049
小学3年生、2学期、下校中・・・
雨が降っている。
少年野球で使う、軟式野球ボールは、
「なんしき」という名前だが、実際には固い・・・
先程、僕の魔法は、
それを、草むらへと、吹っ飛ばしたのだ。
『それが、僕の意思だったのか・・・?』
『それとも、無意識の判断だったのか・・・?』
区別は、出来ない。
しかし、それを「やった」のは、僕である。
僕の魔法は、僕の知らない間に、
大きく成長していた。
『このままでは、近い将来・・・』
『僕は、魔法で、人を殺してしまう・・・』
その危険性は、充分にあった。
『今後、僕が、あせった場合・・・』
『何かを隠したいと、思った場合・・・』
何かが、殺人レベルの勢いで、
吹っ飛ぶ危険性が、あるのだ。
魔法の暴走に関しては、毎日の消費によって、
この1年、起きていない。
つまり、僕の意思に反して、
何かが、動き続ける様な事は、無かった。
しかし、条件反射によって、物が動く事は、
時々、起きていた。
ラムネのボトルが、倒れる瞬間・・・
ラムネの粒を、落とした瞬間・・・
それは、発動していた。
基本的には、誰も居ない時である。
僕は、周囲の目を気にして、
人前では、ラムネを食べないのだ。
しかし、それは、僕が、
誰も居ないと、思っている時である。
そして、今回も、
『誰も居ない・・・』
『雨の日の、田舎道・・・』
『事実、周囲に、人は居なかった・・・』
その為なのか、軽く蹴ったボールが、
そのまま転がり続けた。
しかし、そこは道である。
見られる危険性がある。
僕は、その事を考えた。
その瞬間、ボールが異常な勢いで、
草むらに、飛んで行ったのだ。
僕には、魔法を秘密にする義務がある。
人間の価値を、守る為に、
魔法の存在は、隠す必要がある。
僕は、本気で、そう考えていた。
強く、考えていた。
その強い思いが、
今回、魔法に威力を、与えたのだ。
恐怖感が強いと、驚きも強く成る。
それと、同じ事である。
そして、魔法は、身体の機能の1つである。
ビックリした瞬間、身体が「ビック」と動く現象、
それを止める事など、僕には不可能である。
魔法も同じ事である。
止める事など、不可能なのだ。
しかし、当時の僕は、
『魔法を発動させない・・・』
それを実現させる為に、必死に考えた。
無理な挑戦である事は、気付いていた。
しかし、
自分だけが、有利である、罪悪感・・・
世界に、悪影響を与える、危険性・・・
毎日が、不安だった。
『僕は、ガンを治せるのに、治さない・・・』
以前、祖母が、入院した時に、
知り合った人は、ガンで亡くなっている。
僕には、その人を、見殺しにしたのだ。
魔法を、秘密にする事を、選んだのだ。
残酷な事は、理解している。
しかし、1年間、毎日毎日考えて・・・
助けない事に、決めたのだ。
そして、先日、その人は、
ガンで死んだのだ。
『僕が殺した訳では無い・・・』
『しかし、もし、これが祖父だったら・・・』
『僕は、ガンを消したのでは・・・?』
『それとも、我慢して・・・』
『見殺しにしただろうか・・・?』
『そんな事が、出来ただろうか・・・』
僕は、悩んだ。
そんな事、本当に成ってみないと、解らない。
しかし、相手が、祖父であっても、
僕は、魔法の使用を、悩むのだ。
全人類の、将来を考えた場合、
魔法など使っては、いけないのだ。
それは、充分に、承知しているのだ。
しかし・・・
それなのに、魔法が、発動するのだ。
軽い気持ちで、ボールを蹴っただけなのに、
魔法が、そのボールを、転がし続けたのだ。
『どうすれば、魔法の発動を止められるのか・・・?』
僕は、苦悩していた。
しかし、僕は、苦悩する事も許されない。
『ストレスが溜まる・・・』
このストレスを解消しないと、大変な事に成る。
『僕がヤケを起こしたら・・・?』
『僕が、もう、どうでもいい!と・・・』
『開き直ったら・・・?』
僕は、あせった。
『一体、何が起きる・・・』
『具体的に、どの様な事が起きる・・・?』
残念ながら、想像も出来なかった。
『誰にも、相談出来ない・・・』
しかし、1人で考えても、答えは出ない。
絶望的であった。
しかし、
僕は、そんな場合でも、
答えを出す方法を、知っていた。
まず、ヒントを決める。
『ストレス』
実際、これは、ヒントでは無い。
ただのキーワードである。
しかし、そのキーワードをヒントと考え、
連想して行く・・・
『不満』
『爆発する』
そして、考える。
『では、なぜ今、爆発しない・・・?』
『僕は、今現在、なぜ我慢をしている・・・?』
『なぜ、ヤケを起こさない・・・?』
答える。
『僕は、大切に育てられて、いるからだ・・・』
僕は、家族の愛情を、理解していた。
母が、没収するのも、
姉が、監視するのも、
父が、色々教えてくれるのも、
祖父母が、僕を自慢するのも、
全ては、僕への愛なのだ。
『僕は、その大切を守りたい・・・』
『変化させたくない・・・』
『だから我慢している・・・』
『だから、ヤケを起こさない・・・』
『大切を守る為に、我慢している・・・』
つまり・・・
『今、以上に、大切を充実させれば・・・』
『その大切を、守る為に・・・』
『さらに、我慢が出来るのでは・・・?』
正直、幼稚な発想である事は、
解っていた。
しかし、考える・・・
『では、何を大切にする・・・』
『何を大切にすれば・・・』
『ストレスを、我慢出来るのか・・・?』
そして、気付く。
『趣味・・・?』
『ある意味、魔法も、僕の趣味だ・・・』
つまり、
『魔法以上の、趣味を作る・・・』
『大切な、趣味を作る・・・』
『その楽しみに、専念したい・・・』
『その為に、我慢する・・・』
『それがあるから、我慢が出来る・・・』
『そんな趣味を作り・・・』
『そこでストレスを、発散させる・・・』
『つまり、魔法を上回る、趣味を作れば・・・』
『問題は、解決するのでは・・・?』
『魔法を、止められるのでは・・・?』
僕は、その可能性に気付いた。
そのお陰で、気持ちが楽に成った。
僕は、単純だった。