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カードチェス  作者: 破天ハント
第二部第二章︎︎ 準クリエイター編(前編)
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第十三話〖クローバーの空き地〗

前回まで『学園カードチェス』のあらすじ!(大嘘)

廃部寸前のアイドル研究部を建て直すため、TCG研究部の美人部長・機島卓美ちゃんと対局することになった銀河ちゃん。

負けた側は、相手の部に入部しなければならない。

互いに負けられない一戦が開幕した!

(※この前書きはジョークです。本編とはいっさい関係ありません)

【一】


 旧時代生まれの人を『旧時代人』、新時代生まれの人を『新時代人』という。特になんのひねりもないネーミングだが、すでに定着している俗称だ。

 さらに、新時代を経験せずに死んだ旧時代人を『純旧時代人』、両親ともに新時代生まれの新時代人を『純新時代人』ともいう。


 カイザと同年代、あるいは年下の者たちは、もちろん純新時代人だ。少し上の年代では、本店所長の兵頭ハジメもギリギリ二十代の純新時代人。

 カイザの知る有名人でいえば、下摂津七人衆の秋山アキラや、大和ノ國の女王・斑鳩イルカも純新時代人だ。

 甲斐ノ國の角川リョーマや越後ノ國の飛山リューオウは、新時代人だが「純」はつかない。下摂津ノ國の覇道テイトクは不明。


 一方、山城ノ國の御璽羅川ホウギョクや、吉備ノ國の残雪院ゼンオウ、越前ノ國の松平シュンギョクといった七十代後半の王たちは、旧時代人だ。

 彼らは極東がまだ日本という名のひとつの国家だったころに生まれ、科学万能の世界で少年期を過ごした。そしてある日突然、時代の終わりを目撃する。

 彼らがもし大災厄で「純」がつく旧時代人になっていたら(つまり死んでいたら)、新時代の歴史は大きく変わっていただろう。


 ホウギョクを筆頭に、昔は良かったと嘆く旧時代人は多い。だが、シュンギョクのように、クリエイターが活躍する今の時代のほうが素晴らしいと説く者もいる。

 今や新時代人の人口は増え、旧時代人は順番に数を減らしつつある。純新時代人の若手クリエイターがちらほら台頭しはじめ、社会の流れが変わろうとしていた。

 若者たちの中には、大災厄などなかったという説を信じている者もいる。実際にその惨状を見たわけではないので、そう考えるのは無理もない。

「大災厄」というネガティブな言葉のかわりに「時代転換」という単語を用いる者もいる。彼らからすれば、今はクリエイターが活躍する「良き時代」なのだ。

 時代転換によって人類は滅びかけたが、結果的には良い出来事だったと本気で思っているらしい。


 逆に、旧時代の科学技術にあこがれる純新時代人もいる。Q2機関のように、かつての文明を復活させようと試みる団体もある。

 Q2機関の活動は、ギンガがクリエイトした本によって支えられている。各ジャンルを担当するメンバーが様々な専門書を読み解き、得た知識を実践するのだ。

 タクミはもっとも熱心な活動家だった。


 機島工房では、ソーラパネルやモーターの生産、電気で動く機械の復活を試みていた。工房の外にある青い車も、実はガソリンではなく電気で動く。下摂津ノ國でクリエイト、または二次クリエイトされた自動車は、ほとんどが電気自動車だ。

 東本州の北部には石油系や石炭系のクリエイターが多いが、西本州では数が少ない。下摂津ノ國には残念ながらひとりもいない。クリエイションタイプは、なぜか地域ごとに偏りがある。


 西本州で消費される電気エネルギーは、その大半がソーラパネルによって供給されている。最近はクリエイションの力で発電する「クリエイション発電機」が普及しはじめているが、まだ少数派だ。

 外町の建物には、かならずといってよいほど屋根の上にソーラパネルが設置されている。せいぜい室内の照明程度だが、役には立っているようだ。


 カイザのような瓦礫ノ園出身者は、電気すらない生活をしていた。瓦礫ノ園に一夜で出現した兵頭対局所も、最初は電気系統の設備が不十分だった。

 建築系クリエイターはガワの部分しかクリエイトできない。人が住むためには、そのままでは不十分だ。見えない部分の設置や内装などは、あとから追加しなければならないのだ。

 地下の裏対局室は、いまだに照明もなく薄暗いままだった。そのほうが裏対局室らしいというアユムの意向に合わせたようだが、実際には予算の都合で取り付けられなかったのだろう。

