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これは魔法の書です。  作者: わおん
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086

原始人の胎児に成って、3日目・・・



熊の毛皮を剥ぎ取った翌朝・・・


出発の時間・・・



僕は、自分の間違いに気付いた。



熊の毛皮は重いのだ。



現在、僕には、重さを知る方法が無いが、


重い事は、事実であり、



そして大きい・・・



これを持って、これから何日も、


山中を移動する事など、無謀であった。



3人も、その事は、充分に理解していた。



『では、どうするか・・・?』



僕は、母に言った。



「熊、皮、切る、服」



僕の言葉は、感覚と共に、


母に伝わるので、これで通じる。



そして、母は、父と祖母に、それを伝える。



ところが、通訳に時間がかかる。



『やはり、原始語では不利だ・・・』



などと、考えていると・・・



母は、やっとの事で、2人に、


僕の意見を伝えてくれた。



そして、その直後、


父と祖母の表情に、変化があった。



信じられない・・・



2人が、その様な表情をして、


母の、お腹を見る。



つまり、僕を見たのだ。



この熊の毛皮は、


3人の誇りであり、宝である。



それなに、僕は、切って運ぶ事を、


提案したのだ。



つまり、母は、通訳に手間取ったのでは無く、


2人に伝える事が、辛かったのだ。



そして、事実として、


現在、父も祖母も、母も、


辛い表情をしている。



それは、当然の事であった。



もし、誰かが、世界的名画を、


運ぶのが面倒なので、


切って運びましょう・・・



などと、言い出したら、


僕だって、呆然としてしまうだろう・・・



『3人の誇りである熊の毛皮・・・』


『それを、切って運ぶ提案・・・』



『3人は、どの様な、答えを出す・・・?』



僕は、不安に成った。



しかし、


父も祖母も、今後の移動を考えれば、


1枚モノの、熊の毛皮を運ぶ事が、


無謀である事は、理解出来ていた。



結果、3人は、状況を察して、納得してくれた。



僕は、3人の対応に、助けられたのだ。



そして、僕は、自分の愚かさに、絶望していた。



僕は、昨日、


1枚モノの毛皮を運ぶ事に、賛成したのだ。



僕が、回復魔法で3人を助けると、宣言したのだ。



だから、3人は、喜んで、


熊の毛皮を1枚モノとして、剥ぎ取ったのだ。



ところが、その翌日、僕が無理と言ったのだ。



現在、この群れのボスは、ある意味、僕である。



その結果、3人は、僕の言う事を受け入れたのだ。



僕は、原始人の本能を、利用したのだ。


3人の誇りを、踏みにじったのだ。



『こんな事が、許されるのか・・・?』


『昨日は、良いと言って・・・』


『今日は、駄目と言う・・・』



これは、完全な侮辱であった。


相手を見下した行為である。



『僕の考えなど、こんなモノ・・・』



僕は、それを実感した。



『そんな、僕が、3人から・・・』


『原始語を奪っても良いのか・・・?』



不安に成った。



その為、3人に「原始語を使うな」


などと、言えなく成ってしまった。



こうして、我々は、


出発を中止して、作業に取り掛かった。



皮を分割して、3人分の防寒着を作るのだ。



とはいっても、毛皮を身体に巻き付けるだけ、


通称、ふろしきマントの様なモノである。



しかし、


熊の毛皮を、身に着けるという事は、


3人にとって、大変名誉の事の様で、


妙にソワソワしていた。



僕は、皮を少し残す様に、お願いしていた。


それは、ハンカチ程度の、大きさだった。



それを、毛を内側にして、


半分に折る様に、母に伝える。



この毛皮の両端を、針と糸で縫えば、袋が出来る。



しかし、針と糸など、ここには無い。



そこで、皮の端に、鉛筆が通る程度の穴を、


1センチ間隔で、開けてもらう。



母は、石のナイフを使い、


皮に穴を開けて行く・・・



そして、そこに、


皮で作ったヒモを通し、縫い止める。



そして、出来た袋を、裏返し、縫い目を隠す。



これにより、耐久性が上がるのだ。



以前、姉が、


僕に通学バッグを、作ってくれた事があった。



僕は、それを、思い出しながら、


母に、作業方法を伝えた。



結果、ゲンコツが1つ入る程度の、


皮袋が完成した。



それを、見て興味津々の祖母は、


自分も作りたい事を、アピールした。



しかし、残りの皮など無い・・・



すると、祖母は、


自分が元々着ていた獣の皮を切り、


それで、作り始めた。



その後、その皮袋に、皮ヒモ付け、


肩から斜めかけにすれば、


ポシェットの完成である。



しかし、その様な、


都合の良い長さの皮など無い・・・



結果、父が、植物のツルで、


それを、代用してくれた。



僕は、生前の姉を、思い出していた。



姉は、完璧主義者で、糸の色が、少し違う・・・


そんな事で、毎回泣いていた。



『本当に必要な、モノを作る時・・・』


『そんな事では、困らない・・・』



『本当に必要なモノには・・・』


『代用品が存在する・・・』



僕は、今回、その事を学んだ。



では、完成したポシェットは、


何に使うのか?


何を入れるのか?



それは、小豆サイズの小石である。


つまり、砂利を入れるのだ。



これは、武器である。



獣に遭遇したら、袋の中から、


砂利を握り出し、投げる。



それを、僕が魔法で、獣の顔に、叩き込む。



昨日、熊に襲われたのは、津波の影響で、


地面が露出した場所だった。



結果、母は、ドロを投げる事が出来た。



しかし、通常、我々が移動しているのは、


山の上部であり、場所によっては、


津波を受けていない。



その為、長年、積み重なった落ち葉で、


地面が隠れている。



結果、非常時に、地面から石を拾う事など、


まず不可能である。



もちろん、昨日の様に、腰を抜かした状態で、


袋の中から、砂利を取り出し、


投げる事も困難である。



しかし、他の誰かが、投げる事は、可能である。



万が一、僕の魔法が発動しなくても、


獣の眼球に、砂利を投げるのだ。



落ち葉を、投げた場合と比較すれば、


その効果は期待出来る。


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