004
筋肉疲労から解放された僕は、
1日ぶりに、幼稚園に行った。
すると、みんなが、
「無理はしちゃ駄目!」と言って笑った。
みんな、僕を馬鹿にしていた。
しかし、そんな事は、どうでも良い事だ。
姉に比べれば、軽いモノである。
こうして、幼稚園での、日常が始まった。
幼稚園とは、幼稚な人間を、
集める場所である。
家族に迷惑がかかる程、幼稚なので、
みんな、ここに、集められているのだ。
当時、僕は、自分だけは、幼稚では無い。
その様に、思い込んでいたのだ。
幼稚園での、退屈な時間を終え、
家に帰った僕は、
この日が、素晴らしい日である事を知る。
母が、お隣さんと、
おしゃべりを、する事に成ったのだ。
僕の家は、田舎の一軒家である。
そして、隣の家まで1分かかる。
しかも、そろそろ寒い時期である。
だから、お隣さんと、おしゃべりする場合には、
家に入って、座って話す。
結果、3時間くらいは、帰って来ない。
姉は、お友達が来たので、部屋で遊んでいる。
つまり、僕が、庭で実験をしていても、
誰にも見られないのだ。
僕は、折り紙で、紙飛行機を折った。
この様な日が、来ると信じて、
幼稚園で考えておいたのだ。
チラシで折った場合、
同じモノを、もう1度作る事が出来ない。
しかし、折り紙なら、色は違っても、
同じ紙質で、同じ寸法のモノが作れる。
実験には、再現性が重要である。
それが偶然では無く、
成功である事を、確認する為には、
同じ成功を、何度も再現する必要があるのだ。
僕は、その事を、
テレビで学んで、知っていた。
僕は必死だった。
紙飛行機を投げ、
力の加減を確認。
立ち位置を確認。
風の影響を確認。
『よし!』
僕は右利きなので、右手で紙飛行機を投げる。
当時、左右の概念が無かったので、
実際には、
右手を「こっちの手」
左手を「反対の手」と区別していた。
投げると同時に、左手を振り上げる。
『失敗・・・』
タイミングが合わない。
投げると同時に振り上げると、早過ぎる。
そこで、同タイプの紙飛行機を5機製作。
タイミングを合わせる練習を開始。
それらを拾い、元の立ち位置に戻る。
紙飛行機を、毎回、同じ力加減で、
投げる必要があった。
そこで、つまむ場所を決める。
そして、鼻から、ゲンコツ3つ分前進させ、指を離す。
これにより、実験の再現度が、アップする。
『よし!』
次は、「魔法など、普通に使える」という感覚で、
紙飛行機を投げる練習を行う。
昨日は「トイレ、トイレ」と繰り返していたが、
呪文を唱えるというのは、
変な事をしているという、自覚の現れである。
紙飛行機を持つ時に、呪文など唱えない。
紙飛行機を飛ばす時にも、呪文など唱えない。
そんな事をしなくても、それは出来る。
魔法も同じ事である。
呪文など必要ないのだ。
当時の僕には、難しい理論など解らない。
しかし、幼稚園はヒマなので、
その時間を使い、必死に考え、
幼児なりに、理解していた。
そして、それは、当然の様に行われた。
紙飛行機は、鼻の高さ、
右手で、紙飛行機を、
ゲンコツ3つ分前進させ指を離す。
飛んで行く紙飛行機、
それに連動する様に、左手を軽く振り上げる。
すると、紙飛行機の後方部分が、
トイレのフタの様に上がった。
その結果、垂直に落下する紙飛行機・・・
僕には、それがスローモーションの様に見えていた。
『今、こっちの手を振り上げたら・・・?』
僕は、垂直落下をする紙飛行機に向けて、
右手を振り上げた。
すると、紙飛行機の先頭部分が、
僕の方を向いた。
そして、背面飛行で、
僕のヒザを目指して飛んで来る。
そこで、今度は、左手を振り上げる。
すると、紙飛行機の先端部分が、
トイレのフタの様に上がり、
垂直上昇した。
そこで、今度は、右手を振り上げる。
すると、僕の胸の高さまで、
上昇した紙飛行機が、
水平飛行を再開した。
と、ここで、スローモーションが途絶える。
喜びの感情によって、集中が途切れたのだ。
これによって、紙飛行機はコントロールを失い、
地面に落ちた。
しかし、である。
『今のは、間違いない!』
僕が飛ばした紙飛行機は、
僕の手の動きに合わせ、
デジタル時計の6の字の軌道を描いたのだ。
これが偶然に、起こる訳がない。
僕は、その後、何度も挑戦した。
飛ばしては拾い、飛ばしては拾い・・・
僕は泣いていた。
出来ないのだ。
左手を振り上げる事で、垂直落下をさせる事は、
何回も出来た。
左手を振り上げない場合には、
真っ直ぐ飛んで行く事を、
何回も確認した。
しかし、その次の段階の、
右手を振り上げ、背面飛行させる事は、
3回しか出来なかった。
『スローモーションに見えない・・・』
出来ない原因は、理解出来ている。
あせっているからだ。
泣いているからだ。
理解出来ているが、それを克服出来ない。
悔しくて、悔しくて、涙が溢れた。
でも、僕は続けた。