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カードチェス  作者: 破天ハント
第二部第二章︎︎ 準クリエイター編(前編)
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第十五話〖代理戦争(前編)〗

『学園カードチェス』前回までのあらすじ!(大嘘)


「観念するのら、帝君。生徒会長のアユちゃんが来たからには、もう悪さはさせないのら!」

生徒会長の兵頭歩ちゃんは、日々学園の不良たちと戦っていた。対局で倒した不良を強制的にTCG研究部に入部させ、根性を叩き直しているのだ。

そしてついに、学園一の不良・覇田帝君との対局がはじまった⋯⋯!


※このあらすじはジョークです。本編とはいっさい関係ありません。

【一】


 向かい合うケイマとでー子。その間に入るギンガ。


「紹介するでぇ。こいつがうちの対局所の代表選手、前田ケイマや。もうひとりは覇田カイザっちゅうんやけど、今ここにはおらへんねん。でー子、あんたがもうちょっと早く来たら会えとったんやけどなぁ」

 ギンガはケイマの肩にポンと手を置いた。


「よよよよろしくお願いするぜい」

 ケイマはでー子に握手を求めた。


「よろしく、トゲトゲ君。うちのことはでー子と呼んでやでー」

 でー子は、その体格から想像もつかないほどの怪力でケイマの手を握りつぶそうとした。


「とととトゲトゲ君じゃなくて、ケイマだぜい」

 でー子の奇行に動じず、落ち着いて呼び名の訂正を求めるケイマ。


「ふん、トゲトゲ頭なんだからトゲトゲ君でいいじゃないのやでー。それよりおたく、ギンガお姉さまとはどういう関係なの? やでー」

「ギギギギンガ姉さんとは、昔お世話になった仲だぜい」

「お、おたくはうちよりギンガお姉さまと長いっていうの? やでー」

「ととと途中、疎遠の期間はあったけれど、今はこうして代表選手として一緒に行動しているぜい」

「きぃー! 許せないやでー。おたく、うちと対局しやがれやでー」

「ででででも、ここは表の対局室だぜい。ささささすがに真剣対局はできねえだろう」

 ケイマは横目でハジメのほうを見た。


「派手にやるつもりなら、外のクリエイトスペースを使うか、裏対局室でやってもらいたいかな」

 ハジメは苦笑いを浮かべつつでー子を制止した。


「いいえ、練習対局で十分やでー。今、向こうの席が空いたから、やりましょうやでー」

 でー子は空いた座席を指差し、ケイマを挑発する。


「そそそそれなら問題なさそうだ。ののの望むところだ、受けて立つぜい。おおおおでは練習対局も好きなんだ。テーブルで顔を突き合わせて本物のカードを触る対局もいいもんだぜ」

 ケイマはでー子の心中を察することなく、ただ無邪気に対局の誘いに応じた。


 こうして、カイザ対タクミ戦に続く第二の決闘がはじまった。

 でー子は本店の上級所員であり、裏クリエイターではない。裏対局室にも滅多に入らない。でー子が何かを賭けて対局する機会はそうないが、ギンガのことになると我を忘れてしまう。

 だが、今回は決闘といっても特になにかを賭けるわけではない。表の対局室でおこなわれる、単なる練習対局だ。相手の実力を把握しておいて、二週間後の本戦で叩きのめすのがでー子の目的だった。


「ににに西本州では、練習対局でも四角い塁を使うのか」

 ケイマは練習対局用プレイマットに感心した。


 各テーブルには、まったく同じデザインのカードチェス用プレイマットが敷いてある。この対局室では、プレイマットに描かれた図形をボードとして使用するのだ。

 ケイマは裏クリエイターなので、表の対局室に出向く機会はほぼない。今日のような練習対局は新鮮だった。


「四角い塁がそんなにめずらしい? やでー」

「おおおおでは東本州出身なんだぜい。むむむ向こうでは正六角形の塁がポピュラーなんだよう。ここここれを見てくれよ」


 ケイマは腰に下げていた赤槍を見せ、雑巾を絞るように左右にひねった。五十センチメートル程度に圧縮されていた槍が、徐々に伸びてゆく。槍は真っ二つになり、中から数十枚の木片がこぼれ出た。

 ちなみに、槍の穂先は内部に収納されたままなので、表対局室で出しても安全だ。


「ここここれは手作りの塁だぜい」

「へえ、クリエイションではないのかやでー。なかなか器用じゃないのやでー。面白そうだから、今回はこれを使いましょうやでー」

 正六角形の木片を手に持ち、しげしげと見つめるでー子。

 

