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これは魔法の書です。  作者: わおん
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原始の世界での生活は、単調化していた。



毎日が同じ、



朝食を食べる。


タロとゴンに食事を与える。


柵の中の、オス牛に、牧草を与える。


メス牛1頭を、散歩に連れて行く。


家や柵の手直し。


昼食を食べる。


柵の中の、オス牛に、牧草を与える。


次の、メス牛の散歩。


3人それぞれの、自由時間。


夕食を食べる。


就寝・・・



父も母も祖母も、


何の文句も言わない、



毎日、同じ事を繰り返す。



残念ながら、そこには、誇りは無い。


何の進歩も無い。



毎日が同じ、


それを美化する事は、簡単だが、


父と母は、まだ、


中学生くらいの、年齢なのだ。



『これでは駄目だ・・・』



しかし、



『3人に、何をさせる・・・?』


『スポーツ・・・?』



『将棋でも教える・・・?』



しかし、3人しか居ない世界で、


競技を行った場合、


不動の順位が出来あがり、



その後は、


「止めるに止められない地獄」が続く・・・



『原始人の娯楽って、何なのか・・・?』


『獲物を狩る・・・』


『喜びの奇声を上げ、踊る・・・』



しかし、


3人で、それをするのは痛々しい・・・



『では、どうする・・・?』



現在、牛の大地の湿地化は、おさまっている。



それを考えた場合、


牛の大地の巨大湖から、


魚を連れて来て、



『湿地川を釣堀にする・・・?』



僕が居れば、それ位の事、


簡単に出来るのだ。



本当は反則だが、


釣り糸など、



皮を変化させ、


魔法で強化すれば、


最新の釣り糸を、超えるモノも完成する。



僕の家族は、


ここで暮らし、


他とは関わらず、


ここで滅びる・・・



だから、多少、非現実的な遊びを行っても、


この世界の歴史に、影響を与える事は無い。



僕は、試しに、皮ヒモを1本、


祖母に、もらった。



それに魔法を送り変化させる・・・


『細く、長く・・・丈夫に・・・』



ヒマなので、


3人は、その光景を興味深げに見ている。



すると、それは、僕の望む糸に成った。



長さ30メートル、


それを、父と母に引っ張ってもらう。



手が切れる困るので、


焚き火用のマキに、


糸をくくり、それを綱引きの様に、


引っ張ってもらった。



しかし、切れない。



今度は、森の枯れ木に、


糸をしばり、



もう片側には、マキをしばり、


それを持って、


3人で、糸を引く・・・



しかし、切れない。



つまり、丈夫な、釣り糸の完成である。



魔法を使えば、簡単に切れるので、


これを3等分、


1本10メートルの釣り糸が、


3本用意出来た。



では、次に、釣り針である。



以前、狼山から、


大量の石を持って帰った事があった。



その時、妙な岩があった。



大きさは、灯油の、


20リットル・ポリタンク程度、



その岩は、サビ・・・?


