第四話〖兵頭対局所(後編)〗
【一】
「手番終了かぁ? ほんなら、次いくでぇ」
先手第二手番。ギンガは二枚目の対価札を獲得し、ドローして手札を四枚に増やした。以後、手番開始時の対価札獲得とドローは、毎回おこなうものとして省略する。
「まずは親札の移動からや!」
ギンガは赤い塁から左上の緑の塁に、大股一歩でひょいと移動した。やたら脚が長いからできる芸当だ。大股一歩で移動する必要性はまったくないが。
親札には出力がない。対局開始時から場にいるからだ。
表示パネルの項目で駒と共通するパラメーターは、体力の箇所だけ。だが実は、親札には動力や戦力もちゃんとある。両方とも、一点だ。基本的に、親札の動力と戦力は変動しない。だから省略されているのだ。
親札の動力は一点なので、隣接する塁に一歩だけ進むことができる。チェスのキングと同じ動きだ。
「手札から、松門四天王〔久坂玄瑞1〕を出現させて手番終了や」
ギンガは、たった今引いてきたカード〔久坂玄瑞1〕を、自身から見て左側の塁に叩きつけた。
あらわれたのは、和服の美少女。可愛い顔をしているが、腰には物騒な刀を差している。
久坂玄瑞は幕末の長州藩士だ。松下村塾で学び、勉学においては、かの高杉晋作のライバルだったという。もちろん、史実では男性だ。
対局空間では、駒はクリエイターのイメージ通りに実体化される。同じカードでも、クリエイター次第で様々な姿に変化する。擬人化、美少女化、美男子化⋯⋯。リアル路線を好むクリエイターも一定数いる。
松門四天王〔久坂玄瑞1〕
♢出力 4点
♧動力 1点
♤戦力 1点
♡体力 1点
自身出現:
山札から♢出力4~6点の駒札を1枚選んで手札に加える。
「松門四天王」の部分は、第二の名前『副カード名』だ。対局で使用する正式な名前ではないので、名前カッコから外される。
副カード名は、そのカードを使うクリエイターが各々自由につける名前だ。称号、役職、通り名、あだ名、二つ名など、なんでも好きにつけてよい。
たとえば、第六天魔王〔織田信長〕や、円卓の騎士〔ランスロット〕、ローマ皇帝〔ネロ〕など。副カード名は対局とは関係のないおまけ部分なのでなくても問題ない。
「じゃあ、さっそく能力を使わせてもらうでぇ」
ギンガは山札を取り出し、中身を見た。
久坂玄瑞シリーズの能力は、自分の山札を確認して特定のカードを手札に持って来ることだ。勝手に山札をのぞき見ることは、本来ならばルール違反だが、カードの能力なので特別に許される。
能力テキスト欄の一行目にある「自身出現:」は、「この駒が出現した時」の省略系だ。右端のコロン(:)は『タイミングコロン』という『発動記号』で、能力の発動タイミングをあらわす。
発動記号には、発動条件をあらわす『条件セミコロン』(;)や、発動対価をあらわす『対価カッコ』(〈〉)などがある。能力テキスト欄の一行目は、発動記号で記述される。二行目以降が能力本文だ。
「あてが手札に加えるのは〔久坂玄瑞2〕や」
ギンガは山札から目当てのカードを探し出し、アユミに見せてから手札に加えた。
手札に加えたカードは、久坂玄瑞シリーズの号数違い。次の手番に出し、また同じ能力を発動して手札を増やす作戦だ。
〔白銀ギンガ〕
●第2手番
手札 3→4→3→4枚
対価札 2枚(2枚使用)
副対価札 4→2枚
♡体力 15点
手札の枚数が目まぐるしく変動している。まずドローで三枚から四枚に増える。手札から駒札を出したことで三枚に減り、出た駒の能力でまた四枚に増える。
カードチェスの基本ルールは、敵の王、相手親札を取る(体力をゼロにする)ことだ。そのためには手札からどんどん駒札を場に出していかなければならない。