「おおおおう、こいつの良さを分かってくれるのか。ででででめえは同志だぜい」

 ケイマは再度握手を求める。が、はねのけられてしまう。


「カン違いしないでやでー。うちは同志なんかじゃないやでー。今回だけ特別に、おたくの土俵に上がってやろっていうだけなんだからね、やでー」

「おおおおう、そうかい。せせせせっかくわかってくれる奴が増えたと思ったのによう」

「でへへ、じゃあ、さっそくはじめましょうかやでー」


 こうして、真剣な練習対局がはじまった。



【二】


「オラァ、ケイマァ。頑張りやぁ。でー子に負けとったらアカンでぇ」

 ギンガはケイマの横に立ち、バチンと肩を叩いた。


「いいいいてっ! ギギギギンガ姉さん、応援してくれるのはありがたいですけど、ちょっと力が入りすぎですぜい」

「おっと、そりゃあスマンなぁ。あんた、ガタイええからこれくらい受けとめられると思うたんやけどなぁ」


 ギンガは一見細身のように見えるが、恐るべき剛腕の持ち主だ。まともに受け止められる者はそういない。あえて挙げるなら、ジャイ男くらいだ。

 カイザやほかの人の肩を叩くときはかなり手加減していたが、ケイマのときはなぜか気を緩めてしまう。


「むむむー! お姉さまは、うちの味方をしてくれるんじゃなかったの? やでー。そんな、どこの馬の骨とも知れないやからに肩を持つなんて⋯⋯」

「ううう馬の骨じゃなくて、暴れ馬だぜい」

「おたくは黙ってなさいやでー! うちはギンガお姉さまに言っているの、やでー」

「おおおお、おう」

 でー子の剣幕に押され、引き下がるケイマ。


「悪いなぁ、でー子。あては、今はアユムの店の副所長なんや。せやから、こっちを応援させてもらうでぇ」

 ギンガはケイマの背後に立ち、でー子と対立する。

 間に挟まれたケイマはキョトンとした顔で成り行きを見守った。


「そ、そんなー! やでー」

「おおおおではどうすれば⋯⋯」

 なぜかでー子に逆恨みされるケイマ。鈍感なのでその理由もわかっていない。


「じゃあ、僕はでー子ちゃんの味方をするよ。といっても、もちろん横からアドバイスはしないけれど」

 ハジメはでー子の横に座った。あえてギンガたちの前に立ちふさがり、兵頭対局所に試練を与えて成長させるのがハジメのやり方だ。

 とはいえ、もしも相手がギンガではなく愛娘アユムだったら、甘々になっていただろう。


「ハジメパパ、でー子はたしかに実力者や。せやけど、ケイマもうちの店ではトップクラス。甘く見とったらアカンでぇ。なんせ、ジャイ男に勝って予選を通過した男やからなぁ」

「ケケケケイマ君が彼に勝ったという情報はもう知っているよ。彼はそちらに登録替えをしたけれど、こちらとの交流が途切れたわけではないからね」

 兵頭対局所本店の所長と、兵頭対局所の副所長。ふたりは向かい合うように座り、火花を散らせる。「ケケケは余計」というケイマの声は届かない。


「っちゅうことは、ジャイ男を通じてうちの店をスパイしとったんかいな」

「スパイとは人聞きが悪い。愛娘を見守ってもらっていただけさ」

「ホンマ、親バカやなぁ」

 ギンガは呆れて口角を引きつらせ、左目を細めた。

 ハジメが親馬鹿になる気持ちもわからなくもない。アユムはまだ七歳なのだ。アユムが普通の子どもとは違うと頭でわかっていても、なかなか納得できないものだ。


 ギンガが片眼鏡のズレを直した拍子に、隣に座るケイマに肘がぶつかった。

 そのときのケイマの表情を、でー子は見逃さない。


「きぃー! ギンガお姉さまったら、さっきからボディタッチが激しすぎやでー。馬の骨が調子に乗っちゃうじゃないのやでー」

「だだだだから、馬の骨じゃなくて暴れ馬だぜい」

 というケイマの言葉はスルーされる。

 

「そうカリカリするなやぁ、でー子。あての腕が長いから、ちょっと当たっただけやないか。そういう深い意味はないわ」

「ギンガお姉さまに深い意味がなくても、この馬の骨にはあるみたいやでー」

 妬みの炎を燃やすでー子。


「まあまあ、落ち着いて。とりあえず、対局をはじめようか。決着は対局の結果次第ということで」

 ハジメは三者の間に割って入り、早く対局をするように誘導する。

 

