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シュンタは、風呂での実験後、
風呂の栓を抜き、
風呂掃除を始めた。
スポンジで浴槽や床を洗浄、
シャワーで長し、
水切りワイパーで水を切り、
古いタオルで、風呂を拭いてから、
脱衣所に出て、
換気扇を作動させた。
その手際は、見事なモノだった。
『この家のルールなのか・・・?』
最後に風呂に入ったモノが、
風呂の掃除をして上がる・・・?
風呂に入った後に、
『風呂を掃除する・・・?』
とても矛盾している。
現在、日本は11月、
身体が冷える・・・
何の為の風呂だ・・・?
何の為に、身体を洗ったのか・・・?
その様にも思える。
しかし、風呂場のカビを防ぐ為には、
最も有効的なタイミング・・・
それが、最後の人が、風呂を掃除して、
拭いて乾かして出る・・・
という事だ、
おそらく、この家では、父も母も、
その日、最後に入った人が、
同じ事をするのだ。
シュンタは、それを当然の事として、
育ったのだ。
シュンタの自己犠牲の精神・・・
それは、この様な環境で作られたのだ。
その後、シュンタは、実験を行う事はせずに、
夜11時に眠りについた。
こうして、僕の、意識は、
原始の世界に戻る事が出来た。
『戻って来れた・・・』
『助かった・・・』
僕は、心から、そう思った。
実は、2度と戻れない覚悟であった。
もし、本当に、戻れなかった場合、
家族は、どう成っていた事か・・・?
3頭の牛を繁殖させ、
生きて行けただろうか・・・?
それが無理だった場合、
肉食の、恐竜ゴンは、
どう成っていただろうか・・・?
僕は、現代の世界を守る為、
原始の世界の家族を捨てて、
出発したのだ。
しかし、実際には、無事に帰って来る事が出来た。
『なぜ、僕は、この様なリクスを犯したのか・・・?』
僕を、この様な精神状態に追い込んでまで、
『僕の無意識は、僕に何をさせたい・・・?』
『現代に送り込む必要とは、何なのか・・・?』
『僕の無意識は、僕に何を見せたいのか・・・?』
『何を、気付かせたいのか・・・?』
その日は、そんな事を考えながら、
原始の世界で、1日過ごした。
そして、その日の夜・・・
僕の意識は、僕の意思とは関係無く、
現代に到着していた。
時刻は、昼の3時、シュンタの腕時計で、
それは確認出来た。
彼は、堤防の上に居た。
そこには、淀川という看板があった。
淀川の河川敷は、整備されていた。
堤防を、川方向に下ると、
そこは河川敷公園であり、
草野球場や、サッカーコート、
ネットで囲まれたテニスコート、
遠くには、パターゴルフ場もある。
シュンタは堤防を下り、
草野球場を抜け、せまい歩道を渡り、
ガードレールを越え、
ヨシの群生地を抜けた。
すると、目の前に淀川があった。
この淀川と、河川敷公園は、
釣りもスポーツも出来る、
素晴らしい環境であった。
ところが、
そんな環境に、誰も居ないのだ。
大阪には、これだれの環境を放置する程、
他に娯楽があるのか・・・?
『今は、11月・・・』
その事は、昨日、
シュンタの部屋のカレンダーで、
確認済みである。
場所が大阪なので、
雪国育ちに僕には、実感が無いが、
『寒いのか・・・?』
『雪も無いのに・・・?』
『だから、誰も居ないのか・・・?』
ちなみに、僕の居る、原始時代は、
現在、夏である。
そして、昨日も、今日も、
僕が、シュンタの世界に来たのは、
昼の3時・・・
『これは、偶然なのか・・・?』
『原始の星と地球のサイズが同じ・・・?』
『だから、時間にズレが無い・・・?』
『原始の星も1日が24時間なのか・・・?』
『そんな偶然があるのか・・・?』
それとも、この現象で、シュンタの所に来た場合、
それは、毎回、3時に成るのか・・・?
などと、考えている場合では無い。
こんな場所で、実験しても大丈夫なのか・・・?
『本当に、誰も居ないのか・・・?』
などと、僕は不安に成る。
しかし、シュンタは、僕の存在など知らない。
シュンタは、リュックから、
小さなゴミ箱と、
紙粘土を出して、準備を始めた。
そして彼は、時計を確認した。
「よし、3時を過ぎた・・・」
シュンタにとっては、
準備OKの様である。
しかし、僕は、気に成った。
『こんな場所で、実験しても大丈夫なのか・・・?』
『誰かに見られないか・・・?』
ここは、河川敷・・・
誰かに見られる危険性がある・・・
他人に見られる危険を犯してまで、
『ここで、実験するベキなのか・・・?』
僕は、不安を感じていた。
すると、それが見えた・・・
それは、シュンタと、
シュンタのお爺さんの会話だった。
それは、
シュンタの、過去の記憶だった。
お爺さんの話によると、
淀川は昔、半ズボンの小学生が、
毎日に様に、釣りに来ていた・・・
当時、リールなど高価なモノは買えないので、
みんな「へら竿」を使っていた。
地面の石をのかせて、
その下のミミズを掘り出し、
それを、手で千切り・・・
それをエサにして、フナを狙う・・・
当時はブラックバスは居なかった・・・
そんな内容の会話だった。
ところが、現在、淀川の河川敷には、
誰も居ない・・・
時代が変わったのだ。
『今のは、何だ・・・?』
『シュンタの過去が見えた・・・』
しかし、
だからと言って、
ここが安全とは思えない。
田舎の河川敷とは違うのだ。
淀川には、大きな橋があり、
そこには、多くの車が走っていた。
『ここは危険だ・・・!』
僕は、そう確信した。
僕は、シュンタの気持ちが理解出来る。
その為、現在、シュンタが、
心配していない事が、理解出来る。
しかし、次の瞬間、
シュンタは、淀川に背を向けると、
ヨシの群生地に引き返した。
それによって、周囲から、
シュンタの姿は隠れた。
そして、その状況で、
シュンタは、改造紙コップを使い、
「おにぎり」をして、魔法の発動を確認。
「よし!」
彼が用意した小さなゴミ箱に、
少し潰れた改造紙コップがあった。




