006
当時、僕は、4歳、
前日、紙飛行機を飛ばし過ぎた。
具体的には、走ってスクワット・・・
それを3時間繰り返していたのだ。
その結果、僕は、
意識を失い、救急車で、病院に運ばれた。
しかし、そんな僕の疲労が、
翌朝には、完全回復していた。
現在、自宅ベッドの上・・・
『痛いのが、消えてる・・・』
『筋肉痛に、成っていない・・・』
『これでは、幼稚園を・・・』
『休めない、かも知れない・・・』
この時、僕は、それが、凄い事だとは、
理解していなかった。
だから僕は、内心、バレる恐怖と戦いながら、
しんどい芝居をした。
そして、その作戦は、見事に成功した。
当然である。
意識を失う程の、筋肉疲労が、
一晩で回復するなど、誰も、思わないのだ。
だから、僕の仮病に、
家族全員が、騙されたのだ。
父が会社に行き、
姉が小学校に行く。
残るは母・・・
実験は、母に、見つからない事が、重要である。
その為、現在、母のトイレ待ちである。
昨日は、寝てしまい、
今日する実験を、考えていない。
『何をするか・・・』
と考えていると、母がリンゴを持って来た。
親戚が、リンゴ農家を、やっており、
毎月、送ってくれるのだ。
そして、美味しい食べ方を、教えてくれた。
リンゴは、冷やすと美味しく成る。
冷蔵庫で冷やしたリンゴを、
食べる2時間前に、冷凍庫に入れ、
キンキンに冷やして食べる。
本当に美味しい。
それを実践した日から、
僕は、リンゴが大好きに成った。
そして、今、母が、
そのキンキンに冷えたリンゴを、
持って来たのだ。
しかし、喜んではいけない。
その瞬間、僕は、気付いたのだ。
このタイミングで、筋肉痛の芝居をする。
食べられない芝居をする。
すると、母は、何なら食べれる?と聞いて来る。
そこで、家には無いモノを、お願いする。
結果、母は出かける。
数分後、それは現実に成った。
僕は、玩具箱から、逆立ちゴマと、
ママゴト用の、お皿を取り出した。
これを持ってベッドに戻る。
現在、母は、外出中だが、
家にいる事を想定して、練習を行う。
身体の左側を下にして、横に成り、
身体に布団をかける。
この状態であれば、
僕は、壁の方を向いているので、
実験を、隠す事が出来る。
横に成った状態で、
見やすい場所に、お皿を置く。
右手で逆立ちゴマをつまむ。
そして、回してみる。
すると、プラスティックの皿の上では、
カラカラと音が鳴る。
『これじゃ駄目だ・・・』
『紙の皿だ・・・』
僕は台所に行って、
紙の皿を3枚持って来た。
そして、2枚を、ベッドの下に隠し、
残り1枚を、ベッドの上に置いた。
ちなみに、逆立ちゴマとは、
ピンポン球よりも、少し小さい木の玉に、
長さ1.5センチ程度の、棒が付いたコマである。
その棒を、指で、つまんで回す。
すると、最初、
玉が下、棒が上の状態で、回るのだが、
遠心力によって、上下が反転し、
棒が下、玉が上の状態で、回るのだ。
この反転の際に、皿との接触音が鳴る。
また、力が弱まり、倒れた時にも鳴る。
『紙の皿なら、大丈夫か・・・?』
と思ったが、実際、音は鳴った。
しかし、プラスティックの皿よりは、
少しましである。
少しでも、バレにくい方が良い。
『よし!』
僕は、布団をかぶり、
寝ている姿勢に成ると、実験を開始した。
棒を、つまんでコマを回す。
しかし、その瞬間であった。
部屋のドアが開いて、
「それじゃあ、買物に行ってくるから」
と母の声が聞こえた。
僕の心臓が止まりそうに成る。
出かけたと、思っていた母は、
トイレに、入っていたのだ。
回転を始めたコマ。
『反転現象が起きて、音が鳴ってしまう・・・!』
ところが、
その瞬間、それは起きた。
コマの動きが、スローモーションに見えた。
そして、本来なら、