王は裸一貫からスタートし、仲間を増やして敵に立ち向かう。手札が尽きれば仲間の増援が途切れる。そうなれば王は死んだも同然。敵に囲まれてチェックメイトだ。
だから、手札は大切にしなければならない。いかに手札を管理し、ボードの支配権を得るかが勝敗の鍵だ。
「次はあゆちゃんの手番なのら」
ギンガの手番が終了し、アユムの第二手番が始まる。
「親札と〔ゴブリン4〕を移動させるのら」
将棋やチェスでは、一手番に動かせる駒の枚数は一枚だけだ。対して、カードチェスでは一手番中に味方駒と親札をすべて一回ずつ動かすことができる。しかも、対価も必要ない。
対局の後半にもなれば、形さまざまな駒の軍団がいっせいに侵攻する。その様子は壮観で、まるで一軍を率いる大将の気分だ。
カードを動かす順番は自由だ。先に親札を動かしてから駒を動かそうが、またはその逆であろうが、好きなように決められる。動かしたくなければ、動かさなくてもよい。
また、手札から駒を出す前でも、出したあとでも、関係なく動かせる。が、普通は先に駒を動かしてから出すことが多い。まず場の駒を動かすことで、その駒が元いた塁が空く。その場所に新たな駒を出す、という動作が可能になるからだ。
ただし、手札から出した直後の駒は動かせない。動けるようになるのは次の手番からだ。このルールを「召喚酔い」ともいう。場に出すことの正式名称は「出現」なので、召喚酔いという用語は完全なる俗称だ。正式名称は特に決められていない。
駒を移動させると、移動先の塁の色が薄くなる。どの駒が移動済みで、どれがまだなのかを一目でわかるようにするためだ。出した直後の駒も召喚酔いで動けないので、同じように色が薄くなる。塁の色は手番終了時に元に戻る。
アユムは左上に一歩飛び跳ねた。遅れてゴブリンが左上に二歩進み、アユムより前の列に出る。移動先の塁が、緑から薄い緑に塗りかえられる。
駒札は、動力ぶんの歩数以内なら、好きな方向に好きなだけ動かせる。ただし、途中で曲がって進行方向を変えたり、カードを飛び越えたりはできない。いわば、歩数制限つきのチェスのクイーンだ。
将棋やチェスの駒は動き方が駒ごとに異なり、覚えるのがむずかしい。だが、カードチェスは動力を見るだけで、動かせる範囲がすぐ理解できる。
「あゆちゃんの手番はまだまだ終わらないよ~。〔ナース2〕を出すのら」
アユムは手札から〔ナース2〕の駒札を引き抜き、ゴブリンの右側に放り投げた。
カードから白衣の美少女が実体化する。美少女は白い手袋をして、腕を前でクロスさせていた。両手の指の股全部に注射器を挟み込み、極悪な笑みをたたえている。
「ナースちゃんの能力発動なのら。〔ゴブリン4〕を発動対象に選択!」
ナースは八本の注射針をまとめてゴブリンの尻にぶっ刺した。
ゴブリンはその場でピョンピョン飛び跳ね、尻をさすった。
〔ナース2〕
♢出力 3点
♧動力 1点
♤戦力 2点
♡体力 2点
自身出現:
自身に隣接する味方駒を1体選んで体力を+1する。
〔ゴブリン4〕
♢出力 4点
♧動力 3点
♤戦力 3点
♡体力 3→4点
能力なし
〔ナース1〕の能力によって、〔ゴブリン4〕の体力が一点プラスされた。
アユムのデッキコンセプトは「体力強化」。駒の体力を強化して場に長く居座り、盤面の支配権を得る作戦だ。駒のモチーフは、回復や治癒を司る魔法職業、もしくは現実世界の医学関係だ。
強化される側はこれといったモチーフがなく、場に存在する駒なら何でもありだ。ゴブリンシリーズのような高スタッツの駒を強化すれば、頑丈な兵隊になりかわる。
そんなものが数体も並べば、相手はなすすべもなく投了を宣言することだろう。それがアユムの戦略だ。
〔兵頭アユム〕
○第2手番
手札 3→4→3枚
対価札 2枚(2枚使用)
副対価札 2→1枚
♡体力 15点
【二】
