃんがついに登場!

服装とか声でカイザじゃないと気づけよとツッコミを入れたいところですが、そこがケイマの良いところ(?)です。

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