075
当時、小学5年生・・・
死んだハズの僕は、
未知の世界に転生して、
原始人の胎児に成っていた。
そして、現在、
千里眼で見渡せるのは、
数メートル範囲、
全体を、ぼんやりと、見る様にしないと、
千里眼が途絶えてしまう。
そんな状況で、僕は、周囲を観察していた。
『ここは、森の中・・・』
『おそらく、山の中・・・』
『状況から判断すると、ここは災害現場・・・』
『水害の跡・・・』
『山の斜面だから、水は残っていない・・・』
『しかし、周囲は、全てドロだらけ・・・』
『木々が倒れ、ドロをかぶる程の、水害・・・』
『そんな状況で、なぜ・・・』
『3人は生きている・・・?』
『なぜ、生存者を、探さないのか・・・?』
そんな中・・・
『なぜ、石を拾っている・・・?』
『何に使う・・・?』
母と祖母は、石を拾っている様である。
巨木が1本、倒れずに残っており、
その周りに、拾った石を、並べている。
『拾った石で、墓でも作るのか・・・?』
『そんな場合なのか・・・?』
通称、父は、腕の太さ程の倒木を、
石で叩き切っている。
『何をしている・・・?』
『何とかして、知りたい・・・』
『見ても、解らない・・・』
千里眼では、音は聞こえない。
聞こえたとしても、言葉が解らない。
『では、どうする・・・?』
『母の脳に、魔法を送り、反射を受ける・・・』
『それで、思考を読む・・・?』
実際、先程から、
母の、悲しみ、あきらめ、
希望、未練、決意、絶望・・・
様々な感情が、伝わって来る。
しかし、残念ながら、感情では、
『今、何をしているのか・・・?』
それは、解らない。
そこで、冷静に考えてみる。
『解って、どう成る?』
『それを知って、僕は、何がしたいのか・・・?』
『手伝いたい・・・』
『では、今、僕は、何をするベキなのか・・・?』
それは・・・
『動かす魔法が、使えるのか・・・?』
『それを確かめる・・・』
ところが、無理だった。
動かそうと考えると、
一点に集中してしまい、千里眼が途絶える。
ぼんやり見ながら、動かす練習が必要である。
と、その時、3人が、あわただしく動き出した。
母から、恐怖の感情が伝わって来る。
3人は、石を集めた巨木を背に、身構える。
父は、左手に棒を2本、
右手に1本持っている。
おそらく、その棒の先には、
石の槍先が付いている。
母は、先程、父が切り出した木製の棍棒を、
持っている。
祖母は、左右それぞれの手に、
ゲンコツ大の、石を持っている。
そして、その前方には、
『犬・・・?』
『ハスキー犬・・・?』
『ちがう、おそらく、あれは狼だ・・・』
『それが6頭・・・』
3人は巨木を背に、横一列に並んでいる。
母が、中央、
右手側に、父、
左手側に、祖母、
その状況で、母が1歩前に出る。
母の覚悟が、伝わって来る。
『死ぬ気なのか・・・!』
動物の群れでは、
1番弱いモノが、エサに成り、仲間を逃がす。
『母が、それをする・・・!』
その瞬間、母は、棍棒を振り上げ、何かを叫んだ。
現在、僕には、音は聞こえないが、
それが威嚇である事は解る。
しかし、狼には、通用しない。
1頭の狼が、母に襲いかかる。
母の振り下ろす棍棒は、間に合わない。
僕は、その光景を、2階のベランダから、
見下ろす様な視点で見ていた。
スローモーションだった。
だから解った。
狼が母に襲い掛かった瞬間・・・
その狼の首が、くの字型に曲がり、倒れた。
父が投げた槍が、
狼の首側面に、深く突き刺さったのだ。
と、同時に、
母の棍棒が、倒れた狼の頭部を殴りつける。
その瞬間、
他の狼の視線が、その光景をとらえる。
全ての狼が、母を見る・・・
と、同時に、祖母が、
左手に持った石を、弱い力で、下投げする。
その瞬間、5頭の狼が、
驚いた様子で、その石に視線を向けた。
と、同時に、父が、槍を投げる。
狼達は、その瞬間に、気付いていない。
祖母が投げた石に、視線を向けている・・・
次の瞬間、2頭目の狼の、
首側面に、槍が突き刺さる。
と、同時に、
母が、その狼の頭部を、棍棒で殴る。
それを見て、残りの狼達は、
その場を走り去った。
『何なんだ・・・!』
僕は、驚いていた。
『武術・・・』
僕は、その様に感じた。
『見事だ・・・!』
それは、明らかに技であった。
何度も何度も練習した。
命がけの技。
教室だけで成立する様な、
パフォーマンス護身術とは違う。
僕は、この3人の原始人を、軽く考えていた。
見下していた。
ところが、それは間違いだった。
『何と優秀なのか・・・?』
恥かしかった。
謝りたかった。
母の、捨て身の行動も・・・
祖母の、戦力外の石投げも・・・
全てが計算である。
父の槍を、生かす為、
あの状況で、弱者を演じたのだ。
その瞬間、僕の視界が開けた。
今まで、ぼやけていた光景が、
はっきりと見えた。
相変わらず、数メートル範囲ではあるが、
その範囲であれが、はっきりと見えた。
まるで、生れ変った様だった。
『なぜ、見える様に成ったのか・・・?』
僕は、考えた。
『僕の、考え方が、変わったから・・・?』
『精神に変化が起こると、魔法に影響が出る・・・』
試しに、一点集中で見てみると・・・
『消えた・・・』
残念ながら、
反射が減ると、見えなく成るのは、同じ様である。
しかし、全体を見る様に意識すれば・・・
父が持っているのが、石槍で・・・
地面に倒れている狼から、血が流れている。
その程度の事は、解る様に成った。




