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原始の世界に転生して3週間目・・・
現在、山頂付近、真夜中・・・
月は出ておらず、周囲は真っ暗・・・
のハズ・・・
その状況で、僕は、
真昼の様に見えていた。
その映像は、クリアであり、
はっきりと見えている。
しかも、全方向が、同時に見えていた。
生前の僕なら、脳に負担がかかり、
この瞬間に、死んでいただろう。
しかし、今の僕は、平気だった。
母にも、影響は出ていない。
『精神だけで、魔法を使っている・・・』
『僕が仕組みを、納得すれば・・・』
『魔法で、実現出来る・・・?』
これは、あくまでも、
小学5年生の予想である。
その為、信憑性が低く、
本当かどうかは、解らない。
『しかし、僕が、理屈を考え・・・』
『納得した事に関しては・・・』
『魔法として使えている・・・』
これは、事実である。
ところが、
『音が聞こえない・・・』
『モノを動かす魔法も、使えない・・・』
『なぜ・・・?』
生前の僕は、動かす魔法を、
実用的に、使った事など無かった。
実験や、練習で、その魔法を使っていたのだ。
ところが、今現在、
実験や、練習では、
動かす魔法が、発動しない・・・
先日、熊に襲われた時、必要に迫られ発動した。
しかし、その後は、発動していない。
僕は、自分に、何度も、
『これは必要だ!』
『動かす魔法が必要だ!』
『練習では無い!実用だ!』と
言い聞かせた。
何度も、動かす魔法を使おうとした。
しかし、動かない。
『つまり、僕が、必要と考えても・・・』
『僕の無意識が・・・』
『それを芝居と、認識している限り・・・』
『魔法は、発動しない・・・』
実際、
千里眼は、必要だった。
回復魔法も、必要だった。
これらは、継続的に、必要である。
僕が、無駄と考えても、
必要である事は、事実である。
それに対し、落ち葉を動かす事など、
『必要ではない・・・』
移動中、3人を動かす魔法で、
押す事も考えた。
『動かす魔法で、背中を押す事で・・・』
『3人は、楽に歩けるのでは・・・?』
その様に、本気で思っている。
しかし、その内心、
『上手に出来るのか・・・?』
『3人同時など、無理なのでは・・・?』
『では、1人ずつ順番なら・・・』
などと、思うのだが、
『失敗したら・・・?』
『崖から転落したら・・・?』
などと、不安を感じる。
他人に、背中を押されながら、歩く事が、
『本当に、楽なのか・・・?』
その様に、考えてしまう。
そして、
音を聞く事も、
地面の中を見る事も、
『今、この瞬間、必要ではない・・・』
『つまり、僕が、仕組みを考え・・・』
『納得した演技をしても・・・』
『無理なモノは、無理なのだ・・・』
つまり、
『空中から、リンゴが出る魔法なども・・・』
『発動しないのだ・・・』
あくまでも、僕が、本気で納得して、
『その必要性がある事・・・』
それが魔法として、発動するのだ。
『と思う・・・』
そこで、さらに考える。
『現在、僕には、脳が無い・・・』
『今、僕は、精神だけで思考している・・・』
『しかし、そんな僕が、思考しても・・・』
『魔法は発動しない・・・』
『つまり、魔法を発動させる為には・・・』
『思考では無く、切実な状況が必要・・・』
『考えた答えよりも、必要性が重要・・・』
『本当の必要性に、気付く事が重要・・・』
『では、なぜ聞こえない・・・?』
『聞こえないから、困っている・・・』
『聞く事が必要だ・・・』
『今、この瞬間には、不要でも・・・』
『この数秒後、助けを求める声を・・・』
『誰かが、発する可能性はある・・・』
『つまり、聞く能力は必要なのだ・・・』
『それなのに、なぜ、聞こえない・・・?』
『見えるから、我慢しろ・・・?』
『見えるから充分・・・?』
『無意識が、その様に考えている・・・?』
『いや! そんな事は無い・・・』
『我慢とか、これで充分だとか・・・』
『考える訳がない・・・』
『本当に必要だ・・・』
父と祖母は、時々、僕に、何かを話す。
しかし、それは、僕には、聞こえない。
母が、通訳してくれる時もあるが、
『緊急事態の場合は、どうする・・・?』
僕は、間違いなく必要性を感じている。
しかし、聞こえない。
『原因は、おそらく・・・』
『魔法で聞く為の、理屈・・・』
『それが完成していない・・・』
『では、考えよう・・・』
『音は振動・・・』
『空気の振動・・・』
『空気は素粒子・・・』
『素粒子は振動している・・・』
『それを感知する・・・』
『どこで・・・?』
『耳が無い・・・・』
『でも、目が無くても、見えている・・・』
『なぜ・・・?』
『生前、毎晩練習していたから・・・?』
『千里眼は、上達している・・・?』
『それが今、役に立っている・・・?』
『では、聞く事を・・・』
『上達させる為には・・・?』
『地獄耳・・・?』
『千里耳・・・?』
『どうやって鍛える・・・?』
結局、その方法が、思い浮かばない。
生前、千里眼は、ある日、突然、発動したのだ。
千里眼を、目覚めさせたのは、僕では無いのだ。
つまり、僕は、生前の、あの日、
『なぜ、千里眼が発動したのか・・・?』
それも解らないのだ。
『そんな程度でも発動する・・・?』
『つまり、理屈など不要なのだ・・・』
『見えるのだから、聞こえるハズ・・・』
しかし、音が聞こえない。




