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これは魔法の書です。  作者: わおん
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当時、小学4年生・・・



僕の意思とは関係なく、


僕は、絵を習う事に成っていた。



僕は、スカウトされたのだ。



コンクールで、僕の絵を見た、平井さんが、


僕に絵を教えると、言い出したのだ。



学校側は、喜んだ。



そして、校長先生が、僕の家族を説得したのだ。



結果、僕は、学校の帰りに、


1日1時間、絵を習う事に成った。



平井さんは、プロの絵描きである。


絵を描くだけで、生活が出来る。



当時の僕は、その凄さが解らなかった。



しかし、平井さんは、


田舎とはいえ、大豪邸に住んでいた。



家の中には、デッサン用の石膏像が、


まるで博物館の様に並んでいる。



ところが、そんな平井さんが、


僕の為に、用意した画題は、


ティッシュの箱だった。



つまり、ティッシュの箱の絵を、


描けという事である。



その後、僕は、


毎日、毎日、何回も、何回も・・・


ティッシュの箱の絵を、描いていた。



平井さんは、何も教えてくれない。


大きなコピー用紙に、実寸大で描く。



箱の模様も文字も描く。


ところが、これが難問であった。



立体的な絵の側面に、文字を描くと、


違和感が出るのだ。



箱の絵は、奥行きを表現している。



つまり、そこに描く文字も、


奥行きを考えて、描く必要があるのだ。



手前は大きく、向こうは小さく・・・


理屈は解るが、その微妙な加減が難しい・・・



しかし、平井さんは、


その解決方法を、教えてくれない。



行って挨拶をすると、後は、描く。



では、平井さんは、何をしているのか?



平井さんは、僕の隣で、絵を描いている。



鉛筆を使い、丸めた紙クズの絵を、描いている。


ゴミの絵を、毎日、描いているのだ。



次の日も、僕が行くと、


平井さんは、紙クズの絵を、描いていた。



テーブルには、描き終わった絵が、


山積みに成っている。



僕が帰る時も、描いている。



次の日も・・・


僕は気付いた。



この山積みの絵は、


『今日、僕が来るまでの間に、描いたモノだ・・・』


『毎日、毎日、山積みに成るほど・・・』


『描いているんだ・・・・』



『病的・・・・』



僕は、生まれて初めて、


病的な人間の、異常性に気付いた。



平井さんに、休みなど無い。



だから、正月も、普通に絵を描きに行った。



両親の許可をもらい。


1日1時間という決まりが、


1日3時間に変更に成った。



そして、通い始めて半年・・・



僕が小学5年生に成った時、


平井さんは、初めて、教えてくれた。



それは、左手で描く方法だった。



右利きの人間は、


自分が、左利きだと錯覚するまで、


左手で描けば良い、


そうすれば、観察力が向上する。



僕は最初、その意味が解らなかった。



しかし、毎日続ける事で、


その意味を、知る事に成る。



毎日、ティッシュの箱を、描いているので、


見なくても、それらしきモノは描けた。



つまり、見て描いている訳では、無いのだ。


段取りで、描いているのだ。



しかし、左手で描く事で、


その世界は一変した。



解らないのだ。


見て描いている。



『しかし、何を見て描いている・・・?』


『見る事で、何を知ろうとしている・・・?』



『この観察は、正解なのか・・・?』


『何を根拠に、それを実践している・・・?』



左手では、上手に描けない。


それは、当然の事である。



しかし、問題は、そこでは無い。


不器用なら、練習すれば良い。



そんなモノ、解決出来る問題なのだ。



『では、何が問題か・・・?』



根本的な問題は、見て描く事である。



しかし、それが難しい・・・



見えているが、見ていないのだ。


重要な情報が、目の前にある。



しかし、どの部分を、どの様に見る事で、



『その情報が、生かせるのか・・・?』


『それが、解らない・・・』



それを学ぶ為に、


ティッシュの箱を、描いているのだ。



見て、描く。


その為の、練習。



『しかし、練習とは何か・・・?』


『何を練習すれば・・・』


『ティッシュの箱が、描けるのか・・・?』



僕は、パースという画法を知っている。


奥行きを、表現する方法である。



そんなモノ、最初から、知っている。



コンクールで金賞に選ばれ、


プロの画家に、スカウトされたのだ。



つまり、僕は、絵を描く事は、出来るのだ。



しかし、見たモノを、描く事は、困難であった。


考えた方法で、描くのでは無い。



見た、それを描くのだ。



『その為には、何を見れば良いのか・・・?』


『見て描く事の、本質とは何か・・・?』



自分でも、何を考えているのか?


それに、答えがあるのか?


全く解らない。



しかし、それから3ヶ月・・・・



僕は、授業中、


左手で、文字を書いている事に、気が付いた。



『この事を、平井さんに報告するベキか・・・?』



僕と平井さんは、普段、挨拶以外の会話をしない。



その為、話しかけ難い・・・



ところが、その日、平井さんは、


僕が描いているのを見て、


今度は、両手で描く様に、指示をした。



『平井さんは、僕の成長を見抜いた・・・』



僕は、平井さんの事を、本物だと思った。


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