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カードチェス  作者: 破天ハント
第二部第一章 外町編
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第七話〖兵頭対局所本店〗

また新キャラが登場します。

アユムちゃんのパパなんですなぁ(ネタバレ)

【一】


 カイザたちを乗せた車は、外町の表通りを突っ切って都へと直進した。

 家々は小屋と呼んでも差し支えないほど小さく、あちこち無秩序に並んでいる。雑然としているが、瓦礫ノ園よりはるかにきれいだ。

 

「ほれ、見えてきたでぇ。あれが都や!」

 ギンガは正面に広がる景色を指さす。


 高さ五メートル均一の壁が都全体を取り囲み、内側から城下町の建物が顔を出している。

 カイザは城下町の建物を観察した。

 それは巨大なアリ塚だった。ただし、住んでいるのはシロアリではなく都の連中だが。カイザはその建物をヒト塚と呼ぶことにした。

 

 凝縮されて岩のようになった硬い土が、十から十五メートル程度の塔をなしている。それらのヒト塚が何十基もそそり立っている様は、さながら旧時代にあったとされるビル群のよう。

 ヒト塚は内部がくり抜かれて人が住めるようになっていて、外側にらせん階段がある。隣接するヒト塚同士は連絡通路でつながっていて、空中で交差している。まるで迷路だ。

 最上部にある小窓はハト用らしい。白い伝書鳩が行き交っている。わざわざハトのための空間が用意されているということは、ハトはクリエイションではなく本物なのだろう。


 都の中心付近には、とがった岩山が一本だけポツンとそびえていた。頂上は都でいちばん高く、そこに城が建てられている。ちょんまげを結わえていた時代にあったような、旧日本的な城だ。

 天守閣の屋根は悪趣味にも金色に塗られていて、太陽光を反射してギラギラ輝いている。赤茶色の空に浮かぶ金ピカの天守閣は、奇妙を通り越して異様だった。周囲と雰囲気がまったく異なり、場違いな印象しかない。


 都最大の権力者・覇道テイトクは岩山の城に住んでいる。住む場所に人間性があらわれているようだった。

 岩山を取り囲んでいる高層ヒト塚は、テイトクを支える貴族たちの住居。

 壁に近い区域は城下町と呼ばれ、ヒト塚も低いものばかり。都の中心から離れるほどヒト塚は低くなっている。

 そして、壁の外側が外町。今、カイザたちがいる場所だ。

 どこまでを外町と呼ぶか、その定義はあいまいだ。都から離れるほどに住居の数は減り、荒野が続いている。この国の西端にあるのが瓦礫ノ園で、東側が死者ノ園。住む場所がそのまま身分の差になっている。


「どや、イメージとちゃうかったかぁ? あてもはじめて下摂津ノ國の都に来たときはたまげたわ。都の雰囲気っちゅうんは国ごとに全然ちゃうねん。あてのお気に入りは山城ノ國の都やな。あそこはよかったなぁ。平安時代みたいな様式の建物が並んどって、千年前にタイムスリップしたみたいな気分になれるねん」

 聞いてもいないことをペラペラ語りだすギンガ。今日は一日絶好調。話し始めたらとめられない。


 ギンガがひとりで話しているうちに、門の前に到着した。アーチ型の門で、両側に守衛が立っている。

 カイザたちは都の中へ入ることを許されていない。本戦当日までは外町で泊まる予定だ。

 車を出たカイザたち一行は、運転手に礼を言った。車はきびすを返してどこかへ消えてゆく。

  

「ややややっとついたんですかい。死ぬかと思ったぜい」

 白目を向いて倒れていたケイマが意識を取り戻した。

 カイザはケイマの両肩を支え、外の空気を吸わせた。


「さてさて、まずは本戦出場者の登録からや! 書類を書いて提出するだけや、一時間もかからへんやろ」

 ギンガが先頭をグイグイ歩き、案内役を務める。


「そのことで、ちょっと相談があるんだけど⋯⋯」

 カイザはギンガを呼び止め、耳打ちした。


「ほーん、さっきあんたとアキラが話しとったことかいな。なんかふたりでヒソヒソ言い合っとったみたいやけど、あては霊視能力がないからよう分からんかったんや。ちょっと詳しく聞かせてもらいたいところやけど、人前ではアカンわ」

