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原始人の胎児に転生して、40日程度・・・
つまり、2ヶ月目・・・
先程、僕は、動かす魔法の発動に成功した。
その結果、母の投げた砂利が、武器となり、
猪の顔面に、直撃したのだ。
そして、動かす魔法によって、
猪を直立させた事で、
父の槍が、猪のノドに命中した。
僕は、誇らしい気持ちに成った。
そんな僕は、母に言った。
「内臓、崖、捨てる、下見る、集まる、見る」
僕は、これが名案に思えた。
我々は、この2週間、
獣に遭遇していなかった。
一体、どこに行ったのか?
我々は、狼に襲われ、鹿を殺し、
熊に襲われ、恐竜と狼を見て、
その後、タロと出合った。
つまり、生き残りは、居るのだ。
実際、今、猪を殺した・・・
つまり、この周囲に、
他の獣がいても、不思議では無いのだ。
ところが、その糞さえ見かけない。
この猪は、まだ若い・・・
では、大人は?
経験豊富な、野生の獣、
そんな大人達は、現在、どこに居る?
安全な土地に逃げて、
そちらで生活しているのか?
平地に出て、
恐竜のエサに成ったのか?
この世界の生態系は、
どう成ってしまったのか?
不安だった。
そこで考えたのが、
谷底に、内臓を捨てる提案だった。
本来、獣の内臓には、使い道がある。
腸は、ヒモに成り、
石槍を作る時、
石の固定に使うらしい。
しかし、我々は、安住地を探し、
移動生活を続けている。
そんな時、匂いのするモノは、持ち歩けない。
狼に、襲撃される危険性があるからだ。
ところが、その狼の痕跡さえ無い・・・
そこで、僕は、提案したのだ。
崖の下に内臓を捨て、
そこに、獣が集まるのか?
それを、確認するのだ。
3人は、その提案に納得した。
祖母の杖に、猪の足を縛り、
その杖を、かついで、父と母が2人で運んだ。
崖の上に到着、
そこから、谷底を見下ろす。
僕は、すでに、普通に見える能力を、得ていたので、
谷底を見る事が出来た。
倒木と土砂で、埋め尽くされていた。
それでも、
高さは、10メートル以上あった。
幅は、100メートル、
水が流れている様子は無い。
上から観察出来る。
現在、動物を全く見かけない状況である。
その様な、環境で、内臓の匂いがしたら?
この地域に、肉食動物が居たら?
それは、間違い無く、
『この内臓に引き寄せられる・・・』
他に、食べ物が無いのだ、当然である。
そして、もし、本当に、獣が来れば、
石を落とし、僕が魔法で叩き込む。
これで、肉と毛皮が手に入る。
もし、獣が現れなければ、
この地域は、一応の安全地帯と確認出来る。
ある意味、一理ある計画であった。
とこが、冷静に考えた場合、
正直、この計画には、無理があった。
計画が、幼稚なのだ。
おそらく、何の役にも立たない。
『崖の下に、内臓を捨てて・・・』
『獣の存在を確認する・・・』
発想は、悪く無かった。
『しかし、実現出来る環境では無い・・・』
もし、内臓の臭いがしても、
倒木と、ドロで埋め尽くされた谷底に、
『獣が、到達出来るだろうか・・・?』
『谷底・・・』
『獣は、崖を下りる事が出来るのか・・・?』
以前、母が殺した鹿は、倒木に足がはさまり、
死ぬ寸前だった。
そんな環境に、経験豊富な大人の獣が、
来るだろうか?
『無理なのでは・・・?』
『結局、獣が居るのか、どうか・・・?』
『確認出来ないのでは・・・?』
『内臓を捨てるだけ、損なのでは・・・?』
提案した僕自身が、その様に思った。
ところが、今さら、
『やっぱり止めよう・・・』などと、
言える状況では無い。
つまり、僕の提案によって、
我々は、無駄な調査を、実行する事に成ったのだ。
僕は、不安に成った。
『これでは、将来、確実に被害が出る・・・』
今回、僕の提案は、簡単に通ってしまった。
僕は、この状況は、危険だと思った。
僕が、正しいと勘違いして、提案すれば、
それは、実行されてしまうのだ。
僕は、責任の重さを感じた。
『では、どうすれば良いのか・・・?』
『この無駄な調査を・・・』
『無駄に終わらせない方法・・・』
僕は考えた。
この地域は、壁山脈のお陰で、
津波被害が軽減しており、
木々が、多く残っていて、
土砂崩れも、起きていない。
残念ながら、
海水と、腐った木の皮による悪臭が、
漂っているらしいが・・・
それは、この山脈地帯にいる限り、
どこに行っても同じである。
それなら、ここを拠点に、
『この冬を、乗り切るベキなのでは・・・?』
『しかし、その様な提案をしても大丈夫か・・・?』
などと考えるが、答えなど出ない。
『では、どうするか・・・?』
僕は、さらに考えた・・・
しかし、
結局、名案など存在しなかった。
結局は、どこで妥協するか・・・
その妥協は、安全なのか・・・?
重要なのは、その判断である。
結果、僕は、妥協した。
そして、計画は、実行された。
崖の近くで、
父が、猪の腹を割き、
内臓を、崖の下に捨てた。
その後、万が一の崩落に備え、
我々は、崖から離れた場所に移動。
そこで、火を起こし、
肉を焼き食べる。
その後、タロは、生肉をもらい、
「美味しい!」と言っている。
そして、食事の後、
猪の毛皮の使い道を、相談した。
サイズは、バスタオル程度、
現在、3人は、元々の毛皮に加え、
熊の毛皮も、身に着けている。
その為、これ以上の防寒を行うと、
動き難く成る。
そこで、リュックを作る事を提案した。
現在、3人は、皮の小袋に砂利を入れて、
携帯している。
作り方は、僕が教えたのだ。
とても、単純であった。
皮ヒモで、毛皮を縫う方法である。
しかし、それは、3人にとって、
『その手があったか!』という
驚きの技術であったらしい。
結果、祖母など、次の袋が作れると知って、
「私、ぬう! 私、ぬう!」と、
とても喜んでいる。
その後、我々は相談をして、
猪の肉は、3日に分けて食べる事に成った。
つまり、ここに、最低3日間は、
滞在する訳である。




