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原始人の胎児に成って、2日目・・・
山の中腹部、ドロ川の近く、
僕は、音が聞こえないので、
状況が理解出来ない。
しかし、
3人は、何かを、聞いた様である。
一瞬、『熊が追って来たのか・・・!』
と思ったが、それは違った。
ドロと倒木で、埋め尽くされた小川・・・
そこで、1頭の鹿が、暴れている。
後足が倒木に引っかかり、前足がドロの中・・・
今にも、ドロで溺れそう・・・
母が、棍棒で、鹿の頭部を殴る。
その後、3発目で、鹿は、痙攣を起こし、
さらに、2度殴った後、動かなく成った。
『以外と、丈夫・・・』
父が、鹿を背負い、数メートル、斜面を登り、
比較的、平らな地面で解体を開始・・・
鹿の毛皮を剥ぎ取り、地面に広げ、
その上に内蔵を乗せて包む。
『何をするのか・・・?』
母が、それを川に運び、毛皮を広げる。
そして、倒木の上に、内蔵を捨てた。
『なぜ・・・?』
『足場の悪い、倒木の上・・・』
『熊をおびき寄せる為・・・?』
『その間に逃げる・・・?』
と考えていると、
母が、ドロで、鹿の毛皮を洗い始めた。
そして、棍棒で、その毛皮を叩く。
『なぜ?』
強い力で、叩いている。
『ドロは、匂い消し?』
『叩くのは・・・?』
おそらく、叩く事で、
皮を柔らかくする事が、目的だと思う。
『では、狼の毛皮は・・・?』
『なぜ、持って来なかった・・・?』
『匂い・・・?』
『狼に追跡されるから・・・?』
『持って来なかった・・・?』
『では、なぜ、鹿の毛皮は良いのか・・・?』
『今は、もう大丈夫と判断したのか・・・?』
『熊は、大丈夫なのか・・・?』
『それとも、この毛皮も、熊対策・・・?』
僕には、何も解らない。
『昨日の晩、何も食べなかったのは・・・?』
『夜中、眠らない為・・・?』
などと、疑問と、答え・・・
それを繰り返すが・・・
結局の所、僕の空想である。
『こんな空想では、役には立たない・・・』
その後、母は、ドロまみれの鹿の毛皮を持って、
2人の元に引き返した。
母が、2人の所に戻ると、
鹿の左後足が、切断されていた。
それを、父が、石のナイフを使い、
焼肉サイズに、スライスしている。
その後、3人は、それを火に炙って、食べる。
僕のイメージでは、
原始人は、肉を丸焼きで食べるのだが、
現実問題、獣の襲撃を考えれば、
大きな肉を、ゆっくり焼いている場合ではない。
少しでも早く、食べれる分を食べる。
それが鉄則なのだ。
食べ終わると、母が、泣いている。
毛皮を置いて行く事に、成ったのだ。
おそらく、父の言い分は・・・
ドロに濡れた毛皮を、
持って移動すれば、疲れる。
おそらく、母の言い分は・・・
冬の事を考えれば、毛皮が必要である。
おそらく、祖母の言い分は・・・
今は、無理。
その様な事を、身ぶり手振りで伝えている。
母は、自分が、元気であり、
疲労が少ない事を、アピールするが、
この群れのボスは、父である。
逆らえない。
結局、その毛皮と、鹿の残りを、
火の上に乗せて放置、
周囲の状況を考えれば、
これで山火事に成る事は無い。
では、何の為に、
『この様な事をするのか・・・?』
無知な僕には、空想しか出来ない。
3人は、移動を再開する。
土砂崩れの危険はあるが、
「中腹部」を横ばいに歩く。
熊を警戒している様である。
移動中、僕は、イメージを繰り返す。
『祖母の身体に、手をかざす母の映像・・・』
祖母は、ヒザが痛い様で、杖を使い歩いている。
『このままでは、手も痛めてしまう・・・』
『少しでも、回復させないと・・・』
その様に考え、イメージを繰り返す。
『夢を見ている感覚をイメージ・・・』
『絵を描く感覚をイメージ・・・』
『それによって、回復するイメージ・・・』
様々なパターンを繰り返す。
しかし、祖母に、何の変化も、見られなかった。
その日の夜・・・・
3人は、中腹部で野宿、
食事はしない。
しかし、回復魔法は伝わっている様で、
母だけが、元気である。
『こんな事なら・・・』
『毛皮を持って来れたのでは・・・?』
僕は、その様に思ったが、冷静に考えれば、
『ドロ漬けの毛皮・・・?』
『それが、今後、実用的に使えたのか・・・?』
疑問である。
そして、真夜中・・・
『月が見えない・・・』
『昨日は見えた・・・』
『千里眼でも月は見える・・・』
『数メートルしか見えないのに・・・?』
『昼間は、太陽も見えた・・・』
『巨大で、輪郭が、はっきりしたモノは・・・』
『遠くの山も、認識出来る・・・』
『しかし、数メートル先が見えないのに・・・』
『それよりも、ずっと遠くの・・・』
『太陽や山が見える・・・?』
と思っていたら、突然、雨が降り出した。
『空は見えるのに、雨雲は見えない・・・』
『なぜ・・・?』
『反射が少ない・・・?』
『しかし、その雲の影響で・・・』
『月が見えなかった・・・?』
『どんな理屈だ・・・?』
僕は、混乱するばかりで、何も解らない。
それが、僕であった。




