092
僕が、原始人の、胎児に成って、3週間目・・・
現在、真夜中、山中、全員が起きている。
しかし、月は雲に隠れ、
原始人の視力では、
周囲は、ほとんど見えない・・・
そんな中、
突然、父が周囲を見渡した。
その動きに、あせりが感じられる。
『何事・・・?』
父の様子から、
何かの接近だと解った。
僕は、完全な暗闇でも、
昼間の様な視界で、
全方位を見る事が出来る。
しかし、何の姿も見えない・・・
おそらく、木々に隠れている。
僕は、数メートル範囲なら、
視点を変えて、見る事も出来る。
それを使い、
木の陰や、草むらを、見てまわる。
しかし、何も居ない・・・
『数メートル以上、離れている・・・』
だから、見えない。
先ほど、千里眼が進歩した事で、
生前同様に、見る事が可能に成っていた。
つまり、普通に周囲を見渡せるのだ。
しかも、それが、真っ暗闇でも、
全方向が、同時に見れるのだ。
しかし、見付けられない・・・
つまり、数メートル以上先の、
『木々に隠れて見えない・・・』
実際、3人にも見えていない。
しかし、
『3人は、音で、その存在に気付いている・・・』
『ほら!必要だ!聞こえる能力が必要だ!』
僕は、自分に言って聞かせたが、
僕には、聞く魔法を、発動させる事が出来ない。
『反射・包む・反響させる・・・』
それ成りの理論を考えてみたが、
発動しない・・・
結果、この様に、必要な状況であっても、
音は聞こえなかった。
母に質問する。
「何が居る?」
すると母が、
「狼、弱い・狼・・・」
と答えた。
『弱いとは・・・?』
僕は、気に成ったが、
その様な、微妙な事は、
母の語力では、答えられない。
その瞬間、
数メートル先の、草むらが動いた。
3人は、武器をかまえる。
僕は、視点を変え、
草むらの中を見た。
『仔犬・・・・?』
『仔犬ではなく、大人に成る直前の狼・・・』
それは、柴犬サイズの狼だった。
『以前、3人が撃退した狼と同種・・・』
『その小型・・・』
『仔犬ではない・・・』
『しかし、子供・・・』
微妙なサイズだった。
『一匹なのか?』
『親は?』
『親と、はぐれた?』
『この子は・・・迷子?』
そんな事を考えている間に、
子供狼が、草むらの中から出て来た・・・
3人は、周囲を警戒する。
『子供が居るなら、親も居る・・・』
『子供だけなら、他の獣に追われている・・・』
それらの、危険性が考えられた。
3人は、日本語交じりの単語で、
会話をしている。
父と祖母の声は、聞こえないが、
母が、話している事は、認識出来る。
どうやら、この子供狼は、
原始人に、飼われていた可能性が、
高い様である。
子供狼は、父の足にすり寄って来た。
その姿は、とても可愛かった。
僕は、その子供狼を見て考えた。
『3人は、この狼を食べるのか・・・』
僕には、3人を責める権利はない。
母が、食べる事で、僕は生きている。
父と祖母が、食べて生き延びる事で、
僕の安全は、守られている。
その3人が、食べる事を、
残酷などと、侮辱する事など出来ない。
僕は、狼を観察した。
実際、
この動物が狼なのか?
その祖先なのか?
それとも犬なのか?
僕には、解らない。
アゴが、ガッチリしている。
その様な印象を受ける。
『ハイエナ?』
『いや・・・これは狼だ・・・』
『駄目だ、こんな事を悩んでも無駄だ・・・』
僕は、この動物を、狼と呼ぶ事にした。
この狼は、子供である。
不安そうに、3人を見ながら、
父の足に、すり寄って居る。
殺す事は、簡単だった。
そんな中、母が動いた・・・
そして、狼をひっくり返すと、
「男!」と言った。
父と祖母が笑う・・・
こうして、3人は、狼を飼う事に成った。
『原始人が、狼を飼う・・・?』
『これは、歴史的な大発見・・・?』
『いや、僕の知っている歴史と違う・・・?』
『いや、僕が、歴史の何を知っている・・・?』
実際、僕は、何も知らない。
その間、母は、狼に、土をかぶせ、
『土で狼を洗っている・・・?』
『ダニ取り?』
『狼が抵抗しない・・・』
『つまり、以前、同じ事をされていた・・・?』
どうやら、飼われていた事は、
間違い無い様である。
その後、母は、狼を抱きしめて、
「回復」と言った。
僕は、回復を行う・・・
そして、狼を眠らせ・・・・
過去の記憶を「のぞき込む」・・・
『白黒・・・・?』
狼の記憶の光景が、白黒で見えた。
生前、テレビで、犬は白黒でしか見えない。
と言っていた。
『本当だったのか・・・?』
『それとも、僕の知識が・・・』
『白黒映像を作り出している・・・?』
僕は、その様な事を考えながら、
狼の記憶を見た。




