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仕事を終え、
BMXで走るマモル・・・
彼からは、疲れた様子が見えない・・・
先程まで、クリーニング工場で、
異常なスピード動いていたのだ。
常人の3倍、
それが僕の印象だった。
『平気なのか・・・?』
『毎日の事だから・・・?』
などと思っていると、
次の瞬間、
マモルは、衝撃を受けた。
激突した訳では無い・・・
心に衝撃を受け、
声も出ず、驚いているのだ。
マモルの前方には、
1人の女性が信号待ちで、立っていた。
最初、それは、何の変哲も無い光景に思えた。
しかし、その人物の背中に、
見覚えがあった・・・
彼女の背中に、デニムの魔法帽が、
ぶら下げていたのだ。
『盗まれた・・・』
僕は、一瞬、その様に思った。
マモルも、その様に感じた様である。
しかし、
その後、マモルも信号に近付き停車・・・
それによって、
マモルは、安心した。
どうやら、それは、
マモルの作った魔法帽では無い様である。
僕には、違いが解らないが、
微妙に違う様で、
マモルには、それが解る様であった。
しかし、それによって、
マモルの困惑が始まった。
『この女性に話かけるベキか・・・?』
マモルは考えた。
自分は、昨日「めまい」を経験して、
デニムの魔法帽をかぶる事で、
防御魔法が発動する様に成った。
その翌日に、デニムの魔法帽、
それを身に付けた女性を、目撃した・・・
『これが偶然である訳が無い・・・』
『しかし、何と言って、声をかける・・・?』
その事で、マモルは困っていた。
例えば、
「貴方は、魔法使いですか・・・?」
などと、質問した場合、
相手は、驚くだろう・・・
しかし、場合によっては、その場のノリで、
「はい」と答える可能性もある。
では、何と質問すれば良いのか・・・?
「貴方も防御魔法が使えるのですか・・・?」
と質問した場合、
これも、場合によっては、ノリで、
「はい」と答える可能性もあるが・・・
変な目で見られる、可能性の方が高い。
また、彼女が、防御魔法を使えたとしても、
それを、秘密にする可能性もある。
では、どの様に質問すれば良いのか・・・?
と、マモルは悩む・・・
その間に信号が青に成り、
女性は歩き出した。
その瞬間、彼女は、一瞬振り返り、
マモルを見た。
それが何を意味するのか・・・?
それは、僕にも解らない。
彼女は、マモルの秘密・・・
つまり、防御魔法を知っているのか・・・?
それとも、安全確認の為に、
後を見ただけなのか・・・?
僕は困惑した・・・
当然、マモルも困惑していた。
『尾行するか・・・?』
マモルは、一瞬、本気で、
そう考えた。
しかし、
自転車で、歩行者を尾行する事など、
不可能である。
自分が、尾行される立場なら、
必ず気付くのだ。
マモルにも、
それは、理解出来た。
つまり、マモルには、
2つの選択支しか無かった。
勇気を出して話かける方法と、
あきらめる方法・・・
そして、この場合の正解は、
あきらめる方法であった。
もし、彼女が、本当に防御魔法使いであり、
その事を素直に認めた場合、
「それで、どうする・・・?」
彼女が、この力を、
社会の役に立てましょう・・・
そんな事を言い出した場合、
「それに対応出来るだろうか・・・?」
そんな事を考えていると、
信号は赤に成り、
マモルは、横断歩道を渡る事が出来なかった。
一方、魔法帽の女性は、
左に曲がり、歩いている。
そして、その方向は、
マモルも通る道であった。
『どうする・・・?』
などと考えるが、
結局、マモルは、
その道は通らずに、
遠回りをして、帰宅した。
そして、大急ぎで、クローゼットの中を確認、
魔法帽は無事であった。
「彼女は、一体、何だったのか・・・?」
マモルは、冷静に考えてみた。
偶然とは思えない。
「しかし、本当に、そうなのか・・・?」
現在11月、
先月まで、世間はハロゥインで大騒ぎしていた。
それを踏まえて考えた場合、
彼女は、ハロゥインのコスプレ用に、
魔法帽を作った。
それが、良い出来栄えであった。
そして、とても気に入った。
結果、ハロゥイン後も、
ファッションアイテムとして、着用している。
その可能性は、充分にあった。
現実的に考えた場合、
そう考える方が、自然なのだ。
彼女も、魔法帽を作り、
その着用中に「めまい」を経験して、
転倒・・・
それによって、防御魔法の存在を知った・・・
そんな出来事など、
実際に起こる訳が無いのだ。
結果、マモルは、
彼女は、偶然、
魔法帽を着用していただけ・・・
そう考える事にした。
『しかし、では、自分は・・・?』
やはり、気に成る・・・
なぜ、自分は、防御魔法が使えるのか・・・?
