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僕が、原始の世界に来て、約45日、
つまり、2ヶ月目・・・
現在、僕と母は、山頂付近から、
崖の上空を見ている。
鳥を探しているのだ。
『本当に、鳥の向こう側を狙う事が・・・』
『可能なのか?』
『何も無い空間を、狙えるのか?』
『簡単に出来るのか・・・?』
『難しいのか・・・?』
『確かめたい・・・』
『実験したい・・・!』
『練習したい・・・!』
『鳥、来ないかな・・・』
練習では、動かす魔法は発動しない。
しかし、鳥を狩る事は、必要である。
大切な食料なのだ。
つまり、鳥を見つければ、
魔法は発動するハズ・・・
実際、先程は、魔法が発動した。
一瞬だが、
鳥を、包み込んだのだ。
砂利も、飛ばせた。
『しかし、次は、どうなのか・・・?』
翌日・・・
崖の近くに滞在して4日目・・・
鳥を狩れる可能性があるので、
本当なら、今朝、出発する予定だったが、
それを、延長したのだ。
崖を見下ろし、内臓を確認・・・
『何も来ていない・・・』
と、その時、
再び、鳥の姿を見た。
その距離、100メートル前方上空・・・
砂利を投げても、届く訳がない。
しかし、母は、何も迷う事無く、
砂利を、投げた。
『向こう側に当たれ!』
次の瞬間、
空中で、鳥が爆発した様に、
羽が飛び散った。
『やったか?』
『即死・・・・?』
僕は、落下する鳥を、包み込んだ。
『抵抗しない・・・?』
『つまり・・・』
『死んでいる・・・』
鳥を、母の元に回収。
『成功した・・・』
『出来た! 出来た!』
何と言えば良いのか、
方法が解れば、
呆気ない・・・
簡単・・・・
単純・・・
なぜか、照れ臭かった。
『タカ・・・?』
ボロボロに成ったソレは、
おそらく、鷹の様な、
肉食の鳥であったと、
思われた。
足が異様に太い・・・
母は、その死体を見て、
「砂利、多い」と言った。
つまり、次回は、砂利の量を減らすと、
考えたのだ。
僕には、持論がある。
現代人は、凡人である。
スマホを使う人間が、
賢い訳ではない・・・
スマホの無い時代に、
それを考え、開発した人が、
賢いのだ。
つまり、それを使う現代人、
その大多数は、凡人なのだ。
本当に賢いのは、
その時代の一部の人間であり、
残りの多くは、文句を言うだけの凡人・・・
自分では、出来ない事を、
得意気に語るだけ・・・
歴史は、これの繰り返しである。
3人の、原始人・・・
尻尾は無いし、
2足歩行をしている。
しかし、原始人である。
人間に進化する以前の、人類なのだ。
そんな、3人は、弓を知らない。
干し肉さえ知らなかった。
ところが、この3人は、賢い。
僕の登場によって、
激変する毎日に、
最大限の対応をしてくれる。
祖母は、猪の皮で、背負い袋、
つまり、リュックサックを作っている。
それ以前は、モノは手に持って、
運んでいたのだ。
父は、ヘビの肉を干している。
猪の干し肉を参考に、
父が自発的に始めたのだ。
母は、鳥を狩るのに適した、
小石を集めている。
袋から取り出しやすい砂利・・・
それを選んでいる。
3人は、自分で考え、工夫している。
この時代に無いモノを、生み出している。
つまり、尊敬に値する人物なのだ。
僕の毎日は、充実していた。
崖の近くに滞在して、6日・・・
本格的な、冬を向かえていた。
今、移動するのは、自殺行為である。
その為、父が、山の斜面に横穴を掘った。
そして、3人と1匹は、
そこで、冬を越すと決めた。
一方、鳥狩りを始めて、3日目の段階で、
僕の千里眼には、進歩があった。
ズーム機能である。
僕は、普通に見える範囲なら、
全方位を、同時に見る事が出来る。
『では、それを一点集中で使ったら・・・?』
そう考え、ドアの覗き穴をイメージした。
これまで、一点集中すると、
反射量が減り、見えなく成っていた。
しかし、今回は違う、
360度に発する全てを、一直線に集中する。
つまり、水鉄砲の様に、一点から勢い良く発する。
その様に考えた瞬間、
飛んでいる鳥が、アップで見えたのだ。
その間、周囲は見えなくなる。
しかし、それで問題は無かった。
一瞬の事である。
僕と母が、鳥を見る・・・
母が、砂利を投げる・・・
僕が、砂利を包み込む・・・
と同時に、鳥の頭をズームで見る・・・
次の瞬間、鳥の頭が、砂利で吹き飛ぶ・・・
視界が通常に戻る・・・
落下する鳥を回収。
鳥の多くは、川魚を捕食する水辺の鳥だった。
カモの様に、水に浮かぶ鳥ではなく、
サギの様に、水辺に立って、
獲物を待つタイプである。
津波によって、餌場であった渓流を失い、
一時的に、逃げ出したが、
行く先が無く、戻って来た。
その様に考えられた。
『戻って来た・・・?』
つまり、この周辺の平地に出ても、
川や池などが無い・・・
その可能性が考えられた。
僕は、自分の知識の少なさを、悔やんでいた。
現代社会なら、
なぜ、原始時代に、平原が存在するのか?
全てが、密林でない理由は?
その様な疑問を、調べる事も、
教えてもらう事も出来た。
しかし、この世界に、それは無い。
結果、疑問があっても、
それは、疑問のままで、
解らないのだ。
では、今現在、
『何が解らないのか・・・?』
『僕は、何を悩んでいるのか・・・?』
『何で、困っているのか・・・?』
本来、この山は、
木々が多く、渓流が存在した。
山を下りても、その周辺には森が存在して、
自然が豊かな状態だった。
ところが、その森は、3人の歩行速度であれば、
約2日で途切れる。
そして、平原に出てしまう。
『なぜ、森が途切れる・・・?』
『なぜ、草原だったのか?』
『なぜ、森が続かないのか・・・?』
『草が生えるのに・・・』
『木が生えない理由は・・・?』
『水が少ないから・・・?』
『平原は、水不足なのか・・・?』
実際、僕は、その平原を見た訳ではない。
平原に行って、恐竜を目撃した当時、
僕の千里眼は未熟であり、
数メートル範囲しか、見れない状態だったのだ。
その為、
そこが、平原であった事は、
母に教えてもらった。
結果、その平原が、本当に平原なのか?
それは、解らない。
しかし、母の説明が確かなら、
「地面、木無い、岩無い、遠い見える」
つまり、平原が続いている・・・
という訳である。
そして、現在、
毎日の様に、その平原のある方向から、
水辺の鳥が、飛んで来る。
その理由は?
『山に鳥が帰って来た・・・?』
もちろん、その鳥が、
元々、この山の鳥である保障は無い。
しかし、平原に、池や川があるのなら、
『なぜ、山に来る・・・?』
『平原に、池や川が無いのか・・・?』
『あっても魚が少ないのか・・・?』
しかし、
もし、平原に、池や川が無いのなら、
恐竜は、どの様に水分を補給している?
恐竜は、元々、別の場所で生息していた?
津波で、流されて来た?
『つまり、恐竜は、あの時の1頭だけ・・・?』
我々は、新天地を探す為に、
『平原を移動出来るだろうか・・・?』
『解らない・・・』
この様な事を考えても、
解らない事は、解らない・・・
考えても無駄である。
しかし、
現在、それを考える必要があった。
3人が、咳をしているのだ。




