378
原始の世界で僕は、
植物人間である。
その為、耳も聞こえない。
それが不便なので、
せめて耳だけでも回復しないのか?
その様に思い、脳を観察した結果、
僕の意識は、再び現代へと移動した。
そして、今度は、魔法帽をかぶったマモルを、
観察する事に成る。
もちろん、マモルには、僕の事は解らない。
しかし、
マモルは、状況を理解した。
今、異常な現象が起きている・・・
身体に、ダメージを受けない・・・
「防御魔法・・・?」
おそらく、その様な何かによって、
自分は守られている。
そして、その原因は、
現在、かぶっている魔法帽にあると、考えられる。
つまり、この帽子を脱ぐと、
魔法が失われる・・・
そして、可能性としては、
次、かぶっても、
魔法が発動しな事が考えられる。
「1度、脱いだら終わり・・・?」
マモルは、その可能性に、
不安を感じたのだ。
彼にとって、防御魔法の発動など、
夢の様な出来事なのだ。
まだまだ、実験をしたいのだ。
しかし、現在、マモルは、
現実的問題に直面していた。
「トイレ・・・」
彼は、一戸建てに家族と住んでいる。
現在、日曜、昼の3時10分・・・
1階のリビングには、父と母が居る・・・
階段を下りて、
右に曲がればリビング、
左に曲がればトイレ・・・
つまり、帽子をかぶったまま、
トイレに行っても、
家族に見付かる事は無い・・・
かも知れない・・・
しかし、それは、マモルの美学に反するのだ。
マモルが、ミシンで、何かを作っている事を、
家族は、知っている。
しかし、マモルは、
それを見られるのが、恥かしいのだ。
見られると「ほめられる」のだ。
そんな家族が居る下の階・・・
そこに、魔法帽をかぶって下りる・・・
つまり「ほめて」もらう為に、
帽子をかぶって下りる・・・
その様な雰囲気に成ってしまうのだ。
実の所、それは、マモルの考え過ぎなのだが、
マモルは、自慢する事が嫌だった。
何かを「見せびらかす」
それは恥なのだ。
マモルの美学が許さないのだ。
しかし、トイレに行きたい・・・
我慢出来ない・・・
しかし、1度、
この帽子を脱ぐと、
魔法は、2度と発動しない・・・
かも知れない。
それは、あまりに、もったいない・・・
もっと、防御魔法を楽しみたい・・・
しかし、防御魔法も、
尿意には勝てない・・・
結局、マモルは、魔法帽を脱ぎ、
机の上に置くと、
その帽子に一礼してから、
部屋を出て、階段を下りていった。
その最中、トイレに向かう母を見て、
「待って・・・!」と叫び、
順番を、ゆずってもらった。
トイレから出たマモルは、
リビングに行って、母に、
自分が出て事を伝え、礼を言い、
再び2階の自分の部屋に戻った。
この時、僕は、理解した。
マモルも、礼儀正しい・・・
つまり、無意識に発動する人物なのだ・・・
ちなみに、マモルというのは仮名であり、
防御魔法・・・
つまり、守る魔法を使えるマモル・・・
という事である。
部屋に戻ったマモルは、
帽子に一礼した。
しかし、帽子には手をふれず、
机の上の10円玉を、手に取り、
右足を、ベッドに乗せ、
その親指の爪に、
10円玉の側面が当たる様に、落下させた。
「痛い・・・!」
10円玉は、マモルの親指の爪に直撃したのだ。
当然痛い・・・
その後、再び、魔法帽に一礼すると、
それを、かぶる・・・
そして、足の爪に10円玉を落下させた。
すると、その瞬間、
見えないクッション効果が発動・・・
10円玉は、マモルに当たる事なく、
ベッドの上に転がり落ちた・・・
つまり、この帽子には、魔法の力があり、
これを「かぶる」事で、
その効果を発揮するのだ。
「では・・・」
マモルは、クローゼットを開けた。
すると、その中には、4つの魔法帽があった。
現在、マモルが、かぶっているのは、
製作途中の5作目であった。
つまり、それ以前にも魔法帽を作っていたのだ。
「これは、どうだ・・・?」
マモルは、5作目脱ぎ、机の上に乗せる。
大袈裟では無いが、彼は、毎回、
軽く、頭を下げる・・・
マモルには、妙な礼儀正しさがあった。
それが正しい事なのか、どうか・・・
それは疑問だが、
彼は、物にも敬意を払うのだ。
その後、4作目を、手に取り、
かぶる・・・
そして、足に10円玉を落下させるた・・・
その瞬間、クッション効果が発動・・・
10円玉は、足には当たらず、
ベッドの上に転がり落ちた・・・
3作目でも、2作目でも、
その結果は、同じだった。
「魔法帽なら、何でも良いのか・・・?」
そして、最後に1作目を試す番に成った。
この魔法帽は、マモルにとって、
明らかに失敗作だった。
これは「おでこ」のサイズを測り、
「帽子の入り口」部分を、
その寸法で作ったのだ。
結果、寸法的には、ぴったりな帽子が完成した。
ところが、これは「とんがり帽」である。
先に行く程、細く成る。
つまり、帽子の入口が「おでこ」にピッタリの場合、
帽子の上部が、頭に「つっかえ」て、
「おでこ」まで、下ろせないのだ。
結果、この1作目は、
頭の上に乗っかったいるだけ・・・
アニメキャラなら、
その様な無理のある衣装でも、問題無いが、
人間が使う場合、
それでは、帽子として機能しない。
つまり、使えない帽子なのだ・・・
マモルは、そんな1作目を、頭に乗せ、
足に10円玉を落とした。
結果、クッション効果が発動・・・
「えっ・・・」
「これでも良いの・・・?」
思わず声が出た。
マモルは、試しに、頭を振ってみる。
頭に乗っかっているだけの帽子なので、
本来なら、簡単に落ちる。
しかし、動かない。
逆立ちしても、落ちない・・・
どうやら、魔法帽をかぶる事で、
何かが発動して、帽子が脱げない様に成るのだ。
しかし、マモルが、その気になれば、
帽子は、簡単に脱ぐ事が出来た。