「よろしくお願いしますやでー」

「よよよよろしくお願いするぜい」

 対局前の握手を交わすケイマとでー子。真剣な練習対局が幕を開ける。

 でー子は相変わらず目を吊り上げてケイマをにらみ、握手の手に力を込めている。


「そそそそんなに敵視しなくてもいいじゃねえかよ。ななな仲良くしようぜい、えっと、でー子さん」

「お黙りやでー。うちとおたくは敵同士なの、やでー」


 この対局では、なにも賭けない。表の対局室では、賭博対局はご法度だ。今回本戦に向けた小手調べのようなもの。だったが、なぜかでー子だけヒートアップしている。

 でー子にとっては、愛を賭けた負けられない戦いなのだ。そして、ギンガとハジメにとっては、互いの対局所の威信を賭けた代理戦争でもあった。


 普段は熱血漢のケイマだったが、今回だけは冷めている。でー子に敵視されてる理由に気づいていなかった。

 一方、実力はあるがいつもはお馬鹿でぐうたらなでー子が、今回だけは燃えている。

 その隣では、ギンガとハジメがにらみ合っている。

 それぞれの想いがテーブル上を交錯する。


 そのころ、もうひとりの本店の代表選手、ダイゴは誰からも忘れられていた。元々、空気のように目立たない存在だ。ダイゴは遠くからふたりの対局を見物していた。



【三】


 先手を取ったのはでー子だった。第一手番から駒を登場させていく。ケイマへの煮えたぎるような感情とは裏腹に、極力戦闘をさけて味方駒を安全な場所に移してゆく。


「うちの手番やでー。〔芥川(あくたがわ)龍之介(りゅうのすけ)〕を出すやでー」

 美少女化された文豪が、また一体盤面にあらわれた。


 でー子は手番ごとに、着実に駒数を増やしていく。ゆっくりと盤面を整え、クモが糸を張るように場所取りをしてケイマの動きをけん制する。そしてじわじわと相手を痛ぶり、制圧するのがでー子のプレイスタイルだ。


「ななななるほどな。ででででー子さんは、Q2機関では旧時代の文学を研究しているんだよな。だだだだから、文豪デッキというわけかい。ななななかなか面白そうなデッキだぜい」

「うちのデッキのどこが面白そうなのよやでー。馬の骨のくせに、馬鹿にしないでやでー」

「そそそそういう意味で言ったんじゃねえぜい。おおおおでは、対戦相手のデッキをおとしめたりはしねえ。そそそそれより、でー子さんこそ、さっきからおでのことを馬の骨呼ばわりしやがって。おおおおでには前田ケイマという名前があるんだ。そそそそろそろおでも怒るぜい!」

 さっきまで冷静だったケイマだが、少しずつ苛立ちが募り、ついには我慢の限界に到達する。


「だだだだいたい、おでは友好的に接しているのに、どうしてでめえは突っかかってくるんだよう? おおおおでがなにをしたっていうんだよう? ととと年下のくせに、生意気だぜい」

「うちはこう見えても十三歳やでー。おたくとひとつしか変わらないやでー」

「ひひひひとつでも、年下は年下だぜい」

「クリエイターには年齢なんて関係ないやでー。あるのは実力のみ。偉そうにするのは、うちに勝ってからにしなさいよやでー」

「よよよよし、だったら望みどおり実力で示してやるぜい。おおおおでが勝ったら、馬の骨は禁止だぜい。ケケケ『ケイマさん』と呼べよな! そそそそのかわり、おでが負けたらなんでも言うことを聞いてやるぜい」

「その条件、承諾したやでー。うちが勝ったら、もう二度とギンガお姉さまに近づくんじゃないわよやでー」

「ななななんだって? ままままさか、でめえもギンガ姉さんのことを⋯⋯」

 鈍いケイマだが、ようやくでー子の想いに気づく。


「ななななるほどな。ここここれはおでも負けられねえぜい!」

 ケイマの手番。目つきが変わった。真剣な表情でカードをドローする。 

でー子さんじゅうさんさいさんは、語尾の「やでー」を外すと標準語です。エセ関西弁ですらない。

ギンガお姉さまは性格も含めてコテコテの大阪人っぽいですが、実は奈良県(大和ノ國)出身。(第一部にて既出設定)


旧時代末期、日本各地の方言は全部消え去り、標準語一色になったという裏設定があったりします。新時代以降は、各クリエイターが好き放題に語尾を付けたりして自分だけの話し方をしています。

関西弁はギンガが本の力で復元・解読・習得しました。地味にスゴイ!


あれ?でー子ちゃんのQ2機関担当分野は、たしか文学・語学だったような⋯⋯。

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