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原始の世界、
夜に成り・・・
家族3人が熟睡している。
つまり、僕1人の退屈な時間である。
『マモルは、大丈夫だろうか・・・?』
僕は、マモルの事が気に成っていた。
僕が、居ない時に、
『マモルが、防御魔法の実験を行ったら・・・?』
10円を足に落とし、
防御魔法が、発動しない事を理解する。
しかし、その様な場合、
人間は、都合良く考える。
もっと、大きな苦痛なら、
発動するのでは・・・?
『そう考えるのでは・・・?』
そして、再び防御魔法を、発動させる為に、
『無茶な事を、行うのでは・・・?』
と不安に成る・・・
おそらく、マモルは、
その様な事はしない・・・
しかし、保障は無い、
とても、気に成る・・・
しかし、それを見に行って、
『僕に何が出来る・・・?』
『結局、見物に終わる・・・』
『僕には、何も出来ない・・・』
マモルの、防御魔法に関して、
僕には、手助けしている実感が無い。
その魔法は、明らかに僕の魔法なのだが、
しかし、それを発動させているのは、
僕の無意識である。
その為、マモルがケガをしても、
僕には、何も出来ない。
僕は、向こうの世界を見ているだけ・・・
話かける事も、
回復魔法を送る事も、
何も出来ないのだ。
つまり、行っても意味が無いのだ。
現在、僕は、原始の世界に居る。
そして、家族は眠っている。
つまり、僕1人の時間である。
その為、退屈ループが続く・・・
僕が、何か口実を考え、
自分の脳を観察すれば、
僕の意識は、マモルの所に行けるだろう・・・
しかし、
『本当に大丈夫なのか・・・?』
『もし、今日、マモルが寝なかったら・・・?』
その場合、僕は、こちらに戻れないのだ。
『防御魔法とは、睡魔にも有効なのか・・・?』
事実、昨日、マモルは、
睡魔に、襲われなかったのだ。
瞬間移動の、シュンタの場合、
連続10回以上使うと、
睡魔に襲われる様であった。
しかし、昨日、防御魔法のマモルは、
1時間以上、帽子をかぶっていた。
しかし、睡魔は発生していない。
『防御魔法が、睡魔を防いでいる・・・?』
『その結果、マモルが寝なかった場合・・・』
『その場合、僕の家族は、どう成る・・・?』
朝起きて、僕が居ない事に気付く・・・
植物人間の僕は、浮かんで居る。
しかし、肝心の僕が居ない・・・
魂が居ない・・・
その場合、家族は、
どれほど心配するだろうか・・・?
では、その様な事が、起きる可能性を、
『家族に説明しておくか・・・?』
『今日は、あきらめて・・・』
『明日、家族に説明して・・・』
『その上で、現代に行くか・・・?』
と考えるが、
『では、どの様に説明する・・・?』
『前世の存在を教える・・・?』
『現代の事を教える・・・?』
教える事で、祖母は喜ぶだろう。
しかし、連れて行く事が出来ない。
『ただ、自慢するだけ・・・』
『ただ、教えるだけ・・・』
僕に悪気が無くても、
祖母は、傷付く可能性がある。
父や母も、
こことは、別の世界の存在を、知る事で、
自分の立場に、悲しみを感じる可能性もある。
原始人にとって、
現代の話など、
夢の様な話なのだ。
僕がやって来た、夢の様な世界なのだ。
当然、興味を持つ・・・
もっと、教えて欲しいと、お願いされる。
そして、僕が、話せば話す程、
3人は、現代に興味を持つ・・・
そして原始の世界が、
退屈に思えてしまう・・・
その可能性が、充分に考えられるのだ。
だから、安易に、教える事は出来ない・・・
だから、僕は、僕の脳を見てはいけない・・・
僕は、僕に言い聞かせた。
『しかし、そんな事が守れるだろう・・・?』
葬式の最中、笑いを我慢する事で、
今以上に、笑いたく成る。
我慢が出来無く成る。
などと考えていると、
僕の意識は、マモルの元へと移動していた。
『しまった・・・!』
などと、あせるが、
その内心、僕は、喜んでいた。
これにより、マモルの観察が再開出来るのだ。
マモルは、クリーニング工場に居た。
クリーニング店に出された洗濯物が、
この工場に集められ、
クリーニングされている様である。
工場の大きさは、
コンビニの店内と、ほぼ同じ、
あるいは、少し大きいか・・・?