先手第三手番、ギンガは駒と親札の移動を済ませ、先ほど手札に加えた〔久坂玄瑞2〕を場に出した。さっきと同じ能力が発動し、ギンガは山札から〔高杉晋作2〕を手札に加えた。
松門四天王〔久坂玄瑞2〕
♢出力 5点
♧動力 1点
♤戦力 2点
♡体力 2点
自身出現:
山札から♢出力4~6点の駒札を1枚選んで手札に加える。
久坂玄瑞(姉)は、さっき出した妹とまったく同じ服装、まったく同じ顔だ。が、肌色の面積が増えている。号数が上がるにつれて露出していくスタイルらしい。ギンガが考えついた変態システムだ。
ギンガは美少女姉妹を見て楽しんだ。自分の容姿に自信がなく、興味もないので、駒を美少女化して楽しむのが趣味なのだ。
「ええでぇ、ええでぇ」
片眼鏡を持ち上げて身をかがめ、久坂姉のはだけた衣装をのぞきこんだ。
「ぬあぁ、もうちょっとやのに、惜しいなぁ」
どう頑張っても、胸の谷間や下着までは絶対にたどり着かないようになっている。カードチェスは全年齢対象カードゲームだ。アユムのような七歳児の女の子でも対局できる。
「ぎんちゃ~ん、手番終了? 早くするのら」
アユムは腕を組んで頬をぷっと膨らませた。
「おっと、ついつい、いつものクセが出てもうたわ。手番終了やで」
ギンガは極度の飽き性で、ひとつのものごとに対して数分しか集中していられない。大事な対局の最中であっても、別の考えごとをはじめたり、実体化した自分の駒にちょっかいをかけたりして対局相手をイライラさせてしまう。
カードチェスは高い集中力が求められる思考型ゲームだ。普通ならギンガには向いていないように見える。
それでもギンガが★×4ランクまで駆け上がることができたのは、クリエイターとしてのセンスと、単純に地頭の良さだろう。ギンガはいつも、対局前半はわざと適当に進め、後半から本気を出す。
〔白銀ギンガ〕
●第3手番
手札 4→5→4→5枚
対価札 3枚(3枚使用)
副対価札 2→0枚
♡体力 15点
後手第三手番。アユムは〔ヒーラー1〕を出した。
〔ヒーラー1〕
♢出力 3点
♧動力 1点
♤戦力 1点
♡体力 2点
自身出現:
味方駒を1体選んで体力を+1する。
第二手番に出した〔ナース2〕は、能力の発動対象が「自身に隣接する味方駒」限定だった。それに対して、〔ヒーラー1〕は場の味方駒なら誰でも対象に選ぶことができる。
ヒーラーシリーズは能力の汎用性が高いが、スタッツが少し低い。ナースシリーズはその逆。どちらが優れているかは、時と場合による。
先手第四手番。幕末十傑〔坂本龍馬2〕、出現。
幕末十傑〔坂本龍馬2〕
♢出力 4点
♧動力 1点
♤戦力 2点
♡体力 2点
自身出現:
♢出力4点▲の味方駒を1体選んで戦力を+1、体力を+1する。
能力テキスト中にある黒塗りの三角形(▲)は、「以上」をあらわす『テキスト記号』だ。ちなみに逆三角形(▼)は「以下」。
白抜きの三角形と逆三角形(△、▽)は「超過」と「未満」。このようにさまざまなテキスト記号によって、能力テキストは記述される。
坂本龍馬シリーズの能力は、戦力と体力の両方を強化する欲張り能力だ。アユムのナースやヒーラーは体力強化のみなので、能力だけを見ると坂本龍馬のほうが強いように見える。ただし、坂本龍馬は出力四点以上の味方駒しか対象にできない。
スタッツを上げれば出力も上がり、支払う対価が増えてしまう。能力をつければ出力が上がる、もしくはスタッツが下がる。能力、スタッツ、出力、どれも妥協したくなければ、発動条件をつけるか、対象の範囲を絞らなければならない。そうすれば今度は、汎用性が低くなる。
なにかを強化すれば、ほかのなにかが弱くなる。なにかを簡単に済ませようとすれば、ほかのなにかがむずかしくなる。