 ギンガはカイザの肩を抱き寄せるようにして顔を近づけ、小声で言った。


「ふふふふたりとも、なんの話をしているんですかい? おおおおでも仲間に入れてくれよう」

 ケイマは秋山対局所に入らず外で待っていたので、アキラに会っていない。話題についていけず、のけ者にされていた。

 ケイマも秋山アキラの名前は知ってはいたが、見たことはなかった。車内でカイザとギンガが話していたときには、すでに倒れて眠っていた。


「大した話やあらへんでぇ。行先の予定を変更しよかっちゅう相談をしとっただけやがな。ほな、書類を出す前に、先に兵頭対局所本店から行こかぁ!」


 カイザたちは門から遠ざかり、外町の裏通りを歩いた。



【二】


 兵頭対局所本店は、瓦礫ノ園にある兵頭対局所よりひと回り以上も広かった。かつてギンガがお世話になったという対局所だ。

 所長はアユムの父親、兵頭ハジメ。★×4(エキスパート)ランクのクリエイターだ。


「おかえり、ギンガちゃん。娘がいつもお世話になっているよ」

 出迎えに来たのは、クマのように大柄な男だった。身長はギンガと変わらないが、横幅は倍以上もある。ジャイ男と並んだら、ジャイ男のほうが子どもに見えるだろう。

 のっそのっそと歩くたびに、灰色の髪が揺れ動く。どうやら、この灰色グマが兵頭ハジメのようだ。


「ホンマ、あの子のお世話は大変やでぇ。いっつも問題ばっかり起こしよるからなぁ。せやけど、なんとか順調にやっていけてるわ。外町もおもろいけど、瓦礫ノ園とええもんやなぁ」

 ギンガは勢いをつけてハジメに駆け寄り、全体重をかけてハグをした。ハジメはビクともせずに軽々と受けとめる。


 いつも問題を起こしているのはギンガのほうだろ、とカイザは言ってやりたかったが、思いとどまった。ハジメから見たギンガは、愛娘の友人であり、先輩であり、世話係なのだ。


「ギンガちゃんにはいつも感謝しているよ。アユムには、自分の対局所を持つのはまだ早すぎると何度も説得したが、一度こうと決めればテコでも動かない子だからね。できれば私がいつでもそばにいてやりたいのだが、立場上、そうもいかないのだよ。ところで、アユムは?」

「今日は来とらんでぇ。店があるから行かれへんねんて」

「そうか、久しぶりに可愛い娘の顔を見られると思って、楽しみにしていたのになあ。残念だよ」

「パパによろしゅう言うといてやって」

「伝言はそれだけか。パパ、泣いちゃいそうだよ」

 ハジメは太い腕で目頭をこすり、大泣きした。


「せやせや、自己紹介を忘れとったわ。うしろにおるふたりが、うちの代表選手やねん。今回の公式大会は、優勝、準優勝ともいただきやでぇ」

 ギンガはカイザとケイマを手招きし、前に立つように誘導した。


「はじめまして。僕は覇田カイザ」

「ままま前田ケイマですぜい」

 カイザとケイマは名前を名乗った。


「覇田カイザ君と、ままま前田ケイマ君だね。はじめまして。私が兵頭対局所本店の所長、兵頭ハジメだよ」

 ハジメは右手を差し出し、順番に握手を求めてきた。


「ままま『ままま』は余計ですぜい」

 ケイマは握手を交わしながら訂正を入れた。


「それは失礼。ふたりとも、娘がいつも世話になっているようだね。ありがとう」

「いや、世話になっているのは僕たちのほうだよ」

 今度はカイザが手を差し出す。カイザの手のひらは、力強く大きな手のひらに包み込まれた。


「そそそそうだぜい。アアアアユムちゃんは立派にやっていますぜい」

「それなら安心なんだけどね、パパは心配だよ。昔は私にくっついて離れなかったのに、いつの間にか私より強くなってしまって、しまいには自立したいと言い出すんだ。この前まで赤ん坊だったのになあ。あの子、見た目は温厚そうだけど、死んだママに似て、実は気が強いんだよ。娘のわがままに付き合わせてすまないねえ」

