第十一話〖手続き〗
もしも作中キャラの名前を漢字にして改変したら!~名前だけでキャラをイメージしてみた!(※この前書きは、本編とは無関係なおふざけです)
帝君→「帝」一文字で、みかどではなくカイザと読む。中二病キャラもしくは不良キャラ。なお本編では(以下略)
桂馬君→将棋の駒の擬人化!?身軽で脚力ありそう。なお本編では(略)
銀河ちゃん→やたら目がキラキラした萌え系アイドル。なお本編では
歩ちゃん→将棋の駒の擬人化!?アユミよりアユムのほうがボーイッシュな気がする。量産型で弱そう。なお本編
卓美ちゃん→声に出すと男性名っぽいが、漢字に直すと普通に美人そう?なお
【一】
ときは数分前にさかのぼる。カイザが勝利する三、四手番前だった。
「⋯⋯悪しき伝統の元凶は君だったのか」
カイザはなかば呆れつつ、諦めるように言った。
電化製品を擬人化したタクミの駒は、昭和時代風のレトロなファッションに身を包んでいた。だが、なぜかスカート丈だけ時代にそぐわず短めだ。
タクミは劣勢の現実から目を背けるように、自分の駒たちにちょっかいを出して遊んでいた。
「チッ、やっぱり見えねえぜ」
対局空間内で女性の姿からちょいワルオヤジ風に変身したタクミは、塁にしゃがみこんで家電少女たちのスカートの中を見ようとした。が、対局空間内の仕様により阻害されてしまう。
「重要な決闘の最中なんだけど、あえてツッコまないことにしよう。この光景は、ギンガとの対局で見慣れているからね」
ギンガは集中力を調整するためにやっている印象が強かったが、タクミの場合は目が本気だった。これではちょいワルオヤジではなく、ただの変態おじさんだ。
「オレは昔から女の子が好きだったんだ。男にはまったく興味ねえぜ」
対局終了後、元の女性の姿に戻ったタクミはカミングアウトした。
「そうだったんだ。まあ、そんな気はしていたけど」
カイザは当たり前のように受け入れた。新時代の人間には「普通」という概念が通用しないからだ。特にクリエイターたちには。
元カードハンターだったカイザは旧時代的な価値観が強かった。だが、ギンガとの出会いによってクリエイターという生き物の考え方を嫌というほど叩き込まれていた。
カードの雨による大災厄以降、新時代は国も民族もなにもかもバラバラになった。行き着くところまで分離、分裂、細分化した先にあらわれたのがクリエイターたちだ。
髪型、服装、しゃべり方。どれひとつ取っても、クリエイターにはオーソドックスといえるものがひとつもない。
ひとりひとりが、自分しか属さない文化圏の独自文化を守り、自分しか話し手のいない言語を話し、自分の肉体という名の国土に暮らす外国人なのだ。
とはいえ、ギンガの趣味を知ったときやオムツ姿のアキラには面食らったものだが。
「見抜いていたのか? オレの遮断能力はカンペキだったはずだぜ」
「いや、霊視とかじゃなくて、雰囲気で」
カイザとタクミは三度目の握手を交わす。一度目は自己紹介のとき。二度目は対局空間生成の儀式のときだ。
「塾生時代は下級生の女の子にチヤホヤされていたもんだぜ。だが、二個下のギンガが中途で入塾して、オレの人気を全部かっさらっていきやがったんだ」
恨みがこもった視線をギンガに向ける。
「まだ根に持っとるんかいな。あてはそんなん忘れてもうたわ」
ギンガは慣れた作業のようにヘラヘラしながら受け流した。
「オレの前ではもう男装するんじゃねえぞ。ギンガは昔から、男装したら女の子にモテモテだったからな。その気もねえくせにオレが狙っていた子をもてあそびやがって」
「理由もあらへんのに、もうせぇへんわい。あてが変装するんは裏組織の奴らから隠れるときだけや」
タクミとギンガは塾生時代の悪友コンビだが、互いになにかしら思うところがあるようだ。
カイザはふと、タクミが遮断能力を鍛えた理由を想像した。だが、口には出さず心の中にしまっておいた。
「ギギギギンガ姉さんの男装姿、少し見てみたい気もするぜい。だだだだけど、おでよりカッコよくて落ち込みそうだぜい」
勝手に落ち込むケイマ。たしかに、ギンガは長身で引き締まった体型なので、男装がさまになりそうだ。
「女装やったらしたるでぇ。ちょうど本戦がはじまる日ぃあたりにな」
絶不調日の恒例行事のことだろう。
「女装もなにも、ギンガは元々女だろ!」
