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原始の世界、
朝の日課を行い。
その後、釣具の開発時間と成った。
今日は、母が提案する様である。
母は、3メートルの棒の先に、
皮袋を取り付けた。
そして、それを使い、釣った魚を、
すくい上げる方法を説明した。
我々は、水上3メートルの位置から、
魚を釣っている。
その為、針にかかった魚は、
3メートル引き上げる必要があるのだ。
しかし、現実問題、
皮は、水に弱い・・・
牛が生きている時、
その皮には油分が供給される。
おまけに、再生力もある。
だから、牛が生きている時、
牛皮は、水に負けない。
しかし、死んでしまうと、
油分も、再生力も、
失われる。
結果、牛皮は水に負ける。
もちろん、数回なら使える。
しかし、その場合、
皮袋には、魚と水が入る事に成る。
つまり、
切れない釣り糸で、引き上げる事よりも、
皮袋を使った方が、重労働に成る。
つまり、母の提案には、無理があるのだ。
しかし、現代の釣りでは、
タモと呼ばれるアミで、釣った魚を引き上げる。
その為、母の考えは悪くは無い・・・
そんな中、父が提案した。
「槍、刺す、槍ヒモ、引っ張る」
つまり、釣糸で、引き上げるよりも、
槍で刺して、
その槍を、ヒモで引き上げた方が、
良いと提案しているのだ。
なぜなら、僕の作った釣糸は、
細いが、切れない。
その結果、魚を引き上げる時、
釣糸で、手を切ってしまうのだ。
その為、皮手袋が必要に成る。
しかし、手袋は邪魔である。
それなら、釣り寄せた魚を、槍で刺し、
そして、その槍にヒモとつけて置けば、
糸を引っ張るよりも、
安全に引き上げる事が出来る・・・
というのが、父の意見だった。
すると、祖母が言った。
「槍、違う、槍の先、大きい釣針、引っ掛ける」
つまり、棒の先にフックを付け、
それで魚を引き上げる。
それを提案しているのだ。
事実、現代でも、
大きな魚を釣り上げる時には、
その方法を使っている。
3人は生き生きしていた。
目が輝いている。
本当に楽しいのだ。
3日後、再び釣りに行く、
それが楽しみで、たまらないのだ。
その日の昼、
2頭目の牛を、散歩させる時間・・・
僕は、音が聞こえないが、
母が、何かを言っている。
しかし、祖母は、
それが聞こえているのに、
返事をしないで、
ニコニコしている。
出産前は、僕と母は一心同体だった。
その為、母の声は、聞く事が出来ていた。
しかし、現在は、それが出来ない。
その為、必要があれが、
植物人間である僕の身体を、抱きしめてもらい、
心で会話をする必要がある。
しかし、現在の雰囲気を見ると、
邪魔をしては悪い気がする。
そして気付く・・・
『歌・・・?』
『母は、歌っているのか・・・?』
僕が、この世界に来て、
生まれるまでの10ヶ月、
誰かが歌った事など、
1度も無かった。
つまり、この瞬間・・・
『母は、この世界に、歌を誕生させた・・・?』
などと考えたが、
南のジャングルにも、
原始人が生活しているのだ。
もしかすれば、その人達が、
歌っている可能性もある。
などと、考えていると、
母は、歌を止め、
恐竜ゴンに指示を出した。
牛の散歩には、ゴンを連れて来て、
母が、掛け声で、ゴンに指示を出す。
これを繰り返す事で、
将来的に、ゴンを、牧場で働く恐竜、
通称・牧用竜に育てる事が、狙いである。
そして、現在、教えているのは、
「右から、回り込む・・・」
しかし、実際に牛で行うと、
牛のストレスに成るので、
牛から離れた場所で、空想上の牛を相手に、
追い込みの練習を行っている。
僕は、生前、山近くに住んでいたので、
猟犬の訓練を、日常的に見ていた。
そして、その訓練は、笛で行われていた。
そして、人間は、笛を失った時の為、
指笛の練習もしていた。
ところが、狩猟を行う場合、
手袋を着用している事が多い、