クリエイターは日々悩み、選択する。数十億種類のカードプールから、どれをデッキに採用するか。対局中、どれを動かしてどれを留まらせるか。どれを場に出して、どれを手札に温存するか。これがカードチェスの面白さであり、むずかしさでもある。
「カードチェスに切り札なし」という言葉がある。これを出すだけで勝ち、などというカードは存在しないのだ。
後手第四手番。〔カウンセラー3〕、出現。〔ゴブリン4〕で〔久坂玄瑞1〕を攻撃、破壊。
移動先に相手のカードがあれば、その塁に乗り込んで攻撃することができる。攻撃側が一方的に攻撃でき、戦力ぶんだけ相手の体力を減らす。ここまでは将棋やチェスに似ている。
チェスプレイヤーが知らないだけで、「実はチェスの駒にも戦力と体力が一律一点あった」という架空の設定を付け加えても、チェスはそのままプレイできる。
カードチェスの場合、戦力と体力が一点とは限らない。そこがカードチェスの複雑なところだ。攻撃駒の戦力ぶんだけ、相手駒の体力を減らす。体力がゼロの駒は破壊され、捨札へ送られる。
では、体力が一点以上残り、破壊されなかった場合はどうなるのか。生き残った駒はその場に踏み留まり、なんと、攻撃駒を一歩前の塁に押し戻してしまう。将棋やチェスでは考えられない動きだ。
減った体力は元に戻らない。どんなに強くて体力の高い駒でも、チクチク何度も攻撃されれば、いつかは倒されてしまう。
ゴブリンに羽交い締めにされた久坂玄瑞は、生き残ることができず、破壊されてしまった。悲劇の美少女駒、霊子塊となって散る。
先手第五手番。ここから先は『時間制限』が開始される。ボード中央の穴から巨大なタイマーがあらわれ、ギンガの持ち時間を示した。
持ち時間はひとり十五分。ゼロになれば五分だけ猶予時間が与えられ、かわりに親札体力が一点になる。親札体力一点、つまり一撃で即死だ。その猶予時間も尽きれば、時間切れで負けになる。
適当プレイもこれまで。ギンガは本気モードに切り替え、反撃を開始した。
○後手第五手番。移動、移動、出現。
●先手第六手番。移動、攻撃、出現。
○後手第六手番。攻撃、攻撃、出現。
●先手第七手番。この対局初、親札への直接攻撃。アユムの体力が三点減る。
○後手第七手番。この対局初、一手番二体出現。カードチェスは将棋やチェスとは違い、対価さえ支払えれば一手番に何体でも出せる。
●先手第八手番。ギンガも続いて二体出現。
○後手第八手番。今度は三体出現。
●先手第九手番。ギンガの猛攻撃開始。アユムの残り体力、九点。
○後手第九手番。アユムはギンガへの直接攻撃を避け、あえて相手駒の処理に回る。ギンガの体力はまだ十五点満点。点差が広がるが、アユムは冷静に対局を進める。
●先手第十手番。アユムの残り体力、六点。
○後手第十手番。親札、逃走。
●先手第十一手番。駒を移動させる能力を発動し、アユムを追いかけ、直接攻撃。残り体力、三点。
○後手第十一手番。アユムは自身の周囲に駒を集め、壁を築く。
●先手第十二手番。ギンガの猛攻撃終了。うしろに撤退。
○後手第十二出番。アユム、駒で強固なコロニーを作り、コロニーごとギンガを追う。
●先手第十三手番。盤面崩壊。
○先手第十三手番。アユム、ついに攻勢へ。
●先手第十四手番。ギンガ、合駒を出してその場しのぎ。
○後手第十四手番。一気に八点を取り、王手をかける。
●先手第十五手番。ギンガ、投了。
「ありがとうございましたなのら」
【三】
ギンガとアユムは物質世界に引き戻された。手札強化デッキ対、体力強化デッキ。今日もギンガの負け。アユムは所長の座を防衛した。
「明日こそは勝ったるからなぁ、覚えときやぁ!」
「それ、昨日も言っていたのら」
「うるさいわぁ、あてもすぐスパランに追いついたるから、首を洗って待っときやぁ」
