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現在、僕は、原始の世界にいる。
しかし、その意識は、現代の大阪にいる。
そして、シュンタを観察してる。
シュンタは、アシの群生地から、
淀川を、のぞき込み、
「エアおにぎり」を試した。
しかし、何も起こらない。
「器では無いので無理か・・・」
シュンタの瞬間移動は、移動先が、
ゴミ箱の様な、器型の形状で無いと、
発動しない。
理由は、僕にも解らない。
実の所、僕には、
シュンタに協力している意志は無い。
シュンタが「おにぎり」を行うと、
僕の無意識が、勝手に協力するのだ。
その為、なぜ移動先が、
器である必要があるのか・・・?
理由は不明だが、
シュンタが「めまい」を経験し時、
その条件が、定着したと考えられる。
「川では無理か・・・」
シュンタは、つぶやいた。
本来なら、数発試したいのだが、
睡魔が恐くて、シュンタは、
この実験を1回であきらめた。
他にも、実験が残っているのだ。
次に、シュンタは、
紙粘土で、小さなコップを作った。
そして、それを手で包み、
ゴミ箱を見ながら「おにぎり」
しかし、何も起こらない。
手の中で、紙粘土のコップが、少し潰れていた。
つまり、
「紙コップでは無いから・・・」
では、次である。
シュンタは、手の中の紙粘土コップを、
半分千切り取り、
それを使い、さらに小さなコップを作った。
その為「おにぎり」を行っても、
コップは潰れない。
しかし、実験の結果、
何も起こらなかった。
シュンタの手の中には、
紙粘土の、小さなコップが残っている。
そこでシュンタは、
ホームセンターのレジ袋を、
地面に敷くと、
その上に、紙粘土の、小さなコップを置いた。
コップといっても、
親指の、第1関節までしか、入らない。
本当に小さな「うつわ」である。
そして、彼は、ゴミ箱の中から、
先ほどの、改造紙コップを拾い上げると、
紙粘土の小さなコップを見ながら、
改造紙コップを「おにぎり」
すると、その瞬間、
地面に置いた「紙粘土の小さなコップ」が、
消えた・・・
そして、そこには、
「改造紙コップ」だけがあった。
ちなみに、改造紙コップとは、
上半分を切り捨てた半分サイズの、
紙コップである。
一瞬、何を起こったのか理解出来ない、
その為、シュンタは、周囲を探す。
しかし、紙粘土の小さなコップは、
見付からない・・・
それによって、
シュンタの心に、不安と、発見が生まれた。
シュンタは、周囲を見渡し、枝を拾った。
そして、それを、地面に刺し、
小指の第1関節まで入る穴を開けた。
彼は、緊張していた。
しかし、実験を続ける為に、
改造紙コップを拾い上げると、
周囲を確認、
誰も居ない事を確認の上、
アシの群生地の中で、
地面の穴を、見ながら、
改造紙コップを「おにぎり」
次の瞬間、
改造紙コップが、
地面に半分埋まった状態で出現・・・
実際には、埋まっている訳では無い。
深さ、2センチ
直径、7センチ
その様な穴が地面に出現して、
そこに、改造紙コップがあったのだ。
理由は、簡単な事だった。
シュンタは「おにぎり」で、
改造紙コップを移動させた事により、
手の中の空気も、移動していたのだ。
これまでは、移動先が、
空のゴミ箱だったので、
気付かなかったが、
それは、当然の事であった。
空気も移動していたのだ。
そして、シュンタの「おにぎり」の体積は、
「みかん約1個分」
ところが、今回、器に使ったのは、
地面に開けた小さな穴・・・
深さ2センチ・・・
直径1センチ・・・
つまり、みかん1個分よりも、小さかったのだ。
その穴に「みかん1個分」が出現した事で、
周囲の土が消えたのだ。
「消滅した・・・?」
「土が消滅した・・・?」
シュンタは、動揺していた。
「これが人の、鼻の穴だったら・・・?」
そう考えたシュンタが、
次に行った行動は、
紙粘土で、右目の模型を作る事だった。
シュンタは、とても器用に作って行く。
僕には、シュンタの心が解るので、
その意味が解った。
目の鼻側・・・
上まぶた、下まぶた、眼球、
これらによって出来る三角地帯・・・
そこには「くぼみ」がある。
その深さ約4ミリ・・・
つまり、器があるのだ。
数分後、右目の模型が完成した。
そして、シュンタは、少し移動して、
太いアシを選ぶと、
その模型を固定した。
高さは、シュンタの目の高さ・・・
右目の模型は、こちらを向いている。
その模型の鼻側の「くぼみ」
そこを見ながら「エアおにぎり」
次の瞬間、
模型の「くぼみ」を中心に、
深さ、4ミリ
直径、7センチ、
その範囲が消滅していた。
「なるほど・・・」
それがシュンタの感想だった。
と同時に、彼は、帰りの準備を始めた。
シュンタの熱意は、一瞬で冷めたのだ。
「許される訳が無い・・・」
「相手が、失明する・・・」
それがシュンタの気持ちだった。
シュンタは、
地面の穴を埋め、
出来る限り、現状回復させると、
荷物をリュックにしまい、
地面に一礼して、その場を離れた。
シュンタは、僕の存在には、気付いていない。
これは、事実である。
そして、ここからは、僕の感想である。
この現代の世界で、
僕は、ある意味、精霊なのだ。
そして、シュンタは、
ある意味、精霊魔法が使える。
しかし、シュンタは、魔法使いでは無い。
僕と、契約している訳でも無い。
あくまでも、精霊に気に入られた人間なのだ。
その為、シュンタが、
「おにぎり」を発動させる事が、出来るのは、
僕が、シュンタを見ている時間に、限られる。
そして、シュンタには、
人の眼球を、消滅させる気は無いし、
僕も、僕の無意識も、それには協力しない。
しかし、もし、シュンタが、熊に襲われ、
「おにぎり」を行った場合、
そして、その時、僕が居た場合、
僕の無意識は、彼に協力するだろう。
それが精霊魔法の正体である。
その後、シュンタは、家に帰り、
夕飯を食べ、風呂に入った。
しかし「おにぎり」を行う事は無かった。
シュンタは、瞬間移動に、
何の未練も無かった。
それが、シュンタである。
こうして、僕は原始の世界に戻った。
そして、次の日の夜、
僕が、僕の脳を観察しても、
シュンタの姿は、見えなく成っていた。
つまり、シュンタはもう、精霊魔法が使えない。
そして、彼の性質であれば、
今回の出来事を、人に話す事など無い。
それがシュンタである。
『問題解決・・・』
しかし、疑問も残る。
僕の無意識は、どの様な手段で、
シュンタを探した・・・?
そして、なぜ、僕にシュンタを見せた・・・?
今回の出来事が、僕にとって、
一体、何に成る・・・?
この時の僕は、まだ、その理由に気付けなかった。