そんな中、マモルは異彩を放っていた。
その動きが異常なのだ。
彼は、カッターシャツの、
アイロン係の様である。
しかし、その大半は、
プレス機を使う、
マモルは回転テーブルの前に立って居る。
そこには、台があり、
その上に、カッターシャツの、
エリとソデを乗せる。
そして、スイッチを押すと、
回転テーブルが半周して、
マモルがセットしたカッターシャツが、
向こう側で、プレスされる。
その際、向こうに行ったカッターと引き換えに、
プレスを終えたカッターが戻って来る。
しかし、マモルは、それには見向きもしないで、
横に移動、腕部分専用のプレス機から、
カッターを取り出す。
それを、身体部分専用の、
プレス機にセットして、
スイッチを押す。
と当時に、移動を開始、
回転テーブルから、カッターを取り、
腕部分専用のプレス機にセットする。
マモルの動きは、
この3台の機械の動きを超えていた。
その為、時間が空く、
そのタイミングで、
アイロンを使い、
プレス機では、対応出来ないカッターに、
アイロンをかける。
身体部分専用のプレス機が、
終了すると、
たたみ係の、おばさんが、
それを取り、
たたみ作業を行い、
それを袋に入れる。
その、おばさんの作業も、無駄が無い・・・
しかし、マモルの動きは、
その、3倍早い・・・
3人分の作業を1人で行っている。
その様に思える。
現在、僕は、
マモルの1メートル上から、
それを見ている。
僕には、全方向が見えるので、
そこから、工場内を見渡すと、
従業員は、マモルを入れて6人、
スーツのアイロン係、
ズボンのプレス係、
染み抜きか係、
全員が、それぞれの持ち場で、
黙々と仕事を行っている。
全員が真面目、
手抜きをしている者など居ない。
しかし、マモルの動きを見ると、
他の人の動きが、
ゆっくりに見える。
マモルは、この作業を、
何時間続けるのか・・・?
倒れるのでは・・・?
その様な心配をしてしまう。
しかし、彼の動きは、止まらない。
結局、僕が、来てから30分間、
マモルは、止まる事無く、作業を続けて居た。
『無我の境地・・・』
『ゾーンに入っている・・・』
どの様な表現が正しいのか、
マモルは、考え事をしていない。
身体が勝手に動いている。
これを、日常的に繰り返しているのか・・・?
そんな事、トップアスリートでも、
無理なのでは・・・?
スポーツ選手のインタビューなどで、
調子の良い時には、ボールが止まって見える。
などと聞いた事がある。
つまり、その様な事は、
毎回出来る訳では無いのだ。
調子が良いから、出来るのだ。
ところが、マモルは、
それを、日常的に、行っている様に見える。
だから、周囲の人は、誰も、驚いていない・・・
『マモルとは、一体、何者なのか・・・?』
『なぜ、クリーニング工場で働いている・・・?』
その様な疑問を感じながら、
僕の観察は続く、
そして、15時30分
2人の、おばさんが入って来た。
すると、マモルは、頭を下げ、
作業台から離れた。
どうやら帰宅時間の様である。
マモルは、タイムカードを押しに行く、
作業開始時刻・・・6時25分
作業終了時刻・・・15時31分
おそらく、昼休みが1時間あると考えられる。
しかし、では・・・
マモルは、8時間も、
あの作業を行っていたのか・・・?
それとも、午前中は、別の仕事があるのか・・・?
誰かが休んだ場合を考え、
全員が、他のポジションにも対応出来る様に、
ローテーションしている可能性もある。
などと考えるが、
僕には、解らない。
マモルの帰り際、僕は、
カッターシャツのプレス機を見た。
すると、2人が、
機械の前に立っていた。
たたみ係りを入れて3人。
おそらく、それが普通なのだ。
マモルは、全員に聞こえる様に、
「お先に失礼します」
と元気良く、あいさつをして、
その後、BMXに乗り、
クリーニング工場を後にした。