クリエイターは相手の魂の波長を感じ取り、クリエイターランクを見極めることができる。
ギンガは気分のムラが激しく、日によっては★×5ランクに昇格することもある。だが、翌日にはまた★×4ランクに戻っている。安定タイプのアユムとは対照的だ。
「集中しすぎてお腹減ったわぁ」
「あゆちゃんもなのら~」
カードチェスは、頭をフルに使う頭脳スポーツだ。一局だけでも、心身共にへろへろになる。
アユムとギンガは同時に手を出し、大皿から肉を取ろうとした。ギンガが手を引っ込める。その拍子に、肘がグラスにぶつかった。
「おっと!」
ギンガの服にオレンジジュースがかかる。
「もお~、ぎんちゃんはほんとに世話が焼けるんだから」
アユムはデッキケースから白札を取り出し、自分の胸元に運んだ。
目を閉じると、手のひらが輝く。クリエイト時に発生する『霊光』だ。その瞬間、白札がガーゼに変わった。アユムはガーゼをタオルがわりに、ギンガの服をふいてやった。
ギンガはアユムの世話役を自称しているが、実はギンガのほうがアユムに世話されている。
「おおきにおおきに、あとは自分でやるからええでぇ」
カードクリエイター。それは、自らの魂の一部をカードに込め、実体化する特殊能力者。その力を対局空間で鍛え抜いた者は、現実世界でもカードを実体化できるようになる。
★×3ランク以上のクリエイターなら、小物程度のクリエイションを一日一回クリエイトできるようになる。ただし、何をクリエイトできるかは限られるが。
アユムは十万人にひとりしかいない★×5ランクのクリエイターだ。医療用具や医療器具関連のもの限定だが、なんでもクリエイトできる。アユムはいつもガーゼをタオルがわりにしていた。
「さて、明日から本格的に営業開始やなぁ」
「緊張するのら」
「よその対局所がようやらんことを、うちがバンバンやったるんや。カードハンターとも取り引きするし、子どものための対局教室も開きたい。ほんで、★×3ランク公式大会で優勝させたるんや。都のクリエイターをひと泡吹かせたるでぇ! 瓦礫ノ園にも人物ありってなぁ」
ギンガは熱にうかされたように早口で語った。
瓦礫ノ園で見捨てられた子どもたちの中に、将来有望なクリエイター候補がいるかもしれない。そんな人材を探すため、あえて都からもっとも遠く、瓦礫ノ園にもっとも近くい場所に対局所を建てたのだ。ギンガの場合は、あくまでビジネスのためだが。
ギンガはあれこれ突飛なことを計画するが、飽き性でどれも長続きしなかった。野心を秘めてふらふらさまよっていた二年前、外町で出会った天才クリエイター、アユムをあの手この手で口説き落とし、対局所設立のために力を借りた。
人と違うことをして成功したい、それがギンガの行動理念だ。成功のためならなんでもやる。
「そういえばぎんちゃん、近くでこんなうわさを聞いたのら」
「ほーん、どんなうわさなんや?」
「ものすごく運がいい子どもがいるっていう話なのら」
「ものすごく運がいい? あてと正反対やな」
対局時、引き運の悪さでギンガに勝る者はいない。引き直しをしなかったことなど、ほとんどない。だから、山札からカードを持ってきて悪運を回避する手札強化デッキに落ち着いたのだ。
「十四歳の男の子で、カードハンターなのら」
「あてと同い年やんけ。運も実力のうち、そいつに対局させたら強うなるかもしれへんなぁ。名前は?」
「豪運のカイザっていうあだ名で呼ばれているらしい。それしか聞けなかったのら~」
「面白そうな奴やん。明日、調べに行ったるわ」
「また問題起こさないでね」
「おい、あてのことをなんやと思うとるねん! 心配せんでも大丈夫やわ。アユムは対局所でお留守番しとくんやでぇ」
「了解なのら」
ギンガは外回り、アユムは所内担当だ。明日から、忙しくなる。