上下反転するハズのコマが、
反転せずに回っている。
僕の何かが、反転を止めているのだ。
しかし、コマは止まらない、回っている。
幼児の僕にも、
それが凄い事である事は、理解出来た。
『ここで止めたら・・・もったい無い・・・』
僕は、皿を指でつまむと、母にバレない様に、
ゆっくりと、布団のトンネルに引き込む。
その間も、コマは、僕の何かによって、
反転しないまま回っている。
布団のトンネルの中に入って、
コマを目視出来ないが、
それは、はっきりと解る。
『回転が弱く成った・・・もうすぐ倒れる・・・』
次の瞬間、僕は、
そのコマが、見えているかの様に、
指で、棒を、つまんで止めた。
そして、寝転んだまま振り返ると、
痛い芝居をして「いってらっしゃい」と言った。
すると母は、部屋を後にした。
『凄い!凄い!凄い!今のは何だ・・・?』
母が玄関のドアを、閉めた音を確認すると、
先程の現象を、思い返してみた。
『コマを回す・・・』
『母が来た・・・』
『びっくりした・・・』
『バレるのが嫌・・・』
『スローモーションで見えた・・・』
『見えない何かが出た・・・』
『手を振り上げては、いない・・・』
『手を振り上げなくても、魔法が出た・・・』
『魔法が、コマの反転を阻止した・・・』
僕は念の為に、逆立ちコマを、何度も回した。
すると、何度回しても、
コマは必ず逆立ちをした。
その後、魔法での、逆立ち阻止に、
挑戦したが、無理だった。
しかし、ここで泣いてはいけない。
昨日は、それで失敗した。
それを繰り返しては、いけない。
僕は、泣かずに、何度もコマを回し、
その反転阻止に挑戦した。
しかし、何度やっても出来ない。
コマを、何度も回し続けて、右指が痛い。
そこで僕は、力をファ~と抜いて、
痛みを流れ出させた。
実験再開。
無理だった。
だけど泣かない。
出来ない理由は、解っている。
『スローモーションが起こらない・・・』
逆立ちコマの反転阻止は、
今の実力では、再現出来ない。
スローモーションを起こす方法が、
解らないのだ。
だから、気持ちを切り替え、
本来の実験を、行う事にした。
回ったコマは、反転する。
そして、同じ場所にいる訳ではない。
少し移動している。
つまり、動いている。
それを、僕の魔法で、
操作出来るかの実験である。
『反転阻止は無理でも・・・』
『移動さす事なら出来る・・・』
僕は、そう考えたのだ。
昨日、紙飛行機の実験を行った時、
スローモーションが起きたのは、
最初の1度だけである。
しかし、その後、スローモーション無しでも、
紙飛行機の垂直落下には、成功している。
つまり、スローモーションが起きなくても、
少しの魔法なら、発動するのだ。
そもそも、トイレのフタを開けていた時、
スローモーションなど、起きていなかった。
僕は、幼児なりに、
その事を、自分に言い聞かせ、
出来ると信じ込ませた。
そして、
逆立ち後のコマを、移動させる実験を行った。
挑戦してみると、回っているコマが、
不自然に倒れて止まった。
『また、倒れた・・・』
『これは、偶然・・・?』
僕は、念の為にベッドから出て、
姉の勉強机の上で確認した。
布団の上の場合、僕の動きで、
倒れている可能性があるからだ。
しかし、その後、
何度回しても、僕が魔法を意識した瞬間、
コマが倒れて止まる。
逆立ち前でも、逆立ち後でも、
同様に倒れて止まる。
左手は振り上げていない。
息を止めてみる。
それでも倒れて止まる。
『風の力じゃない・・・』
僕は貯金箱から10円玉を取り出すと、
それを指で弾き、机の上で回した。
それも魔法を意識した瞬間に、不自然に倒れた。
『間違いない・・・』
僕には、魔法の力があるのだ。
『これで実験は終わった・・・』