カイザはすかさずツッコミを入れた。
「おう、そういえばそうやったわ」
わざとらしいリアクションを取るギンガ。
「せやけど、カイザはあてのことをそういうふうに見とったっちゅうわけやな」
「はあ? 変な解釈をしないでもらえるかな」
カイザは眉間にしわをよせてそっぽを向いた。横でケイマがうらやましそうにしているのが余計に腹立たしい。
「じょじょじょ女装といえば、やっぱりカイザだぜい」
「僕は髪を伸ばしているだけで、女装ではないからね」
一応、周りの人間に誤解されないように断りを入れておく。
【二】
カードハンターでは、カイザのほかに長髪の男性はいなかった。単純に仕事の邪魔になるからだ。
だが、クリエイターには多い。男性は短髪、女性は長髪にしなければならないという法律などない。下摂津ノ國の王、覇道テイトクも髪を背中あたりまで伸ばしてうしろにまとめていると聞く。
カイザは十四歳になったが、まだ声変わりが始まっていなかった。肩幅はいっこうに広くならないのに、近ごろ骨盤が横に広がってきているような気がしていた。
新時代人は霊毒の影響によって瞳や髪、爪の色が人それぞれ違っている。まれに骨や歯が違う形の人もいるらしい。アキラやタクミの歯がそれに当たる。
ギンガは極東人の女性にしては年齢のわりに長身で、しかも身長の割合に対して手足がかなり長い。背は毎年伸び続けていて、成長はまだ止まりそうにないという。生まれつきによるものかは不明だ。
逆に、アユムは短期間で猛烈な修行対局をしたことにより、六歳で体の成長が止まってしまった。原因は霊毒で間違いない。
カイザは少女のような容姿だが、性別はれっきときた男性だ。性認識も男性で、恋愛対象は女性。包容力のある年上の女性がタイプだ。あくまで容姿だけなら、タクミはかなり好みだった。
ケイマは小太り気味だががっちりした体格で、見た目も中身も実際の性別も、しっかり男性そのものだ。価値観はめずらしく旧時代的。
家庭教師として潜入していたギンガと交流する中で、尊敬が恋慕に変わったのだろうか。容姿の好みに関してはカイザの知るところでなない。
タクミは容姿も性別も美しい女性だが、性認識は男性で、恋愛対象は女性。可愛らしい女の子がタイプのようだ。最初はカイザを女性だと勘違いしていたが、男性だと知って興味を失っていた。
同性の友人にはギンガのような男勝りなタイプが多いと見受けられる。お互い相手に興味が無いから友情を保っていられるのだ。
ギンガは裏組織時代から体を鍛えているので、見た目は細いが筋肉質で引き締まっている。クールな顔立ちで女性にしては長身なので、以前はよく男装して身を隠していた。
性認識は男性でも女性でもないが、左胸を失った直後はさすがにショックを受けていたらしい。女性としては元々自信がなかったように見える。
数日前、年齢性別関係なく背の低い子がタイプだとカイザに告白した。新時代といえども、まだ一部の人にしか教えていないようだ。とはいえ、実際の恋愛感情は元から希薄で、一番好きなのは白札集めだと言っていた。
ギンガとタクミは、表面上は似たもの同士の悪友だが、内面はかなり違っている。よくよく観察しているうちに、カイザはふたりの違いをいくつも見つけた。
両者ともケンカ好きで勝負事を好むが、ギンガはあくまで冷静に利益を追う。タクミは熱中しすぎて自分を見失うことが多い。
ギンガは様々なことに興味を持って知識を集めるタイプだが、注意散漫。タクミはなんでもひとつのことに熱中するオタク気質だ。
「そういや、あてもカイザと一緒やったわ。はじめてタクミに出会ったあの日。からかったろう思うて、言葉尻を捉えて揚げ足を取ったんや。そしたらタクミは火がついてもうて、『決闘しやがれ』言うて対局を仕掛けよったんよなぁ」
「ああ、そんなこともあったよな。塾生時代が懐かしいぜ。やっぱりギンガとカイザは似たもの同士だな」
昔話に花を咲かせるふたり。
「冗談じゃないよ。どうして僕がこんなクズの鬼畜片眼鏡と一緒にされなくちゃいけないんだ」
ギンガと似たもの同士だと言われ、横で聞いていたカイザは反射的に否定した。
「まあ、ギンガがクズなのは確かだな」
納得するタクミ。
「おいクルルァ、ふたりして目の前で人をクズクズ言うなや!」
ギンガは片腕でタクミの首を絞め、もう片方でカイザの髪を掴んで確保する。