 ハジメは灰色の瞳にふたたび涙を宿した。


 カイザは改めてハジメの姿を見極めた。

 灰色の髪は毛先だけ黒く、通常と逆転している。たっぷりたくわえられた顎ひげや、毛むくじゃらの腕、たくましい眉も同様のカラーリングだ。

 落ちくぼんだ目に、もりあがった眉。鼻筋が通っていて、濃い顔だ。アユムとは全然似ていない。あえて共通点を探すなら、白い肌くらいか。

 カイザはまた無意識に霊視してしまいそうになったが、ギリギリのところで思いとどまった。



【三】


 本戦開始までの二週間、カイザたちは兵頭対局所本店の所員寮に泊まることになっている。代表選手の登録手続きだけして帰ることもできたが、こちらに泊まるとギンガが決めたのだ。

 ギンガとしては、カイザたち他所の代表選手を会わせておきたかった。勝つためには、敵の情報を知っておかなければならない。

 ギンガはカイザたちふたりの健闘に白札を賭けていた。だから、ふたりにはなるべく多く白星をあげさせなければならない。そのために自ら率先して特訓を課してきたのだ。あわよくば優勝か準優勝も狙っている。


 ギンガの様子を見ていたカイザは、自分たちが賭け馬にされていることを薄々知っていた。だが、それはギンガ個人の問題だ。賭けに負けてギンガが損をしても、カイザたちに被害はない。

 それに、カイザには賭けとは別に勝たなければならない理由がある。ギンガに利用されていると知りつつ、自分が強くなるために逆に利用してやるという心づもりだった。


 カイザとケイマは所員寮の一部屋をふたりで使うことになった。二週間の合宿だ。

 ハジメに指示されて出てきた所員の男性が、カイザたちを寮の部屋に案内した。

 部屋に着くと、カイザ、ケイマ、ギンガの三人は荷物を置き、輪になって座った。部屋をきっちり施錠したのち、廊下の足音が遠ざかるのを確認する。


「よし、行ったみたいだね」

「さぁて、本題に入ろかぁ」

「ふふふふたりとも、いったいなんのことですかい?」

 密談がはじまった。ケイマだけは議題を把握していないようだが。


「カイザは魔女ルミナの子やったんや」

「ししし下摂津七覇の?」

「お、よう知っとるやんけ、ケイマァ」

「ここここの国に来る前に、成り立ちや歴史を調べておいたんですよ」

 珍しくギンガに褒められ、照れ隠しに耳をかくケイマ。

 ケイマは加賀ノ國から琵琶海峡を越えて来たが、すでに何度か都も見ていた。カイザよりもこの国をよく知っている。


「だだだだけどよう、七覇の子孫は死に絶えたんじゃなかったんですかい?」

「そういうことになっとるみたいやけど、実はひとり、生き残りがおったとしたら?」

「そそそそんな⋯⋯。じゃじゃじゃじゃあ、前に霊毒病にかかったっていうカイザの母親は?」

 ケイマはどういう表情をしたらよいのか迷い、カイザのほうを見た。

 

「本当の母親じゃなかったのさ。僕を育ててくれた人は、本当の母親の影武者だったんだ」

「みょみょみょ名字が覇田なのは偶然かと思っていたぜい。つつつつらかったな、カイザ」

「つらくなんかないさ。僕にとって本当の母親はひとりだけなんだ。魔女ルミナは見たこともないし、名前も知らなかった」

「とは言うても、バレたらマズいんとちゃうんかぁ?」


 一同は沈黙した。

「城壁に囲まれた都」という言葉の響きから、ヨーロッパ風の城郭都市を想像した方、残念ハズレ!

それにしても、カイザ目線による都の主観描写は、相変わらず悪意満載でしたね(笑)

瓦礫ノ園出身というコンプレックスが無自覚に出ているという設定です。

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