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カードチェス  作者: 破天ハント
第二部第一章 外町編
52/73

第六話〖代償〗

前書き、後書きではいつも本文の雰囲気を台無しにするような、しょうもないことばかり書いていました。

反省して、前書き、後書きは定期的に削除することにしました。

でも、作者が個人的に気に入ったのは残しておきますね~(反省してない)

【一】


「死んだはずの魔女、ルミナの子。ウソかホントかわかりませんが、面白いことになってきましたねぇ。ですが、あたしが霊視したところ、カイザくんの『霊紋(れいもん)』はテイトク様にも似ているような気がするのですぅ」

 アキラはクリーム色の瞳を大きく見開き、カイザにテイトクの姿を重ね合わせた。

 

「レーモン? なにそれ? レモンの親戚?」

 次々とカイザの知らない言葉が飛び出してくる。兵頭対局所でたくさん勉強したと思っていたが、まだまだ足りないようだ。


「人の魂を構成する霊子は、『霊波(れいは)』という霊的な振動を放って、空間を微妙に歪めているのですぅ。そして、すべての人間には魂があるわけですねぇ。つまり、そこに人間がいるだけで、ある特定の霊波が放射されているということなのですよぉ。人間の魂から発生した霊波の波形は、人それぞれ違いますぅ。ちょうど、指紋や声紋が同じ人間がいないのと同じですねぇ。霊紋は、指紋や声紋の魂バージョンなのですよぉ」

「なるほどね、だいたい理解できたよ」

 またひとつ新たな知識を得たカイザだった。


「ちなみに、血縁関係が近いと霊紋も似るそうですよぉ」

 腰に手を当て、鼻の穴を膨らませながら自信満々に補足説明をするアキラ。


 アキラによると、カイザとテイトクの霊紋が似ているらしい。果たして、そんなことあるのだろうか?

 何かの間違いに違いない。カイザはそう結論付けた。多少、似ている程度の人なら、探せばいくらでもいるはずだ。


 さっきはナゴミという女の子とカイザが似ていると言っていた。アキラは案外、適当なのかもしれない。なんでもかんでも「似てる似てる」とこじつけて騒ぎ、人をイジるのが好きなのだろう。

 しかも、テイトクのことを嬉しそうに話しているところを見ると、感性がズレている可能性もある。普通なら、おびえるか反抗するかの二者択一だ。カイザの神経からすれば、嬉しそうに話すなんてありえないことだ。

 カイザが見たところ、テイトクに対して表面上は好意的なふりをしているだけの、腹に一物タイプの人間でもなさそうだ。

 やはり、アキラはどこかズレている。なにより、格好が奇妙すぎる。クリエイターとしては格上の存在だが、それ以外の部分では信用に値しない。

 カイザの結論が揺らぐことはなかった。


 自分が瓦礫ノ園で育ったことに関して、偏見のまなざしを向けられるのは慣れていた。魔女ルミナの子だと判明したところで、元々ひとつあったこぶがふたつに増えるだけ。どうということではなかった。