 裏対局室は、誰かが真剣対局をはじめることで「明かり」がともる。対局空間発生時に現実世界側にあらわれる立体映像が明かりになるのだ。

 立体映像は光の粒子で構成されている。霊光より淡いが、光源としては充分だ。


 一方、都ではクリエイション発電機がよく使われている。クリエイション発電機はソーラパネルと違い、雨やくもりの日でも発電できるというメリットがある。

 デメリットは値が張ること。使用者のクリエイションタイプごとにオーダーメイドになるからだ。

 しかも、クリエイション発電機は利用者を選ぶ。リミテッド系かつ自由自在に動かせるクリエイションを生成できるクリエイターだけが扱うことができる。

 カイザが知る中で、適性があるのはカイザとケイマのみ。ギンガやアユムではクリエイション発電機を動かせない。タクミは使う側ではなく、作る側だ。


 クリエイション発電機には、大量の霊力を消費するというデメリットもある。「クリエイション発電機を動かすためのクリエイション」を生成するための霊力が必要になるからだ。

 結局、間接的に霊力を電力に変換しているだけなのだ。電気系クリエイターの下位互換にほかならない。


「――と、オレは思うわけだ」

 タクミはカイザに軽作業の指示を出しつつ、上記のような内容を二時間かけて語った。



【二】


 秋山対局所の大会予選期間中、機島工房は休みだった。事前に登録替えをしていたタクミは、予選に参加するために工房を閉めていたの。

 とはいえ、予選参加者はタクミとナゴミのふたりだけ。予選突破は、はじめから決まっていた。やることはなにもない。アキラと顔を合わせてから、またすぐに外町に戻ってきたというわけだ。


「明日から工房を本格的に再開する。カイザの自己紹介はそのときにしてもらうぜ」

 タクミはワンコの頭をなでながら言った。

 ワンコはタクミの指示に従い、工具をくわえて運んだり、元の場所へ戻したりしていた。賢いイヌだ。


「了解。一発芸とかはやらなくてもいいよね?」

「心配するなよ。さっきQ2機関本部で顔を合わせた奴らばかりだぜ。やりたければやってもいいが。さっきのきたねえ妖精さんを出したらウケると思うぜ」

「やらないよ! それに妖精じゃなくて悪魔だよ」

 カイザはタクミとたわいもないやり取りをしつつ、ワンコに負けないように仕事を覚えていった。


 要領は悪くないほうだった。急に環境が変わってもソツなくこなせるのがカイザの強みだ。カードハンターから兵頭対局所の所員になったときもそうだった。

 だが逆にいえば、ひとつのジャンルを極められないということにつながる。

 その点でいえば、カイザとタクミは正反対だ。タクミは自分の好きなことだけに集中して成果をあげるタイプだった。そのぶん周りは見えていないとはいえ、カイザにとってはあこがれる性格だった。ないものねだりと言ってもよい。

 カイザは環境に馴染みやすいぶん、悪い部分を取り込むのも早い。クリエイターとして成長するほどに、ギンガの悪い部分が似ていると指摘された。


(僕も、タクミみたいに確固たる信念を持ってなにかを成し遂げられるなら⋯⋯)

 カイザにとってクリエイターとしての成長は、自分らしさを探す旅でもあった。機島工房では、なにかを掴めそうな気がした。


 工房での作業がひと段落着くと、タクミはワンコにエサを与えた。その間、人間も食事タイムだ。タクミとカイザは工房の外に出た。


「ほらよ!」

 タクミはカイザにパンと水を渡した。


「あ、ありがとう」

「食ったら、次はもう一度真剣対局だ! 空き地に戻るぞ」

 完全にタクミのペースだった。


「やれやれ、また敗北の苦汁を舐めたいのか」

「うるせえ。次こそ勝ってやるぜ」


 対局となれば全力で相手をする。わざと負けてタクミに花を持たせるという考えはなかった。それに、タクミが勝てば、ますます強気な態度を取るに違いない。カイザとしても負けるわけにはいかなかった。


 ふたりは青いオープンカーの側で腹ごしらえをした。タクミによると、電気自動車は蓄電池としても活用できるらしい。車に接続されたケーブルは、工房内へと伸びていた。

 カイザは感服した。タクミとはふたつしか歳が変わらないのに、外国の地でここまで築き上げたのだ。

 もちろん、ひとりですべてをこなしたわけではない。多くの人に助けられてきたのだろう。だとしても、カイザにとっては驚くべきことだった。



【三】


 ふたたび、クローバーの空き地にて。タクミ対カイザ、本日二戦目の対局が開幕した。


「お願いします」

「お願いするぜ」


 が、あっさり閉幕。カイザの圧勝だった。ワンコが見守る中、ふたりは現実世界に帰還する。


「ひっでえ、オーバーキルだぜ」

「未遂でしょ。だけど、タクミの体力が倍の三十点スタートでも削りきっていた自信はあるよ」

「オマエのデッキは脳筋だからな。オレのデッキの繊細さを見習いやがれ」


 脳筋、脳みそまで筋肉の略。大型駒で高打点が叩き出せる単純パワー系デッキは、「脳筋デッキ」とも呼ばれる。

 カイザのデッキは、典型的な脳筋タイプだった。


「たしかに、タクミのデッキは精密機械のように繊細だよ。だけど、プレイングが伴っていないから使いこなせていないんだ。コンボを決める前の段階なのに、熱くなりすぎ。すぐ挑発に乗る。目先のエサに食いつきがち。終盤の展開をまるで考えていない」

