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ツバサにとって、
津波など、元々は、何の心配でもなかった。
結局は、他人事だったのだ。
ところが、飛行魔法が使える様に成った。
しかし、今日の、午前中、
何度挑戦しても、飛ぶ事が出来なかった。
結果的に、
僕が与え、それを奪い、
そして再び与えたのだ。
その影響で、ツバサの意識に変化が出たのだ。
だからツバサは、必死に考える。
本来、不要な事を、必死に考えてしまうのだ。
飛行魔法が、必要に成る状況・・・
それは、南海トラフ大地震が起きて、
それによって巨大津波が発生した時である。
「では、どの程度の巨大津波なのか・・・?」
生駒山の近くまで津波が来た場合、
それは、ツバサの家も、
崩壊している状況である。
しかし、位置的に考え、
その様な津波が来るとは、考えられない。
その様な、津波がきた場合、
四国や和歌山県の全域が、
津波に飲まれている。
そして、その様な事も考え難い・・・
地震は、数百年周期で発生している。
つまり、前回もあったのだ。
そして、その様な、前回があったのなら、
その時、四国や和歌山県は、壊滅している。
しかし、その様な歴史は無い・・・
つまり、南海トラフ地震によって
大阪の北部・・・
つまり、生駒山に達する津波など、
考えられない・・・
もちろん、現実には、
何が起こるか解らない・・・
しかし、
あまりに、極端な被害を想定した場合、
本来必要な対策が、不採用に成り、
絶対に必要の無い、無駄な対策に、
労力を使ってしまう。
その為、ある程度、現実的に、
考える必要がある。
そして、その様に考えた場合、
ツバサの家は、津波の被害を、
受けない地域にある。
彼は、その様な結論を出した。
「では、この飛行能力を、何に使う・・・?」
南海トラフ地震が起きた場合、
海に近い地域は、津波を受ける。
これは事実と、考えられる。
つまり、一部の地域は、津波を襲われ・・・
そして、それがニュースに成る。
屋根の上で、救助を待つ人々・・・
流される人々・・・
それをテレビで見る事に成る。
その状況を思い描き、ツバサは、考える。
「自分は、それを無視出来るだろうか・・・?」
「飛行能力を使って、助けに行くのでは・・・?」
ツバサも性格上、
その様な事を考えてしまう。
しかし、そこにも問題がある。
「どの様に助ける・・・?」
「背負子・・・?」
「しょいこ」とは、
背中に荷物を、固定する道具である。
そして、人を運ぶ事にも使える。
つまり、背負子を使えば、
ツバサと背中合わせで、
椅子に座った状態に、成れるのだ。
結果、ツバサの正座飛行で、
避難が可能である。
「しかし、誰を助ける・・・?」
例えば、建物の屋上に、3人が居た場合・・・
中年夫婦と、老婆・・・
この3人が
正座飛行を受け入れるまでに、
どれだけの説明が、必要だろうか・・・?
もし、一瞬で、受け入れたとしても、
「誰から運ぶ・・・?」
中年夫婦が、老婆を運ぶ事を求めた場合、
「本当に、それが正しいのか・・・?」
この後、避難所生活が始まる。
「その時、この老婆は、役に立つだろうか・・・?」
病院に運ばれ、ベッドを1つ使用・・・
残り少ない薬を消費・・・
「本当に、その価値があるだろうか・・・?」
ツバサは、それが残酷だとは、思わなかった。
ツバサには、偽善など存在しない。
ツバサには「先見の明」があるのだ。
「せんけんのめい」
それは、先を考え行動する能力、
株には手を出さず、
FXで3億2千万円稼ぐ能力・・・
そして、危険を感じ、
FXから引退する判断力・・・
そんなツバサにとって、
非常時に老婆を助け、
中年夫婦を見殺しにする事は、
間違った判断なのだ。
「誰を助けるベキか・・・?」
「つまり、助ける事で、役に立つのは誰か・・・?」
おそらくは、中年夫婦の、奥さんの方である。
しかし、その判断を、
3人が受け入れて、くれるだろうか・・・?
3人の、命がけの、ゆずり合い・・・
それが、始まるのでは・・・?
自分は、死んでも良いから、
貴方が行きなさい・・・
「そんな論争が始まるのでは・・・?」
自分が助けに行かなければ、
3人は、人生を終える事が出来る・・・
しかし、自分が助けに行った場合、
それが壊され、死ぬ方も、助かる方も、
「悲惨な思いをするのでは・・・?」
「助けない方が良いのでは・・・?」
そこで、ツバサは、別のパターンを考えた。
屋上に3人、
赤ちゃん、看護師、青年・・・
3人は他人である。
「誰を助ける・・・」
社会通念上、
赤ちゃんを助ける事が、最善である。
将来がある・・・
しかし、では、26歳、看護師に、
将来は無いのか・・・?
「そんな訳が無い・・・」
今後の、避難所生活を考えれば、
看護師は必要である。
役に立つのだ。
「では、青年は・・・?」
「この青年は、何者なのか・・・?」
3人の内、誰か1人を助ける場合、
3人の価値を、どの様に決めれば良いのか・・・?
青年に質問するのか・・・?
貴方には、ナース以上の価値がありますか・・?
そんな事を聞けるだろうか・・・?
そして、青年が、
本当の事を、答えるだろうか・・・?
本物のレスキューは、
どの様な判断で、
「優先順位を決めるのか・・・?」
おそらく、弱者を優先する。
しかし、その弱者を1人助けた段階で、
建物が流される・・・
つまり、強者と判断された者は、
その場で見殺しにされるのだ。
「それが正しい事なのか・・・?」
ツバサは、飛行魔法で、部屋の中を、
行ったり来たりしながら、考え事を続けた。
そして、夕方4時、睡魔に襲われ、
床に着地、そのまま眠った・・・
重さ12キロのリュックは、
背負ったままであった。




