第三十話〖クリエイトバトル〗
今回は異能力バトルです。カードゲームはどこへ行ったんだ⋯⋯。
【一】
予選の予選、最終対局。ケイマは軽々と勝利を決めた。猛ダッシュでギンガに抱きつこうとしたが、半身でかわされる。ケイマの動きはすべて見切られていた。
「かかか勝ちましたぜい、姉さん!」
「おう、余裕そうやなぁ」
「カカカカイザみたいに頭ナデナデしてくだせえよ!」
「イヤじゃボケイマ。あんたの頭、トゲトゲで痛そうやねん。髪型変えろや」
「かかか髪型はおでのトレードマークなんで変えられないですぜい。だだだだけど、ナデナデされたい!」
「はいはい、ちょっと黙っとけ」
ギンガはバク転で背後を取り、あっという間にケイマを組み伏せる。元裏組織所属の経歴は伊達ではない。
「自慢の二本槍がないとホンマにクソザコやなぁ、図体はデカいくせに。あ、縦はあてのほうがデカいかぁ」
片手でケイマの両腕をねじり上げ、もう片方の手で首にかけた拡声器を持った。
「えー、これにて今日の対局は終わりぃ! 明日のトーナメント表を作るから、勝ち残った奴は集合や!」
残り七人がギンガのまわりに集まった。カイザは少し遅れて走ってきた。
「遅いねんバカイザァ。ちゃっちゃと動けや」
「ご、ごめん」
「あんたが勝ち上がれると思わんかったわ。ようやったなぁ」
「あ、ありがとう」
「ほな、あみだくじや!」
各々、あみだくじに横線を足してから自分の名前を書いてゆく。
「残り物には福があるはず⋯⋯」
カイザの番は最後だった。
「よっしゃ、決まったなぁ。ほな、発表するでぇ。まずこの八人をやなぁ、AからDまでの四ブロック、各二人ずつに分けるんや。今日は一発勝負やったけど、明日は二本先取の『マッチ』やでぇ。ちなみに、敗者復活戦はない。マッチで負けたら終わりやからな! 気ィ引き締めて対局せぇよ!」
同じプレイヤー同士で対局を複数回繰り返し、あらかじめ決めておいた勝利回数を先に達成したほうが勝ちとする試合形式を『マッチ』という。
マッチ棒のマッチではなく、デスマッチのマッチだ(どちらも英語のつづりは同じ)。
カードチェスでマッチといえば、二本先取ルールが一般的だ。同じ人との対局は多くて三回、少なくて二回になる。
予選の予選で勝ち上がった八人は、明日には六人が落ちて、ふたりが残る。
まず、一戦目は同じブロック内でのマッチだ。勝ったほうが次へコマを進められる。
二戦目もマッチだ。それぞれAブロック代表対Bブロック代表、Cブロック代表対Dブロック代表でマッチをおこなう。残ったふたりが、都でおこなわれる本戦への出場権を獲得できる。
時間に余裕があれば、残ったふたりで予選の決勝戦をやる場合もある。だが、今回はおそらくパスだろう。
ケイマはAブロック、ジャイ男はBブロック、カイザはCブロックだった。
「よし、やっぱり僕はツイている! 残り物を選んで良かったよ」
カイザは胸をなで下ろした。
「カカカカイザとは都の本戦まで公式対局はナシだな」
ケイマは残念がっていた。
「まだ気が早いよ。お互い、本戦に出場できるとは決まっていないんだよ。明日、誰かに負けるかもしれないじゃないか」
「ななななに弱気になってんだ。おおおおでは勝ち上がるぜい。ででででめぇも来いよ」
「もちろんだとも。楽しみにしているよ」
さっきはケイマと戦わなくて済むと胸をなで下ろしたくせに、図々しく強がった。
カイザはアユムと話をしてから、落ち込んだ気分が上向きに転じつつあった。ココナが生きていて、応援してくれていると判明した影響は大きい。
「きょきょきょ今日の夜、時間はあるか? ででででめぇに話してぇことがあるんだが」
「いいけど、急にどうしたの?」
カイザは不審そうにケイマの顔をのぞき込んだ。ケイマの考えはだいたい読めた。
「そそそそれじゃあ、瓦礫ノ園で待っているぜい」
【二】
夜になっても雨はやまなかった。ぱらぱらと小雨になったり、急に強くなったりを繰り返している。
カイザは約束どおり、瓦礫ノ園へ行った。はじめてケイマに出会った日に、いきなり対局をしたあの場所だ。
ケイマは二本の槍を携え、背を向けて立っていた。
「ききき来たか、カイザ」
振り返ったその表情は、カイザには暗くてよく見えなかった。それに、ふたりの間にはまだ距離がある。
「どうしたのさ。話ってなに?」
カイザは歩み寄った。
「ででででめぇは、おギン姉さんのことをどう思っているんだ?」