 カイザはタクミの弱点を淡々と述べた。おとしめているわけではなく、冷静な評価だ。


「チッ、痛いところを突きやがるぜ」

「そうだ、いいことを思いついたよ。僕とデッキを交換して対局してみない?」

「いいぜ。今度こそオレが勝ってやる」


 デッキ交換からの三戦目。勝者はタクミだった。


「やっぱり、使い慣れていないデッキでは勝てなかったか」

「オマエのデッキもなかなか悪くなかったぜ。だが、カイザはどうして自分のクリエイションタイプと違うデッキを使っているんだ? 悪魔デッキを使う気はねえのかよ」

「そういえば、どうしてだろう? 最初に使ったデッキだったからかな。悪魔デッキも気になるけど」

「クリエイションタイプと使用デッキは、近いほど霊力上昇率が高くなるんだぜ。つまり、レベルアップやランクアップが速くなるということだ」

「へえ、そうなんだ。知らなかったよ」


 思い返せば、タクミやケイマ、リヒトはクリエイションタイプと使用デッキが完全一致している。アユムとジャイ男は、当たらずとも遠からずといったところか。

 カイザは不一致タイプだが、無理やり関連付けようと思えばできないこともない。ギンガにいたっては、如何様にでもこじつけられる。


「悪魔系の駒札は、捨札利用やハンデス系が多いぜ。面白いから、一度悪魔デッキを組んでみるといい」

「ありがとう、そうするよ」

「だが、大会が終わってからにしろよ」

「わかっているよ。大会では、自分で登録したカードしか使えないからね。今組んでも意味がない。それより、アバターチェンジのコツを早く教えてよ」

 カイザは子どものようにしつこくせがんだ。


「仕方ねえな。教えてやるよ」

 タクミは空き地の真ん中に腰をおろした。ワンコを抱いて説明をはじめる。


「親札は、対局空間におけるプレイヤーのアバターみたいなもんだ。そのデザインは、プレイヤー自身の身体イメージが投影される。つまりだな、リアルかつ強烈な思い込みによる自己認識の変更で、自分で自分をデザインできるってことだ。自分はトラだと思い込めばトラになれる。竜だと思い込めば竜になれるってことさ。まあ、さすがにそれは、人間には不可能だと思うが」

 タクミはワンコをトラに見立て、前足をつかんで「がおー」と棒読みした。


「スゴいよ! 僕にもできるかな?」

 目を輝かせるカイザ。


「コツを掴めば余裕だぜ。だが、一度決まったデザインは、対局空間から出るまで変えられない。真剣対局を繰り返して対局空間を行き来して、何度も何度もやり直して練習すれば、そのうちオマエもできるようになるかもな。もちろん、誰でもできるわけじゃねえ。絶対とは言い切れねえぜ」


 タクミは、戦争や事故で手足を失った人と話した経験談を語った。幻肢痛といって、切断したはずの手足が痛みだすことがあるのだという。詳しい原因は不明だが、脳の誤認識か関係しているともいわれている。

 その話を聞いたタクミは、思い込みの力を利用して自分で自分をだます術を考えついたというわけだ。


「ギンガが裏組織を抜けて元相棒に殺されかけた直後だったかな。アイツ、まだ左上半身の傷が治ってねえのに、暇つぶしでオレに対局を挑んできがったんだぜ。不思議なことに、対局空間では耳の傷が消えていた。だから、親札での直接攻撃時に奴の塁に乗り込んで確かめてみたら――」

「あ、それ以上は言わなくてもいいから。どこを触って確かめたのかはだいたい想像がつく。それにしても、よく怒られなかったね」

「まあ、塾生時代からの悪友同士だからな。あとでメチャクチャ怒られたけど」

実際の性別と中身が不一致のタクミと、実際の性別と見た目が不一致のカイザ。ふたりの会話を字面だけ見ると男性同士ですが、絵面では女性同士。で、実際には男女。

単なる性別逆転コンビと違い、どう入れ替わってもお互い満足できない最悪のカップリング⋯⋯。この不一致コンビ、わりと作者のお気に入りです。

性格やクリエイションタイプ・デッキタイプなどことごとく正反対ですが、両者の共通点はオッパイ星人だということです。カイザも、ココナが巨乳だったら「妹のような扱い」はできなかったはず(本編には書けないゲス思考)

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