マモルは、魔法帽に関して、調べた事があった。
1作目の魔法帽は「おでこ」に、
ピッタリのサイズだった為、
トンガリ部分が「きゅうくつ」で、
頭が入らない・・・
その失敗を踏まえ、
2作目は、多少大きめサイズに作った。
結果、かぶる事は出来た。
帽子のツバが、眉毛の位置・・・
ある意味、ピッタリサイズであった。
しかし、それも、失敗作でもあった。
帽子の中に、頭は入った。
しかし、ゆるい・・・
ブカブカでは無いが、
歩けば動く、
歩くだけで、帽子がズレる。
こんなモノ、帽子としては、使えない。
そこで、帽子の上から「ハチマキ」を巻いた。
そして、マモルは気付いた。
なるほど、だから、魔法帽にイラストには、
ベルトが描かれているのか・・・
しかし、ここまでして、
なぜ、こんな不便な帽子を、かぶるのか・・・?
魔法使いは、森の中で生活している。
その様な印象がある。
そして、この様な魔法帽を、かぶった状態で、
森に入れば、枝に当たり、
ハチマキがあっても、
帽子はズレる。
ツバが大きいので、風が吹けば、
帽子は飛ぶ・・・
つまり、あまりにも、
実用性に欠けるのだ。
そもそも、なぜ、トンガリ帽子なのか・・・?
そして、マモルは、魔法帽に関して調べ始めた。
当時の、マモルの記憶を、要約すると・・・
どのクラスにも、
絵の上手い人が居る。
スポーツが得意な人が居る。
そして、その様な法則は、
大昔から、存在した。
天気予報が得意・・・
その人物の天気予報は、
必ず当たる。
しかし、大昔の人間であれば、
明日の天気を予想出来る者は、
大勢いた。
逆に、天気予報が出来ない者など、
存在しなかった。
ところが、その人物が、
「明日、旅人が来る・・・」
その様に言うと、
その翌日、本当に旅人が来た・・・
偶然かも知れない。
事実、時々、外れる。
しかし、当たる事が多い。
そして、その人物の天気予報は、
必ず当たる。
すると、部族の人間は、
その人物に質問する。
明日、山に入るのだが、天気は大丈夫か・・・?
すると、その人物は答える。
明日は、雨は降らない・・・
しかし、
熊が出るから、山に入るのは止めなさい・・・
結果、それを信じて、山に入らなかった場合、
「本当に熊が出たのか・・・?」
その確認は出来ない。
また、山に入ったとしても、
熊が出る事を知っていて、
大騒ぎしながら入れば、
熊は近付かない・・・
結果、その人物の予言は、
「当たったのか、外れたのか・・・?」
その区別が困難である。
しかし、天気は、毎回当たるし、
それ以外の事も、
時々、本当に起こる。
その他にも、
薬草に、くわしい人物が居る。
しかし、大昔の人間にとって、
薬草は、日常的に使うモノなので、
ある意味、全員が薬草にくわしい・・・
ところが、
その人物が用意した薬草を使うと、
治りが、早い様に思える。
その人物が、手当てをすると、
痛みが、早く消える様に思える。
それは、思い込みかも知れない。
実際、その人物が、
薬草を用意して手当てをしても、
死ぬ人は、死ぬのだ。
結局は、薬草レベルの治療なのだ。
しかし、
もし、自分では無く、
その人物が治療していれば・・・
「子供は、助かったかも知れない・・・」
その様な後悔をする人も現れる。
結果、
「少し特殊な人物」が存在する部族には、
独自の価値観が生まれる。
その「人物」を大切にする・・・
そして、部族の中には、
その人物に、あこがれる者も現れる。
結果、その部族では、
その「人物」を信頼する様に成る。