「やっぱりその話か。どうもこうも、ギンガのことは――」
「けけけ決着を決めようぜい! あああ明日は戦えねぇし、都の本戦まで日数がある。ででででめぇとおで、どっちが強いかクリエイトバトルだ!」
カイザの話を最後まで聞かず、唐突に決闘を申し込んだ。それも普通の対局ではなく、『クリエイトバトル』だ。
クリエイトバトルとは、その場でクリエイションを作り出して実際に戦うという危険な競技だ。毎年、何百人も死者が出ている。
「やれやれ、また始まったよ。というか、『決着を決める』ってなんだよ。言葉が重複しているんだけど」
「そそそそんなことはどうでもいいだろ! ででででめぇはいつもいつも姉さんと楽しそうにじゃれあいやがって」
カイザのツッコミがギンガに似ていたので、ケイマは余計に苛立った。
「どどどどっちが姉さんに相応しいか、クリエイトバトルで決めようぜい! ややややるのか、やらないのか、どっちなんだ?」
「ここのところ対局漬けで、クリエイトの練習は全然していなかったんだ。ちょうどいい機会だし、楽しそうだから受けて立つよ」
カイザは好奇心に駆り立てられていた。ケイマに弁解することさえ忘れ、ふたつ返事で決闘を受け入れる。それほど危険な戦いだとは認識していなかった。
「どどどどっちか選んで、受け取りな!」
二本の槍をカイザに向ける。穂先はケイマ側なので、カイザが刺さる心配はない。
「まさか、この槍で⋯⋯」
あとになって不安が募る。
「ししし心配しなくても、ガチの殺し合いにはならねぇようにするぜい」
「じゃあ、短いほうで」
カイザは短い槍を手にした。
「そそそその槍を地面を地面に突き立ててみろよ」
「こうかな?」
地面にざっくり突き立てる。
「たたた互いに自分の槍を地面に刺して、先に相手のを引き抜いたほうが勝ちっていうのはどうだ? あああ相手に直接危害を加えるのはナシだぜい」
「なかなか面白いことを考えたね。よし、じゃあやろう!」
「ここここれも受け取れ! ククククリエイトで消費する白札は、事前に用意しておく。じゅじゅじゅ十枚までだぜい」
ケイマは白札の束をカイザに渡した。
普通なら、クリエイトバトルで使う白札は、その場でカードクリエイトしなければならない。が、今回は霊力消費を抑えるために、あらかじめ用意しておいた。枚数も十枚までと決めている。
ケイマが申し込む側なので、カイザは負担しなくてもよい。とはいっても、希少度は全部☆×0だが。実体化用の白札は☆×0で十分。クリエイションの質には影響しない。
「ルールはだいたいわかったよ」
「ももも問題があれば、でめぇの好きに変えてもいいぜい。ややや槍を長いほうに交換するとか、白札の枚数を増やすとか」
「いや、問題ないよ。これでいこう」
【三】
ふたりは五十メートルほど離れ、地面に槍を突き立てた。カイザは一メートルの短い槍、ケイマは二メートルの長い槍。
長いほうが掴みやすいので、カイザのほうが有利だ。重さに違いがあるものの、どちらにしても簡単に引き抜けるので、それほどの差はない。
非力なカイザでも簡単に引き抜けるように、ケイマは浅めに突き立てておいた。
「来いよケイマ! 君の気持ちが本物か、僕に見せてみろ!」
適当なあおり文句でケイマをその気にさせる。
「いいい行くぜ、カイザ!」
一方、ケイマは本気だった。
ズボンのポケットから白札を取り出し、地面にタッチする。闇夜にきらめく霊光。いつもの黄色いペガサスが地面から生えてくる。ケイマはペガサスの背にまたがった。
カイザは白札の束を左手に持ったまま、右手を重ね合わせてクリエイトした。霊光と霊毒が同時に発生し、黒い輝きを放つ。
普通、クリエイト時の霊毒は透明で、時間がたつほどに色味を帯びてゆく。だが、カイザの場合は特殊で、最初から黒い色がついていた。霊光の輝きが霊毒にさえぎられ、光が黒くなってしまうのだ。
「あらわれろ、僕のクリエイション!」
カイザは黒い悪魔をクリエイトし、背中に抱きついた。
悪魔のカード名は〔デーモン〕だ。デーモンは念じるだけで思い通りに動いてくれた。コウモリのような翼で空を飛び、ペガサスと空中戦を繰り広げる。
「いいい行けぇ、ペガサス!」
「叩き落としてやれ、デーモン!」
正面から激突。
両者のリミテッドクリエイションは爆散して光る粉になった。
「二体目だ!」
「ここここっちも!」
ふたりは落ちながらクリエイトした。
