008
当時5歳・・・
僕は、魔法を鍛える日課を、
半年以上、続けていた。
しかし、ドアが動く事は、無かった。
『練習方法に、問題があるのか・・・?』
『どこに、問題があるのか・・・?』
『どこを、改善すれば良いのか・・・?』
実の所、改善方法など、存在しないのだ。
本来、不可能な事を、やっているのだ。
ところが、ある日、奇妙な体験をした。
持ち上げた牛乳パックが、空だったのだ。
重いと思って、持ち上げたら、
軽かった時の感覚・・・
『これだ!』
僕は、子供部屋に向かうと、
ドアを少し開け、
それを、手の平で、
『力強く押す!!!!』
と思わせておいて、
指先で軽く突いた。
その瞬間、
スローモーションでドアが、
ゆっくりと開いて行く・・・
軽く突いたのだから、
ゆっくり開くのは、当然の事である。
しかし、止まらない。
いつもなら3センチ程度、開いて止まるドアが、
ゆっくりと、開き続けている・・・
『スローモーションだ・・・』
そして、ドアが完全に、開いて止まった。
当時、錯覚という言葉は、知らなかったが、
『頭を、だました・・・』
『強く突いたから、ドアが開く・・・』
『僕の頭は、そう思った・・・』
『でも、僕は、軽く突いた・・・』
『これで、頭が、だまされた・・・』
『頭を、だますと魔法が使える・・・』
難しい事は、解らない。
しかし、その事は、理解出来た。
試しに、もう1度やってみたが、
出来なかった。
当然である。
『僕の頭は、そんなに馬鹿じゃない・・・』
『頭を、だます方法を考えよう!』
しかし、
『僕の頭で、だます方法を考えて・・・』
『その方法で、僕の頭を、だます・・・』
それには無理があった。
先程は、初挑戦の出来事だったので、
本当に成功するのか?
その確信が無かった。
だから、頭が混乱を起こし、
結果的に、だまされた様な現象が、
起きたのだ。
しかし、出来ると解った現在・・・
自分の頭を、だます事など、
不可能に思えた。
そこで、別の方法を考えた。
そして、気付く・・・
『頭を、安心させれば良い・・・』
ドアを全力で開けると、
「バタン!」と大きな音が鳴る。
それが恐いから、心にブレーキがかかっている。
もし、魔法が発動して、
ドアが勢い良く開いた場合、
『ドアが壊れるかも知れない・・・』
僕の、心の中には、その様な不安がある。
つまり、その不安を、取り除けば、
『魔法が発動するのでは・・・?』
その様に考えたのだ。
『では、どうすれば良い・・・?』
そこで、僕は、
ドアと壁の間に、クッションをはさみ、
激突を防ぐ様にした。
『これで、僕の頭は安心した・・・』
では、次である。
『頭を、だます・・・』
『だます・・・?』
『少し違う・・・』
『頭を、説得する・・・』
『催眠術だ・・・』
実際には、催眠術では無いのだが、
先日、テレビで、催眠術を見て、
僕は、暗示を理解していた。
そして、僕は、それを実践した。
『このドアは、重い・・・』
『新幹線よりも、重い・・・』
『地球よりも、重い・・・』
『思いっきり押しても、動く訳が無い・・・』
『もし、壊れたって・・・』
『お爺ちゃんなら、修理出来る・・・』
僕は、そんな暗示を、繰り返しながら、
少し開いた、ドアに向かい、
『うぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!』
心の中で、叫び声を上げた。
そして、
『山を吹っ飛ばす・・・』
『そんな気持ちで、ドアをぶん殴る・・・』
と思わせて、指先で軽く突いた。
次の瞬間・・・
『ピンク色の光のトンネル・・・?』
僕は、その中にいた。
僕が突いたドアから、
ピンク色の光の粒子が、
僕に向かって、飛んで来る。
それがトンネルに成って、
僕の後ろに、流れて行く・・・
『ドアは・・・?』
『開いていない・・・』
『これは一体、何・・・?』
これが、何であるか、それは解らない。
しかし、とても貴重な体験である事は、
充分に理解出来た。
その為、僕は、この現象を、
少しでも長く継続させる為、
『動いたら駄目だ・・・』
そう考えた。
振り返って、トンネルの状態を、見たいのだが、
そんな事をしたら、トンネルが、消えてしまう。
僕は、その様に感じた。
何分間、そうして居たのか?
実際には、数秒だったのかも知れない。
「まばたき」をした瞬間に、
そのトンネルは、消えたのだ。
しかし、凄く長く感じた。
『何だったんだ・・・・』
その後、何度も挑戦してみた。
でも、何も起こらなかった。
その日から、
その時の手順を、何度も何度も再現してみた。
でも、何も起こらなかった。
『スローモーションも起こらない・・・』
『ピンクのトンネルも見れない・・・』
『理由は・・・?』
『あのピンク色のトンネルは・・・』
『どうすれば見れる・・・?』
『そもそも、あれは何だ・・・?』
『あれに何の意味があった・・・?』
僕は、賢く成りたかった。