 とはいえ、されて嫌なことには変わりがない。カイザは自分がされたくないことを、アキラに対して無意識のうちにやっていた。

 第一印象から受けた悪感情を捨て、いつもの冷静さで見極めていれば、このような誤解はなかっただろう。カイザの洞察力は、最初から濁っていた。


 カイザは複雑な気分を抱えながら、会話からフェードアウトした。そのうち、アキラはギンガと対局所の経営に関する話題で盛り上がる。

 最後はアキラに別れを告げ、秋山対局所を出た。



【二】


 黒塗りの車は退屈そうに待機していた。前の車に乗っていた役人は、カイザとギンガの帰りが遅いものだから様子を見に行こうとしていたところだった。

 ギンガは秋山対局所の代表選手が先に出発していたことを報告し、後ろの車の助手席に乗り込んだ。

 カイザは地面にへたり込んでいたケイマを起き上がらせ、後部座席へ引きずり込む。


「ののの乗りたくねえよう」

 駄々をこねるケイマ。


「あと十五分くらいだから、ガマンしなよ」

「おおおおではもう、無理だぜい」

 ケイマ、意識を失う。


「寝ちゃったよ」

「放っとけや。着いたら起こせばええやろぉ」

 ケイマが横になったのをいいことに、シートの背もたれを大きく倒すギンガ。


「ねえギンガ、都ってどんなところなの?」

「たいしたことあらへんわ。外町のほうが百倍おもろいでぇ」

「僕はずっと瓦礫ノ園で生きてきたから、都も外町も見たことがないんだ」

「なんや、都にあこがれとるんかぁ? 十六歳以上になったら、下摂津自警団か自衛団に入団志願したらええねん。最低十年間みっちり頑張れば、城下町に住む権利が与えられるでぇ。★×3(ミドル)ランク以上の実力やったら、かなり優遇されるはずやわ。まあ、あては御免こうむるけどなぁ」

「僕も同意見だよ」


 この国の実質的な軍隊である下摂津自衛団か自警団に入るということは、この国の王、覇道テイトクを頂点として仰ぎ見るということだ。カイザはテイトクの下にだけは付きたくなかった。

 国内で定期的に公式大会が開かれるのは、国力強化を目標として優秀なクリエイターを発掘するためだ。大会で上位成績を残した選手は、下摂津自警団から好条件で勧誘されるらしい。

 カイザはすべて断るつもりでいた。とはいえ、大会自体には参加する。自分の目的を達成するために大会を利用していた。


 カイザは瓦礫ノ園出身者として、自分の実力を周囲に証明しなければならないというプレッシャーを感じていた。瓦礫ノ園を見捨てた都の連中に実力を示し、見返してやりたかったからだ。

 瓦礫ノ園で経験した大きな洪水。あのとき、ココナは力ある者たちに対抗するために団結する道を選んだ。

 一方カイザは、力なき者にも力があることを証明するために、瓦礫ノ園出身でありながらもクリエイターとして強くなると決意した。

 最初はギンガとの賭けに負けたことがきっかけで兵頭対局所の所員になり、単に自分と母が貧困から抜け出すためだけに努力していた。

 だが、今はそれだけが理由でクリエイターをやっているのではない。自分らしく生きる道を探すために、そして、自分以外の瓦礫ノ園出身者の希望となるために戦っている。

 応援してくれている人がいた。支えてくれる人がいた。いつの間にか、自分だけの問題ではなくなっていた。

 アユムのように、勝ち負けにこだわらず楽しむという境地には達していないが、ギンガのように損得だけで生きているわけでもない。カイザは強くなろうと努力していた。


「そういえば最近、兵頭対局所に置いてある本を空いた時間に、読ませてもらっているんだ。誰でも自由に読んでいいって書いてあったからね」

「お、なかなか勉強熱心やんけ。あそこに置いてあるんは、松平対局塾発行の、クリエイター養成理論の専門書やで。むずかしかったやろぉ?」

「ちょっとね。また今度、詳しく教えてよ」

「しゃあないなぁ。特別にあてが教えたるわ」

 裏組織時代のギンガは、ケイマの家庭教師として加賀ノ國に潜入していた時期があった。ギンガは教えるのが下手なわけではない。


「ありがとう」

「そのかわり、あんたがプロのクリエイターになった暁には、利益の二割をもらい続けるでぇ」

「鬼かよ」

「冗談やって。一割にしといたるわ」

 ギンガは窮屈そうに押し込めていた長い足を持ち上げ、行儀悪く立て膝をついた。



【三】


「それにしても、寮の書庫や対局所にある本は全部、ギンガがクリエイトしたんだよね?」

「せやで。今のあての実力では、出せる本の種類がランダムやねん。狙った本を出せるように訓練中やけど、せいぜい言語とジャンルを絞るんが限界やわ。スパランで安定してくれたらええねんけど、あては不安定な体質的やからなぁ」