ケイマは角つきのペガサスをクリエイトする。ペガサスなのかユニコーンなのかはよく分からない。
カイザはふたたびデーモンをクリエイトし、足にすがりついた。バランスが悪く、振り子のように揺れている。
「いいい、今だ!」
ペガサスはデーモンの腹に角を突き刺した。デーモン粉砕。これで二回目だ。
「やり返してやれ!」
カイザはすかさず三体目のデーモンをクリエイトした。地上に降り立ち、別行動をとる。
デーモンは頭から生えた二本の角でペガサスの横っ腹を突き刺した。
そうしている間に、四体目をクリエイトする。カイザは自分の槍の近くで守りを固めた。四体目のデーモンには、相手の槍を取りに行かせた。
次々とクリエイトしていき、数で勝負する。自分の槍を守る守備部隊、相手の槍を取りに行く攻撃部隊を編成した。
一方、ケイマは常に単騎で戦った。
「あああ甘いぜ!」
三体目のペガサスは角が二本あった。自分の槍を守りに行き、略奪者を蹴散らした。二本の角で、二体のデーモンを同時に倒した。
単体の性能では、ケイマのペガサスのほうが圧倒的に強い。
「甘いのはそっちだ!」
デーモン軍団はペガサスを取り囲み、いっせいに飛びかかった。
ケイマのクリエイションは馬なので、槍を押し倒すことはできても、「引き抜く」ことができない。ケイマ自身が取りに行かなければならないのだ。
ということは、ケイマさえ足止めすれば負けることはない。
「そそそそうはさせるか」
四体目のペガサスは翼が刃でできていた。刃を横に広げ、デーモンを次々とぶった斬る。カイザの攻撃部隊は全滅した。
すかさず旋回し、攻撃へ転じる。ペガサスはケイマを乗せて突進した。勢いに任せ、備部隊も全滅させる。カイザの槍のまわりにはケイマしかいない。あとは槍を引き抜くだけ。
ケイマはペガサスから飛び降りた。巨大なペガサスに乗ったままでは体の位置が二メートルも高くなるので、短い槍を引き抜くためには一度降りなければならないのだ。
「こここ、これでおでの勝ちだぜい!」
「それはどうかな?」
カイザの槍のまわりには誰もいない。カイザ自身の姿も見当たらない。
「ししししまった!」
ケイマは空を見上げた。
「これで僕の勝ちだね」
カイザは残しておいた最後の一体に肩車され、空を飛んでいた。守備部隊はおとりだったのだ。
急降下してペガサスを粉砕し、そのままケイマを組み伏せる。ポケットの白札がこぼれ落ちた。
「こういうのもありだよね?」
カイザはケイマの白札を奪い取った。これでもうケイマはなにもできない。
ふたりは事前に、相手に危害を加えてはならないと取り決めていた。だが、相手の白札を奪ってはならないとは言っていない。
「ひひひ卑怯だぞ!」
「勝てばいいのさ」
あとはケイマの長槍を取りに行くだけだ。カイザは五十メートルを全速力で走った。
「そそそそうはさせないぜい。ででででめぇなんかに、おでは絶対に負けられないんだ!」
諦めて力を抜いていたと見せかけて、いきなり全力で抵抗した。転がりながら体の位置を入れ替え、逆にマウントを取る。そのまま殴りまくった。
デーモンは粉々になった。
「なんて奴だ。素手でデーモンを倒すなんて!」
カイザは驚いて振り返った。残り数メートルだった。
「ねねね姉さん、勝ちましたぜい」
ケイマはフラフラになりながらも槍を引き抜いた。
クリエイトバトルはケイマの勝利で終わった。その間、わずか二分。
「こらこら、おふたりさん~。クリエイションで危ないことをしちゃいけないのら」
女の子が短い足でテクテク歩いてくる。聞き馴染みのある声だった。
「こんなところでなにをしているのかな~?」
闇に包まれた瓦礫ノ園には、似合わないような可愛らしい姿。兵頭アユム、その人だ。
「しょしょしょ所長!」
「アユムちゃん、それはこっちのセリフなんだけど。こんな夜遅くに出歩いたら危ないよ」
「ふっふっふ~。誰に向かって言っているのら」
アユムの感知能力は高く、人間の魂に対しては兵頭対局所全体を把握している。
クリエイト反応に対してはさらに敏感だった。瓦礫ノ園付近でなにかがクリエイトされると、即座に場所がわかってしまう。
「カードの実体化は危険なのら。人を傷つけるかもしれないんだよ~」
アユムはふたりを寮へ連行する。
このあと、めちゃくちゃ説教された。
衝撃の真実!な、なんとケイマはギンガのことが好きだったんだねー(棒読み)
次から第四章です。次回こそ衝撃の真実が明らかに⋯⋯!