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千本桜  作者: 雨世界
1/2

1 あなたなんて、大っ嫌い!!

 千本桜


 プロローグ

 

 世界で一番大嫌いな人。(大好きな人)


 本編


 あなたなんて、大っ嫌い!!


 ぱん!! と言う音がして、教室の中が静まり返った。

 それは千桜胡桃が、明野吾郎の頬を思いっきり引っ叩いた音だった。

「あなたなんて、大っ嫌い!!」

 胡桃はそう叫んで、泣きながら駆け出して、一人教室の中を出て行った。そして、ざわついている教室の中には、吾郎が残された。

 吾郎は自分の、主音に叩かれた赤く腫れている頬を手のひらでさすりながら、じっと、ただじっと、泣きながら、教室を出て行った胡桃の残像を見ていた。


 そんな事件が起きたのは、二人の些細な言い争いの結果だった。

 今年の文化祭の舞台で、演劇部所属の胡桃と吾郎はそれぞれ台本を書き、『千本桜』の舞台を教室のみんなで演じることになっていた。

 その舞台の台本はこうだった。

 それは、日本が舞台の中世の演劇で、貴族の王子様は貴族のお姫様と恋に落ちて、二人はお互いに手に手をとって、国を捨て、家を捨て、都の外に広がる森の中に逃げ出して、そこで二人は、結婚式をあげて、やがて森の中で二人だけでひっそりと静かな生活を始める。

 しかし、慣れない森の暮らしの中でお姫様はやがて体を弱くして、病気になり、王子様が必死の看病をしても、お姫様は、その森の中の小屋でその息を引き取ってしまうのだった……。

 王子様はそのことを嘆き、月を見て、涙を流す。(千本桜の花びらが、月の光の中、夜の闇の中に待って、そして静かに物語の幕は閉じる)

 

 そのお話を考えたのは、吾郎だった。

 そのシナリオに胡桃は反対をした。


 胡桃は演劇部に所属する前から、ずっと物語にハッピーエンドを求めるタイプの物書きであり、自ら演じる役者さんでもあった。だから胡桃はお姫様が死んでしまうのは絶対にいやだと吾郎に言った。

 吾郎は胡桃に反論した。

「物語にはバランスが必要なんだよ。善と悪のバランスがさ。あるいは罪と罰の、つまり物語の幸せと不幸せの天秤が釣り合っていないといけないんだ。二人は国を捨て、森に行った。自分たちの大切な人達を見捨てて、自分たちだけの幸せを願った。それは本来いけないことなんだよ。だから二人は本当の本当にハッピーエンドになっちゃいけない。これは二人の身勝手な選択に対する神様からの罰なんだ。あるいは、物語が語る人生のメッセージなんだよ。お姫様が亡くなることで、これでようやく、善悪の、あるいは物語の天秤のバランスが、この物語は取れるんだよ」と言った。

 二人の意見はそれからずっと平行線をたどった。(決して交わらなかった)

 そして、さっきの事件に繋がった。

 それが普段からずっと仲の良い、親友同士の胡桃と吾郎の二人が、『初めての喧嘩をした原因』だった。(いわゆる、方向性の違いというやつだ)

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