 ★×5(スーパー)ランクをスパランと略するのは、ギンガ独自の言い回しだ。ほかにもたしか、裏対局室を裏部屋と言ったりしていた気がする。


「僕も早くレベルアップして、実力をつけたいよ。いつかギンガよりも強くなってやる」

「ほーん、ええこっちゃ。せやけど、あてに勝とうなんか百年早いわ」

「うるさい、ギンガより絶対早く★×5(スーパー)ランクに昇格してやるからね」

「おいカイザァ、わかっとんのかぁ? アユムの体のこと、知っとるやろぉ?」

 ギンガが急に振り返った。


「え、どういうこと?」 

「スパラン目指すっちゅうことは、人間やめるっちゅうこっちゃ。人間を超えた能力を発揮できるからには、普通の人間ではいられへんくなる。当たり前のことやろぉ?」


 アユムは六歳にして無茶な訓練を自分に課し、一年で★×5(スーパー)ランクに昇格した。

 だが、その代償は大きかった。将来の伸びしろを消費してまで急速に成長したことで、副作用により肉体と魂の両方に負担がかかってしまった。

 成長をやめたアユムの体。本来の機能が低下し、霊毒病にかかりやすくなったアユムの魂。

 自然な方法によるレベルアップでは、このような副作用は発生しない。だが、少しでも人の手が加わって鍛えられた場合、必ずなんらかのゆがみが生じる。


「カイザは都のことをなんも知らんやろうけど、秋山アキラゆうたら、都では有名なクリエイターやねん」

「下摂津七人衆なんだってね」

「あいつがいっつも黒いオムツをはいとるんは、スパラン昇格の代償や。体内の消化管系がやられてもうたんやって」

 ギンガはアキラの体質について説明した。


 説明するにあたり、バラムツという深海魚を例に示す。

 バラムツの体内にある油脂成分は、そのほとんどか人体では消化できない油、ワックスエステルで構成されている。人間が大量に摂取すると、皮膚から油が漏れ出したり、そのまま肛門から垂れ流しになる場合がある。

 常人の域を超えた存在となったアキラは、何を食べても白い蝋状の便となって流れ出る体質になった。便意などは一切生じずに垂れ流してしまうので、常にオムツをはいておかなければならないのだ。

 アキラの体内で起こった消化管系の異常は、医学的にはまったく説明のつかない。とはいえ、目の前の事実は曲げようがない。


 新時代以降に生まれた人間は、大気中に拡散された霊毒によって、髪や爪、瞳の色が旧時代の人間とは異なっている。生まれつき歯や爪の形状が他人と違っている者も多い。

 それについてとやかく言う者は、もはや時代遅れといってもよい。ギンガは、★×5(スーパー)ランクの代償についても同様だと考えていた。

 アユムの場合は、自分の体について悲観するわけでもなく、悟りを開いたように達観して受け入れていた。むしろ、そばにいたアユムの父やギンガのほうがオロオロしていたくらいだ。

 アキラの場合は、それが自分の個性だと積極的に受け入れ、あえて隠さずに堂々と見せていた。アキラはいつも上半身はキャミソール一枚、下半身は黒いオムツ一丁で都を歩き回っていた。

 カイザとしては、それはそれでどうかと思っているが。

 テイトクはアキラに対して、都で自由に振る舞う許可を与えている。「都でアキラを馬鹿にした者には厳しい罰を与える」とテイトク自ら宣言し、実行している。それでもアキラは都にいるのが嫌なようだが。


 アキラとギンガには、少なからぬ因縁があった。

 ギンガがアキラの話を知ったのは、裏組織から逃げて下摂津ノ國の外町に潜伏していた時期だ。それは、アユムやアユムの父親から聞いた話だった。

 下摂津七人衆たるアキラは、都や外町では有名人だ。外町で暮らすなら、知っていて当たり前。ギンガはアユムたちから様々な情報を得ていた。

 その頃、ギンガは元相棒との死闘で左上半身にダメージを負っていた。左目は失明寸前。左の乳房は完全にえぐり取られていた。

 失った左胸について、ギンガはこれもまた自分の個性だと受け入れ、再建手術をせずに生きていこうと決意していた。そのきっかけになったのは、アキラのエピソードだった。


「ほんで、あんたには代償を背負う覚悟があるんか、カイザァ?」

「ぼ、僕は⋯⋯」 

「あてはあるでぇ。早う、最絶好調の日ィ以外でもスパランを維持出来るようになりたいんや」

 ギンガは片眼鏡をクイと持ち上げた。


 カイザは返答することができなかった。

 そして、アキラの格好を見て判断したことに後悔した。自分は人を見る目があると得意気になっていたが、間違いを認めなければならなかった。

『カードチェス』に登場する女性キャラは、全員なにかしら壮絶な事情を抱えています。

ちょっとやりすぎな部分もありますが、そういう作品ですので悪しからず。

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