その様なモノが出ていた。



『これが鉄鉱石なのか・・・?』



僕には解らないが、


現在の僕であれば、


このサビの様な成分を、


取り出す事が出来る。



そこで、作業開始・・・



しかし、何か違和感を感じる・・・


『無理なのか・・・?』



岩から染み出している成分は、


サビの様に思えるが、



針の素材には、


適していない様であった。



僕が、その気に成れば、


それでも釣り針は、完成したと思うが、



残念な事に、僕の魔法は、


僕の固定概念の、影響を受ける。



その為、僕が、心の中で、



『これは無理がある・・・』



その様に考えた場合、


魔法が発動しないのだ。



『では、どうする・・・?』



僕には、心当たりがあった。



生前、何かの本で、


縄文時代の、釣り針の写真を、


見た事があった。



それは、骨で出来ていた。



そのサイズは、


10円玉よりも大きかった様に思う。



『本当に、そんな針で、魚が釣れるのか・・・?』



当時は、疑問だったが、


骨で釣り針が作れる事は、歴史上の事実である。



そこで、牛の骨を使い、


『固く・・・丈夫に・・・』



釣り針をイメージしながら、


骨を変化させて行く・・・



それを見て3人が喜んでくれるので、


僕の心は強く成り、



3人に期待に応える為に、


その力を発した。



数分後、


1本目の釣り針の完成、



長さ1センチ5ミリ、


太さ1ミリ、


非常に弱々しく感じる。



『大丈夫だろうか・・・?』



そこで、先ほどの、サビ岩から、


サビの成分を取り出し、


釣り針と融合させる。



結局の所、何も根拠は無いが、


僕の幼稚な性格によって、


『これなら大丈夫だ・・・』


と核心が持てた。



そして、その釣り針を、


父の釣り糸と結合させる。



結果、針付きの糸が完成した。



そこで、長さ50センチ、


太さ20センチの丸太を用意、



その丸太に、釣り針をかけ、



釣り糸の逆端を、


木の棒に、くくり付ける。



そして、父に、その棒を持って、


引っ張ってもらう。



すると、丸太が、地面を引きづられる。



面白がって、父は走り出したが、


それでも、針も糸も無事である。



父が、大喜びしている中、


僕は、作業を続け、


残り2つの釣り針も完成した。



では、次は、釣竿である。



ネズミの森で、


直径2センチの、槍の木を探す。



長さ2メートル、


それを3本用意、



その中の1本に、


魔法を送る・・・



数分後、


棒の片側が細く変形して、


2メートルの釣竿型に成った。



『はたして、本当に使えるのか・・・?』



父の釣り糸を、竿を先に結合させ、


先ほどの丸太を、引っ張ってもらう。



すると、それは、本物の釣竿の様に「しなり」


絶妙な具合で、糸の負担を軽減している。



実の所、切れない釣り糸なのだから、


竿は、普通の棒でも平気なのだ。



しかし、釣り気分を味わう為には、


竿の「しなり」が重要である。



そこで父に、


植物人間の僕を、抱きしめてもらい、


感想を聞く・・・



相変らず、僕は音が聞こえ無いのだ。



実は、この時、父は始めて僕を「だっこ」した。


その為、父は、うれしそうだった。



父の好みを聞いて、


釣竿の調整を行い、



その後、同じ方法で、


母と祖母の釣竿も完成した。



では、釣りである。



しかし、湿地川の水位は10センチ、


泳いでいるのは、メダカ・・・



これでは釣れない。



ちなみに、湿地川の先に池は無い。



湿地川は、枯れた大地を、


30キロ進んだ地点で、


その先は行き止まり、


元々あった川では無く、



僕が、湿地帯の水の引き受け先として、


作ったモノなのだ。



その為、3人山脈から、ネズミの森を抜け、


枯れた大地を流れる、直線の水路である。



そして、湿地川から、南へ40キロ先には、


南湖がある。



その大きさは、


東西へ30キロ、


南北には20キロ、



その様な大きな湖なのだ。



ところが、山からの水が少ない為、


現在は、ネズミの森付近に、


少し水が溜まっているだけ・・・



先日の台風で、多少、水量が増えたが、


それでも、南湖は復活しなかった。



僕は、魔法で何でも出来る様に思える。



しかし、自然現象を、


復活させる事が出来ないのだ。



南湖の大きさを考えると、


本来は水量豊富な湖なのだ。



ところが、山に雨が降らず・・・


山に木々が少なく、保水力が無い為、


湧き水も少なく・・・



現在は、巨大な湖跡・・・


森の近くでは、少し水が溜まっているが、


それは、野池レベルであった。



そんな南湖に、


大量の水を瞬間移動させた場合、


何が起きるのか・・・?



釣りという、娯楽の為に、


そこまでやっても良いのか・・・?



それを実行した場合、


何が問題に成るのか・・・?


それは、取り返しのつかない問題なのか・・・?


問題発覚後、元に戻せるのか・・・?



その様な事が、全く解らないのだ。



海水を真水にして、南湖へ入れた時に、


南湖が地盤沈下を起こしたら・・・?



現実的に、湖の水が増えた事で、


『地盤沈下を起こすのか・・・?』


そんな事は、無いと思うが、



もし、その様な非常事態が起きた場合、



それによって、


南湖の保水力が無くなった場合・・・



『僕には解決出来ない・・・』



本来、湖の底の土は、


粘土質であり、


水を吸い難い性質がある。



ところが、地盤沈下によって、


湖や、その周辺の地面が割れた場合、


その性質は失われる。



その後、地割れに、


粘土を入れれば解決する・・・?



広さ数十キロ範囲・・・


無数の地割れ・・・


陥没・・・



『その全てを粘土で埋める・・・?』


『どうやって・・・?』


『瞬間移動で・・・?』


『それで、本当に大丈夫なのか・・・?』



今、思い付いても、


それが本番で、出来る保障は無いのだ。



つまり、遊びの為に、


極端な環境改造を行うのは、


危険なのだ。



『こう成ったら・・・』


『釣りは、止めて、ゴルフにするか・・・?』


などと、考えるが、



釣りは、生きる為に役に立つ。



それに対し、ゴルフは、


あくまでも競技であり、


生きる手段には、直結しない。



無人島で生き延びる時、


初日、釣りに挑戦する事は懸命だが、


ゴルフをして遊ぶのは、愚かである。



その様な価値観を基準に考えた場合、


『やはり釣りが良い・・・』


『では、どこで釣りをすれば良いのか・・・?』



答えは出ていた。



牛の大地の巨大湖である。


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