038
夏休みが終わり、
小学1年生の2学期がスタートした。
僕は優等生だった。
6年生の問題が、簡単に解けるのだから、
1年生の授業など、聞かなくても、
当てられれば、当然の様に、正解出来た。
しかし、国語に関しては、
「この時、主人公は、どの様に考えたのか?」
という、無責任な問題が出た。
答えなど、無いのだ。
架空の人物に、考えなど、存在しないのだ。
しかし、一応の答えは存在した。
『この状況、何と答えれば・・・』
『大人は、納得するのか・・・?』
『この物語を、利用して・・・』
『何を教える、予定なのか・・・?』
それを考え、答えれば、正解である。
とても、簡単な事である。
ところが、クラスメートの中には、
それが、理解出来ない者が多い。
だから、僕は、毎回、驚いていた。
『本気で、言っているのか・・・?』
『何を言っているのか・・・?』
と、不思議に思う程である。
しかし、だからこそ、僕は、
その様な意見に、興味が湧いた。
『自分には無い、発想・・・』
『自分には無い、勘違い・・・』
『自分以外の人間が、何を考えているのか・・・?』
それを知る事が、将来、役に立つと、考えたのだ。
その為、僕は、国語の授業だけは、聞く事にした。
では、僕の魔法は、どう成ったのか?
というと・・・
僕は、困っていた。
2学期からは、全く、走れなく成っていた。
目立ってしまうのだ。
「いつも走っている子」として、
見ず知らずの人にまで、
認識される様に、成っていた。
そして、それは、非常に危険であった。
賢い人が、僕の走りを見れば、
『その異常に、気付いてしまう・・・』
僕は、走っている最中、見えない何かに、
背中を押されている。
その様な、感覚があった。
この現象は、1学期の途中から始まり、
夏休みには、完全なモノに成っていた。
錯覚などでは無い・・・
明らかに、押されているのだ。
僕には、自覚が無いが、
僕の無意識が、僕の魔法で、
僕の走りを、サポートしているのだ。
その為、見る人が見れば、その走りのフォームが、
不自然である事に、気付いてしまう。
そして、この当時、僕は、
魔法がバレる危険性を、理解出来る様に成っていた。
これまでは、魔法がバレると、
母に止められる・・・
姉にバカにされる・・・
その程度の理由で、魔法を秘密にしていた。
しかし、もし、本当に、僕の魔法がバレた場合、
『それは、深刻な問題に成る・・・』
それを実感していた。
当時、僕は、
神社に行くだけで・・・
ただ走っているだけで・・・
周辺で有名人に成り、応援される様に、成っていた。
さらには、僕に向かって、
手を合わせる人まで、現れたのだ。
心が苦しく成った。
僕は、この状況に、納得が行かなかった。
『僕は偉く無いのだ・・・』
僕は、僕だけの為に練習しているのだ。
僕は、遊んでいるのだ。
そんな僕が、偉い訳が無いのだ。
みんな、誤解しているのだ。
しかし、この状況・・・
僕には、改善出来ない。
つまり、
もし、僕の魔法がバレ場合、今以上の誤解を生み、
さらに、納得の行かない、状況を作り出す。
そして、その状況は、改善出来ず。
『僕は、困る・・・』
『ただ、ただ、困る・・・』
『それが、一生続いたら・・・?』
そう考えると、魔法使いである事を、
人に知られるのは、危険だった。
僕は、誤解をされるのが嫌だった。
申し訳ない気持ちで、いっぱいに成った。
『僕は、偉く無いのだ・・・』
『誤解なのだ・・・』
『だから、もう走れない・・・』
しかし、それでは、困るのだ。
僕は、魔法を使わないと、
ストレスが溜まる。
そして、勝手に発動してしまう。
それを防ぐ為には、走って、
体力を消費する事が、重要に成っていた。
ちなみに、この世界に、
「魔力」というモノは存在しない。
つまり、身体には「魔法のエネルギー」を、
「集める機能」も「ためる機能」も存在しないのだ。
僕は、夏休み中、日々の経験で、
その事を理解していた。
魔法に必要なのは、脳が消費するブドウ糖である。
極論すれば、それだけで、魔法は使える。
しかし、人間というのは、
物事を、簡単には、割りきれない。
例えば、
緊張している場合、実力を発揮出来ない。
では、どうすれば、実力が発揮出来るのか?
実力を出す為に、必要なのは、
「精神力」と「体力」である。
『どんなに難しくても、投げ出さない精神力・・・』
これは、勉強で、鍛えられる。
『超人的な、体力・・・』
これは、過剰な運動と回復で、鍛えられる。
『それらが、自信を生むのだ・・・』
そして、僕は、夏休みの間、休む事なく、
それらを、非常識なレベルにまで、
鍛えてしまったのだ。
そして、それが、僕の無意識に、
大きな自信を、与えて、しまったのだ。
気付いた時には、手遅れだった。
僕の魔法は、夏休み以前とは、比較に成らない程、
強く成っていたのだ。
その為、僕は、困っていた。
魔法を使わないと、ストレスが溜まる。
しかし、魔法の存在は、
知られる訳には、いかない。
『つまり、気軽に、魔法は、使えない・・・』
しかし、魔法を使わないと、
僕には、ストレスが溜まり・・・
魔法が暴走するのだ。
その為、僕は、毎朝、ベッドで、
ティッシュの切れ端の、
超ギザギザ飛行を、続けていた。
しかし、魔法の力が、向上した僕にとって、
それは、無意味に成っていた。
『こんな程度、出来て当然・・・』
『魔法を使った達成感など、得られない・・・』
その様な状況に、成っていたのだ。
その為、ストレスを、解消出来なく成っていた。
『魔力など、存在しない・・・』
『だから、身体に溜まっている訳では無い・・・』
『魔法の消費など必要無い・・・』
僕は、何度も、自分に言い聞かせた。
『ストレスなど、気持ちの問題だ・・・』
僕は、その様に、自分を説得した。
しかし、それは無駄な努力であった。
例えば、
一生、目を開かない・・・
一生、声を出さない・・・
そんな事、僕には、不可能である。
つまり、魔法使いが、魔法を使わない事も、
それと同じ事である。
一時的に、我慢は出来ても、
一生、我慢出来る訳では、無いのだ。
だから、僕が、魔法の暴走を止める為には、
毎日、魔法を使い、その達成感を、
得る必要があったのだ。
だから、本当なら、
必死に走って、自分の背中を、魔法で押す・・・
その様な必要があった。
ところが、地元で、有名に成った僕は、
もう、魔法の力で、走る事など出来ない。
魔法を使ったドアの開閉も、
連続20回が、可能に成っていた。
その為、これ以上の記録更新は、
危険に成り、止める事に成った。
見付かるリスクを、増やすだけである。
そもそも、簡単過ぎて、
魔法を使った達成感が、得られない。
僕は、苦しんでいた。