「ああああんまりギンガ姉さんの悪口は聞きたくないですぜい。ギギギギンガ姉さんも、そのへんでやめておきましょうぜい」
仲裁に入るケイマ。
「なに本気になっとんねん。冗談や」
「冗談だよ」
「冗談だぜ」
「そそそそうだったんですかい。ままま真に受けてしまったぜい」
ケイマは集中攻撃を受けて撤退した。
「カイザに似ているといえば、ギンガよりうちのもう一人の代表選手のほうが似ているぜ」
「ナゴミちゃんだっけ?」
「なんだ、知り合いかよ」
「いや、秋山対局所でアキラから聞いたんだ。だから、その人とは会ったことはないよ。アキラも、僕とナゴミちゃんがそっくりだって言っていた」
「天ナゴミ。あいつはオマエたちと同い年だぜ。アキラに気に入られていて、今は秋山対局所の副所長だ。ものすごく運がいい女なんだが、なんか信用できねえんだよな」
「ものすごく運がいい? なんだか僕とそっくりじゃないか」
「あとで会ってみるといい。世界には自分と同じ顔のヤツが三人いるとかいう都市伝説がある。ドッペルゲンガーとまではいかないまでも、カイザとナゴミはまあまあ似ていると思うぜ。声や性格は全然違うがな。あと、おっぱいも。ナゴミは大きかったぜ」
だんだん話題がそれて、下世話な方向へと進む。
得るべき情報は得たので、カイザは話を切り上げる流れに持っていくことにした。
【三】
「さてさて、決闘もカイザの勝ちで終わったことやし、本戦の参加登録手続きをしに行くでぇ」
ギンガはカイザとケイマを連れ、兵頭対局所本店から出た。都の門前にある役所を訪ね、中に入る。
カイザとケイマは、登録対局所と自分の名前、親札の副カード名に使う通り名を用紙に書き、念写真で顔を記録された。最後にチェックシートで使用デッキのカードを一枚ずつチェックして終了だ。
デッキの登録は再申請ができないので、チェックシートは何度も確認した。手続きが済んで外へ出ると、カイザたち三人は輪になった。
「カイザァ、ケイマァ。あんたらふたりは、これから別々に特訓せぇ」
ギンガはいきなり提案した。
「どどどどういうことですかい?」
「なにか考えでもあるの?」
不意打ちを食らったカイザとケイマは、ギンガの魂胆を読み取ろうとして身構えた。
カイザとケイマは、兵頭対局所の裏対局室でずっと一緒に戦ってきた。今はケイマのほうが白星が多いとはいえ、お互いにライバルだと認め合っている。
「カイザァ、あんたはタクミの工房に通え。そこで働きながらクリエイターとして学ぶんや。ついでに東本州のカードやルールを覚えて、遮断能力もパチって来い。以上や」
「あと、アバターチェンジのコツも教えてもらう。なるほどね。その提案は僕にとっても悪くない」
カイザはギンガの案に乗ることにした。
「おおおおでは、ギンガ姉さんと一緒にいられるんですかい?」
「せやで。ケイマはあてが直接指導するわ。ハジメパパ筆頭に、本店のクリエイターともバンバン対局して経験を積んだらええ」
「わわわわかったぜい。だだだだったらおでも賛成するぜい」
こうしてカイザとケイマの新たなスキルアップ計画がはじまった。
三人が役所から本店に戻ると、本店所長ハジメやタクミ、Q2機関のメンバーが待っていた。ギンガはタクミと交渉して計画を遂行した。
カイザはタクミに預けられ、近所にある『機島工房』へと案内された。タクミを先頭に、外町の裏路地を歩いて進む。
「おいカイザ、純粋な対局スキルではオレよりオマエのほうが勝っていることは認めてやる」
「認めるもなにも、決闘に勝ったのは僕だからね」
「うるせえ。だが、オレにはオマエにないものをたくさん持っている」
「だから、ギブアンドテイクというわけだね」
「そういわけだ。だから、オマエはオレのもとで働いてもらう義務がある」
「やれやれ、決闘に負けたら強制労働。勝っても結局一緒じゃないか」
「細けえことはいいんだよ。早く行くぞ!」
カイザは今まで、昼間は兵頭対局所の所員として働き、夜は裏クリエイターとして活動していた。本戦までの間、昼間はかわりにタクミの元で働くことになった。
「⋯⋯なんか、またギンガにいいように使われている気がするんだけど」
ギンガの魂胆に気づいたカイザは、苦い顔で不満を口にした。
とはいえ、カイザにも利益はある。
タクミの元で学べることは全部学んでやる。カイザは心の中で、そう決意した。