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瞬間移動の、シュンタの時も、
防御魔法の、マモルの時にも、
経験したのだが、
僕には、その人物の過去が、見える時がある。
残念ながら、僕の意思には関係無く、
見える時があるだけ・・・
その為、今回も、
見れたのは、断片的なモノであり、
そこには、僕の解釈が加わっている。
ツバサは、45歳、独身、無職、
両親と同居、
しかし、彼は、幸せだった。
それには、理由がある。
ツバサは、高校卒業後、
調理師学校に入学した。
そして、その後、
東京のレストランに就職が決まった。
ところが、その時期、ツバサの母に異変が起きた。
更年期障害、鬱病、パニック障害・・・
様々な要因で、
ツバサの母は、精神が不安定に成った。
いつ自殺するか解らない・・・
そして、当時、その様な人が入る病院は、
評判が悪かった。
「人間として、扱われない・・・」
その様な話が多く聞かれた。
結果、回復するよりも、
「今以上に悪く成る・・・」
つまりは、治療をあきらめ、
「家族に捨てられた人が、入る病院・・・」
その様に言われたのだ。
その為、母を、
その様な病院に、入れる訳には、
いかなかった。
では、どうするか・・・?
当時、ツバサが就職した場合、
その手取りは月収15万円、
東京で1人暮らし、
結果、生活費に10万円が必要に成る。
それに対し、父の月収は50万円、
どちらを切るか・・・?
当然、ツバサが切られた。
こうして、ツバサは、就職をあきらめ、
母の介護を行う事に成った。
3年後、母が回復・・・
この時、ツバサは21歳だった。
その気に成れば、その年齢からでも、
就職先はあった。
ツバサは、調理師免許を持っているのだ。
母校である調理師学校に、連絡すれば、
就職先を、紹介してもらる・・・
ところが、
その時期、祖父に異変が起きた・・・
「認識障害」
祖父は、人の区別が出来なく成ったのだ。
認知症とは違い、
人の区別だけが、出来ない病気・・・
ところが、なぜなのか・・・?
ツバサの事だけは、認識出来た。
そして、それが、問題に成る。
病院で医者が喜んだのだ。
明らかに、楽しんでいた。
検査と称して、面白半分の実験を行った。
そして、それに祖父は激怒した。
認識障害は、人の区別は不可能だが、
それ以外は、正常なのだ。
だから、医者の態度が無礼である事は、
充分に理解出来た。
もちろん、ツバサも家族も、
その医師に激怒した。
結果、それ以来、病院には行っていない。
「認識障害」という病名も、
それが、正式名称なのかも解らない。
では、この先、祖父をどうするのか・・・?
祖父は、ツバサ以外は、誰が誰だか解らないのだ。
結局、ツバサが介護をする事に成った。
認識障害によって、
人が区別出来ない事は、
ストレスである。
つまり、周囲に人が居ると、
イライラするのだ。
その為、家族とは生活出来ない。
結果、ツバサは、
祖父と2人で生活する事に成った。
食事は、家族が運んで来る。
しかし、
基本的には、ツバサが1人で、
祖父を見張る・・・
ツバサの仕事は、
祖父を自殺させない事であった。
その後、5年間、その様な生活が続き、
ある日、祖父は心筋梗塞で亡くなった。
朝、起きたら、死んでいたのだ。
そして、その様な場合、
警察が家宅捜査に来る。
そして、同居人は、容疑者として、
質問を受ける。
特殊な障害があるのに、
1度も病院に、連れて行っていない・・・
障害が無くても、
年齢的に考え、
通院していても、
不思議では無い老人・・・・
そんな老人を、
病院に連れて行っていない・・・
つまり、警察は、祖父の死亡の原因は、
ツバサにある・・・
その様に考えたのだ。
もちろん、家族は、これまでの出来事を説明して、
ツバサの無実を訴えた。
しかし、そんな家族にまで、
老人虐待の疑いがかけられ、
家族全員が苦しむ事に成る。
その後、死因が心筋梗塞である事と、
近所の評判などから、
ツバサや家族の疑いは晴れたが、
家族の心は、大きく傷付いた。
その時、ツバサは27歳、
調理師学校に連絡すれば、
就職先を紹介してもらえるが、
簡単では無い・・・
その様な時期に入っていた。
そして、今度は、
そんなツバサ自身に、
問題が発生していた。
8年間も、
人の自殺を心配して、
生きて来た事で、
精神に障害が出たのだ。
外出が出来ない。
現在、家族の誰も、自殺など考えていない。
それは理解出来る。
しかし、出かける事が不安なのだ。
自分が目を離すと、家族が自殺する・・・
その恐怖が消えず。
家から出られなく成ったのだ。
27歳、無職、就職経験無し、外出恐怖症・・・
そんな自分に、一体何が出来るだろうか・・・?




