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僕が、原始人の胎児に転生して、約11日・・・
現在、母は、木の影に隠れている。
そして、僕は、その、お腹の中にいる。
しかし、僕には、千里眼があり、
数メートル範囲は見える。
そして、その僕には、見えていた。
『恐竜がいる・・・!』
『どうして・・・?』
噛み砕かれた狼は、ハスキーサイズ。
という事は、この恐竜のサイズは、
地面から、頭までの高さ2メートル、
尻尾を入れたら4メートルはある。
父を見る。
顔が恐怖で引きつっている。
ヒザも震えている。
『これでは、戦えない・・・』
僕は心で、母に聞く
「あれ、見る・0・1・2・3・4・・・」
すると、母が、心の声で「見る・0」と答えた。
『初めて見るのか・・・?』
その場で、狼の腹を食い千切る恐竜、
3人が隠れる目の前で、
狼の内臓が食べられて行く。
『近い・・・見付かる・・・?』
不安で、たまらない。
その状況で、何分経過しただろうか・・・
内臓を、食べ終えた恐竜が、
狼を咥え、引きずりながら、
その場から、遠のいて行く・・・
『凄い力だ・・・』
『あれに噛まれたら、助からない・・・』
恐竜が去った後も、数分間、3人は動けない。
その後、3人は、無言で、森を引き返した。
回復魔法以外、休む事無く、
森の中を歩き続ける。
2日後の夜、山に到着した。
2日半の距離を、2日で移動したのだ。
ここまで、かなり無理をしている。
3人は、寝ていない・・・
何も食べていない・・・
恐ろしくて、それ所では無いのだ。
結果、3人は、
そのまま山を登り始めた。
僕には、そんな3人を、
止める事が、出来なかった。
僕の魔法が、発動する保証は、無いのだ。
3人を、守れる保証は、無いのだ。
夜通し歩き、朝が来ても歩き、
その日の夜、山頂付近まで戻って来た。
祖母が、何かを言っている。
言葉が解らない。
しかし・・・
『もしかすると・・・・』
『今の心理状態なら・・・・』
僕は、母に言った。
「バアバ回復・・・!」
すると、母は、祖母に、それを告げる。
これにより、祖母が、
母のお腹を抱きしめ、回復が始まる。
僕は、絵を描く感覚で、
祖母を包み込む・・・
祖母を眠らせる・・・
祖母が夢を見る・・・
ここは、祖母の夢の中・・・
『成功した!』
現在、祖母は絶望している。
ある意味、余計な事は、考えていない。
1つの恐怖に関して、考えているのだ。
その心理状態が、それを可能にした。
僕は、祖母の記憶の光景を、
見る事が出来たのだ。
『誰かが、話をしている・・・』
『老人・・・』
『子供の頃の祖母に、話をしている・・・』
『祖母が、おびえている・・・』
『泣くほど、恐い話・・・』
『老人の身振り・・・』
『右手で、左手に噛み付く動作・・・』
『この老人は、恐竜を知っている・・・?』
『平地に出る危険性を、話している・・・』
『これが、山で暮らしていた理由・・・・』
僕は、夢の中の、祖母に話しかけてみる。
「大丈夫、僕が守る・・・」
祖母には、その言葉の意味は解らない。
しかし、気持ちを送る。
祖母の恐怖を静める。
その後、父にも、
僕の回復を受けてもらい、寝てもらった。
僕は、思い出していた。
『恐竜の・・・はにわ・・・』
『恐竜の、埴輪が出土した話・・・・』
『昔の人が、恐竜を見て作った・・・』
『その様に考えられる、粘土細工・・・』
『それが、どこで、出土したのか・・・?』
『海外の、どこか・・・』
『思い出せない・・・』
しかし、その埴輪は、
ねつ造であると考えられた。
それを発掘した人が、
全て、同一人物であり・・・
埴輪に、風化の痕跡が無かったのだ。
それ以外にも、
恐竜の絵が彫られた原始時代の石、
というのも・・・
実際、ねつ造であった。
僕は、小学生の頃、魔法使いの存在を探す為、
その類の本を、読んでいた時期があった。
その結果、鳥が、恐竜の子孫。
という事を知った。
そして、当時の結論として、
原始人と恐竜が、同じ時代に居た事実は無い。
という事も知った。
ところが、僕は、実際に、恐竜を見たのだ。
僕は、今、原始時代に居るのだ。
『原始人と、恐竜が、同じ時代にいた・・・』
『ここは、本当に地球なのか・・・?』
『本当に、過去の世界なのか・・・?』
それは、解らない。
解ったとしても、何の解決にもならない。
だから、役に立つ事を考える。
『3人は、これまで・・・』
『恐竜を見た事が無かった・・・』
『今回が、初めてだった・・・』
つまり、
『恐竜は、この時代の希少動物・・・』
『減少している・・・?』
『しかし、なぜ、恐竜は・・・』
『山の中に入って来ない・・・?』
僕は、恐竜の姿を思い出した。
頭から、地面までの距離が、約2メートル、
2足歩行・・・
僕は、想像した。
『例えば、ダチョウが山に入ったら・・・?』
『斜面で転倒する・・・』
『足の速さを生かせない・・・』
つまり・・・
『あの恐竜は、山では不利・・・』
『だから、山には入って来ない・・・』
『では、他の恐竜は・・・?』
『他にも居るのか・・・?』
『あの恐竜以外にも、居るのか・・・?』
『それとも、あの恐竜一種類だけ・・・?』
『この時代、唯一の生き残りの種・・・?』
結局、解らない。
『あの恐竜は、なぜ1頭だったのか・・・?』
『習性で1頭なのか・・・?』
『津波被害で1頭に成ったのか・・・?』
『この地域に、生息していたのか・・・?』
『津波で運ばれて来たのか・・・?』
『狼の死骸を、持ち去ったのは・・・?』
『保存食・・・?』
『冬眠の準備・・・?』
『恐竜は、冬眠するのか・・・?』
『それなら、冬眠中に・・・』
『我々は、平地を移動出来る・・・!』
と思ったが・・・
『全長4メートルの恐竜が、穴を掘って・・・』
『埋まって、春を待つ・・・?』
『それは無理だ・・・』
馬だって、長時間、寝転んでいると死んでしまう。
馬は、基本立って寝る。
横に成って寝ると、身体の細胞が、
体重の圧力で潰れ、腐ってしまうのだ。
『おそらく、あの恐竜も同じだ・・・』
『冬眠はしない・・・』
『では、なぜ、食べ残しを、持って行った・・・?』
『自分で食べる・・・?』
『それなら、運ぶ意味はあるのか・・・?』
『では、仲間に与える・・・?』
解らない事が多過ぎた。
結局、3人は、山の中で、生活を続ける事に成った。




