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当時、小学4年生・・・
数分前まで、僕の心は、
シーグラス職人だった。
しかし、僕の心は、冷めてしまった。
2枚のガラスが1つに成ったのだ。
それは、僕の思い通りに、完成した。
ある意味、大成功だった。
『しかし、素直に喜べない・・・』
僕には、魔法を出している感覚が無い。
つまり、僕には、頑張った自覚が無いのだ。
もちろん、僕が魔法を出している事は、
事実である。
しかし、冷静に考えれば、僕は、見物人である。
僕は、何の努力も、していないのだ。
『ただ、包んだだけ・・・』
『ただ、持っていただけ・・・』
『だから、ただ、うれしいだけ・・・』
そこに、本物の、誇りなど無いのだ。
そして、喜べない理由が、もう1つ・・・
僕は、純金を作れる可能性に、気付いたのだ。
あくまでも、可能性である。
しかし、それは、とても危険な事であった。
『世界が崩壊する・・・』
こうして、僕の職人ゴッコは、終了した。
馬鹿馬鹿しく成ったのだ。
しかし、シーグラス作りを止めても、
魔法の成長は続く。
事実、動かす魔法は、練習を止めても、
その力を増していた。
つまり、今は、出来なくても、
近い将来、鉛を純金に変える事が、
『可能に成ってしまう・・・』
そんな気がした。
つまり、シーグラス作りを止めても、
もう手遅れなのだ。
とはいえ、このまま、
シーグラスを作り続ければ、
純金を作れる日が、早まってしまう。
僕は、それを早めるのが、恐かった。
『未来の僕は・・・』
『純金作りの誘惑に、勝てるのか・・・?』
しかし、気持ちは、どうであれ、
魔法の消費は、必要だった。
魔法を使い、疲労する必要があるのだ。
そうしないと、魔法が暴走するのだ。
『僕は、何をしたら良いのか・・・』
もし、今、僕が、
『もう、どうでも良い、などと・・・』
『開き直ったら・・・どう成る・・・?』
『僕が魔法使いである事を・・・』
『親に教えたら・・・』
『その後、どう成って行くか・・・』
『社会は、どれだけの悪影響を・・・』
『受けるだろうか・・・』
以前、ニュースで見た事があった。
お店は、大繁盛なのに、
株価暴落の影響で、親会社が倒産・・・
その結果、お店は閉店、店員は失業。
当時の僕には、この仕組みが、
理解出来なかった。
しかし、それをヒントに、考える事は出来た。
『もし、純金の量産が、可能に成ったら・・・』
『どう成る・・・?』
『多くの国は・・・』
『金塊を、財産として持っている・・・』
『その価値が下がる・・・』
これが、全世界で起きるのだ。
結果、純金の取引で、
『成功していた会社が、破産して・・・』
その関連企業が倒産する。
そして、世界は考える。
『純金が作れるなら、燃料も作れるのでは・・・?』
結果、石油で富を得ている大国が、衰退して、
更なる失業を生む。
そして、世界は考える。
土地は量産出来ない、だから、価値がある。
すると、土地の値段が、上がる。
すると、土地を売る人が、現れる。
すると、土地を買った人は、それで稼ぐ。
すると、土地の使用料が、上がる。
すると、土地を使えない人が、現れる。
つまり、
純金が量産され、国に損害が出れば、
本来、金塊とは無縁の、
リンゴ農家も、豆腐工場も、酒屋さんも・・・
悪影響を受けるのだ。
『弱者は、土地を、取り上げられる・・・』
悪人が、商売の邪魔をする。
すると、弱者は、生活に困る・・・
お金が無いと、生きて行けない・・・
その結果、弱者は、自分の土地を、
悪人に売る事に成る・・・
そんな社会に成って行く。
だから、僕は、開き直っては、いけない。
『純金など、作っては、いけない・・・』
『僕には、魔法を、秘密にする義務がある・・・』
『では、どうすれば良いのか・・・?』
『今後、何をして魔法を消費する・・・』
『今後、何をして生きて行く・・・』
いつもの様に、先にヒントを考えても、
次の連想が、出て来ない。
歩き回っても、存在しないモノは、
見付からない。
その日、僕は、何もせずに、寝てしまった。
すると、久しぶりに天井が見えた。
僕は、半分眠った状態に成ると、
目を閉じていても、天井が見える。
『しかし、本当に天井が見えているのか・・・?』
それを意識すると、この現象は消えてしまう。
ところが、その日は違った。
はっきり見ようとは、思わなかった。
心が疲れていたのだ。
夏休みの、神社通い以来、
僕は、疲れ難く成っていた。
走った直後は、疲労するが、
数分後、気付いたら、疲労が消えているのだ。
これは、脳の疲れも同様だった。
しかし、精神的な疲労は消えない。
その為、天井が見えても、
記憶に残す意欲が、湧かなかった。
すると、明け方に、再び、天井が見えた。
当時、姉とは、別々の部屋に成っていたので、
僕のベッドに上段は無い。
つまり、今、本当に見えているなら、
それは、本物の天井である。
しかし、はっきり見ようとは、思わない・・・
僕は、ぼんやりと、それを見続けた。
僕の何かが、それを継続させた。
僕は、その後、毎日、それを続けた。
それを行う事で、魔法の消費が出来たのだ。
『ぼんやりと、しているだけ・・・』
簡単の事であった。
しかし、それは、僕の性格には、合わなかった。
『その為なのか・・・?』
なぜか、ある日、文字に興味が湧いて来た。