また、手が汚れている場合もある。
そこで、歯笛を練習する人も居た。
下唇を口の中に入れ、
口を軽く閉じる、
そして、その状態で、
上前歯と、下くちびるの間から、
息を吹き出す。
その際、下くちびるを、少しずつ、
口の外にスライドさせ、
風斬り音が鳴るポイントを探す。
鳴らす時のポイントは、
まず、弱い力で息を出し、
風斬り音を確認、
ベストポジションが見付かったら、
勢い良く吹く。
という事であった。
実際、僕も、それを練習したが、
家族に止められ、上手には成れ無かった。
しかし、これを母に教えれば、
有効活用、出来るかも知れない。
そこで、僕は、母に話しかけた。
僕から話す分には、言葉が通じる。
ところが、母の返事を聞く場合、
母は、植物人間の僕を、抱きしめる必要があった。
母は、僕を抱きしめる事が、うれしい様だが、
利便性を考えた場合、
これは不便である。
『やはり、脳の改善が必要なのか・・・』
こんな事を考えていたら、
僕の意識は、今晩、また現代に、
行ってしまう危険性がある。
しかし、それでも、会話が不便な事で、
困っている事は事実だった。
その為なのか、
結局、その日の夜、
僕の意識は、現代に行ってしまった・・・
その男は、バランスポールの上に正座して、
机の上に置いたタブレットで、動画を見ていた。
しかし、次の瞬間、
その男は「めまい」に襲われ、
正座の姿勢のまま、
バランスボールの上から、
左側に落下・・・
と思った。
しかし、床に激突しない・・・
確かに落下したハズなのに、
現在もバランスボールの上に乗っている・・・
男は、その様に感じた。
と思ったら、
自分の右横にバランスボールが転がっていた。
「では、自分は何に乗っているのか・・・?」
男が、その様に思い、
自分の足の下を見た瞬間、
「空中に浮かんでいる・・・」
男は、その事実を知った。
と同時に落下、床に激突した。
とは言っても、
その高さ30センチ、
男は無事であった。
この男の名前は、
「ツバサ」飛べるからツバサ、
もちろん、仮名である。
ツバサは、一瞬、
何が起きたのか、理解出来なかった。
「寝ぼけて居たのか・・・?」
しかし、先ほどの、空中浮遊が、
勘違いとは思えない。
そこで、ツバサは再び、
机の前に、バランスボールを置いて、
机に手を置いて、
身体を支えながら、
バランスボールの上に正座した。
しかし、何も起こらない。
「飛べないのか・・・?」
と思い、手をヒザの上に乗せた。
次の瞬間・・・
ツバサは、天井に頭を打った。
と言っても、その勢いは弱く、
天井もツバサも無事であった。
そして、現在、ツバサは、
床から、140センチの高さを、
正座のポーズで浮かんでいた。
「何だ・・・これは・・・」
この奇妙な現実に、
動揺したツバサだったが。
その後は、ツバサは、
自分の意志で、
前進後進、
前方を向いたままでの、右移動、左移動、
自動車の様なカーブ、
回転、
上昇下降、
様々な動きを楽しんだ。
現在、15時6分
外は、まだ明るい・・・・
しかし、
ツバサの自室は、雨戸が閉めたままなので、
誰にも見られる心配は無く、
その様な遊びを、さらに数分間、続けた。
そして、ツバサは、感覚的に理解した。
「正座のポーズが重要・・・」
ツバサは、試しに、
床までの距離、10センチまで下降して、
ヒザの上の、右手を離した。
すると、その瞬間、ツバサは落下した。
「なるほど・・・」
そこで今度は、床の上で正座して、
右手は、右ヒザの上、
左手は、左ヒザの上に乗せ、
「飛べ!」と念じた。
次の瞬間、
左に倒れる感覚と、
それに反発する感覚が生まれた。
そして、ツバサは、
床から50センチの空間に、浮かんでいた。
「飛べるんだ・・・」
浮かんで居る間、
正座ポーズに苦痛は無かった。
バランスボールの上よりも、快適である。
ツバサは、六畳の自室を飛び回って、
その非現実的な現象を、楽しんだ。




