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現在、我々は、山中で生活をしている。
崖の近くに滞在して10日・・・
僕が、原始人の胎児に転生して約50日・・・
最近、3人は、咳をする様に成っていた。
回復魔法によって、一時的に改善するが、
数時間すると、再び咳をする。
理由は、この環境だと思う。
海水を含んだ、倒木の皮、
それが、腐り異臭を発する。
そして、その倒木に、
カビが発生しているのだ。
呼吸器系に、問題が出るのは、
当然である。
『空気が正常な場所に、移動するベキだ・・・』
この山を、下山するのに2日かかる。
その先は、森である。
その森を2日進めば、
恐竜を見た平原に出る。
『平地は、駄目だ・・・』
『では、森に移動するか・・・?』
『森に行って、山の近くで生活するか・・・?』
『そこなら、恐竜も来ないのでは・・・?』
『しかし、水は・・・?』
前回、森を移動した時、
3人は、水を飲んでいない・・・
津波の被害で、全てが塩分を含んでおり、
飲む事が不可能だったのだ。
『現在は、どうなのか・・・?』
『生活に必要な水が、毎日、手に入るのか?』
解らない・・・
『森には、カビの被害は無いのか・・・?』
以前、行った時には、カビなど無かった。
しかし、それは、この山も同じである。
1週間前までは、カビなど無かったのだ。
つまり、現在、森にも、
カビが発生している可能性がある。
『そして、もし、カビが無くても・・・』
『森には、恐竜が居るのでは・・・?』
平地の獲物が、森に逃げ込めば、
当然、恐竜も、その後を追う。
2メートル以上もある、2足歩行の恐竜・・・
それが、山の斜面を登って来ると、
転倒、転落の危険がある。
山は、あの恐竜には不利なのだ。
しかし、森は違う・・・
平地である・・・
木々が邪魔で、走る事は困難だが、
入って来る事は、充分に可能である。
そして、現在、
津波被害で、エサが少なく成り、
本来は、入って来ない森の奥まで、
『やって来る・・・』
その可能性が、考えられる。
『では、どうする・・・?』
僕の判断が、
我々の運命を決めるのだ。
遊びでは、無いのだ。
試しに行ってみて、
駄目だったら、戻って来る・・・
そんな、馬鹿な真似は出来ない。
『駄目だった場合・・・・』
『それは誰かが、死んでいる・・・』
『一生治らない大怪我をしている・・・』
その可能性があるのだ。
馬鹿な隊長の命令で、
無駄な体力を使う・・・
助かるチャンスを逃し、
苦しんで死ぬ・・・・
『馬鹿な隊長には、成ってはいけない・・・』
『慎重に考えるベキだ・・・』
その日の夜も、
いつも通り、
3人と1匹は、横穴で眠った。
本来なら、安全の為、
交代で、起きておくベキなのだが、
その必要は無かった。
僕は、眠らないのだ・・・
眠れないのである。
そこで、僕が、見張り役を引き受けていた。
この横穴は、
奥行き3メートル、
高さ1メートル50センチ、
1週間前に、父が掘ったモノである。
そこに、
木の枝を組み合わせ、ドアを作り、
ドロで塗り固め、使っている。
結果、それ成りの、防寒効果が得られた。
つまり、現在、我々は、室内にいるのだ。
僕は、千里眼で全方向を、見る事が出来る。
しかし、ここは、穴の中、
しかも、ドアが閉じている。
これでは、何も見えない・・・
そこで、
視点を変える能力で、横穴の外を見る。
しかし、
この能力で見える範囲は、
数メートルである。
見張りの効果は低い・・・
ところが、現在、僕は、
その数メートル範囲であれば、
好きな場所を中心として、
全方向が見渡せる様に、成っていた。
おそらく、
僕が、視点変更可能な、
この数メートルの範囲・・・
『それが、僕の魂の大きさなのでは・・・?』
その様に考えられた。
僕には、
脳が無くても、思考力がある。
目が無くても、視力がある。
では、僕は一体何なのか・・・?
魂なのだ・・・
おそらく、母の胎内を中心とした。
固定された魂・・・
そのサイズが、数メートル・・・
結果、その範囲なら、視点を変えて見る事が出来る。
そして、その範囲なら、
どの位置からでも、全方向を見渡す事が出来る。
つまり、母の頭上、数メートルの位置から、
全方向を見る事も可能である。
という事は、
理屈の上では、土の中も見れるハズである。
土の中が見えれば、
冬眠中のヘビなどを、
見付ける事が出来る。
しかし、土の中は、見えない・・・
なぜなら、その必要性が無いからだ。
強引に必要性を考えても、
僕の無意識が、それを認めない。
だから、見えない。




