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シュンタは、
当然の様に道をゆずり、
咳をする時は、
当然の様に、口をふさぐ。
これは、芝居では無い。
現在、周囲には誰も居ないのだ。
しかし、彼は、咳をする瞬間、
条件反射で口をふさいだ。
つまり、彼は、条件反射で、
周囲を気づかう・・・
その様な性質の、持ち主なのだ。
先日、コーヒー雑貨店で転倒した時も、
シュンタは、自分の事よりも、
商品を気づかった。
店への迷惑を心配した。
それに対し、僕の無意識魔法が対応したのだ。
そして、瞬間移動が発動した。
僕は試しに、
周囲の落ち葉を、移動魔法で動かそうと試してみた。
当然、落ち葉は動かない。
僕の魔法は、誰かの役に立つ・・・
その目的以外では、発動しないのだ。
しかし、
なぜか、僕は、現代を見る事が可能に成り、
そこにシュンタがいて、
そのシュンタの性格に反応して、
僕の魔法が、シュンタに協力したのだ。
そして、シュンタは、
瞬間移動が使える様に成った。
しかし、それは、僕が見ている場合に、
限定される様である。
つまり、僕が居なければ、
シュンタは、魔法が使えないのだ。
『助かった・・・』
その後、帰宅したシュンタは、
自分の部屋に入ると、リュックの中から、
先ほど購入した紙コップを、1つ取り出し、
それをハサミで切り始めた。
上半分を切り取った事で、
小さな紙コップ、
通称、改造紙コップが完成した。
もちろん、コーヒー雑貨店の紙コップとは、
底の面積などが違う。
しかし、そんな事など、
気にしている場合では無い。
シュンタは、夢中だった。
まず、ゴミ箱を確認、
中には、何も入っていない。
「タネも仕掛けもありません・・・」
シュンタは、手品師の様なセリフを言った。
そして照れていた。
本来、シュンタは、
その様な事を言う性格では無いのだ。
それくらい、舞い上がっているのだ。
しかし、そこから、シュンタは切り替えた。
シュンタにとって、
これは遊びであって、遊びではない・・・
何か、とても大切な事なのだ。
シュンタは、真剣な表情で、
改造紙コップを、
左手に持ち、右手でフタをした。
そして、それを押し潰す様にして、
両手で包み込み「おにぎり」を行い、
ゴミ箱を見た。
次の瞬間、
シュンタの手には違和感・・・
そして、その手を開くと、
そこには、何も無く、
ゴミ箱の中には、
少し潰れた改造紙コップがあった。
「出来た・・・」
シュンタから、思わず声が出た。
実際、僕には、音は聞こえない。
しかし、
シュンタの心の声は、聞こえる。
僕は、その事に、多少の罪悪感を覚えた。
今後、シュンタが、変な事を考えた場合、
それは、僕に知られてしまうのだ。
しかし、
シュンタは、その事に気付かない・・・
などと考えていると、
シュンタは、ゴミ箱から、改造紙コップを取り出し、
再び「おにぎり」
しかし、その瞬間、
彼が見たのは、机の上だった。
ゴミ箱では、出現の瞬間が見え難いので、
平らな机を選んだのだ。
ところが、何も起こらない。
瞬間移動が、発動しないのだ。
あわてたシュンタは、
再び、ゴミ箱を見て「おにぎり」
次の瞬間、ゴミ箱の中に、改造紙コップが出現、
そして、その事から、シュンタは理解した。
「うつわ・・・器が必要なんだ・・・」
この瞬間移動を成立させる為には、
移動先が、ゴミ箱や、洗面器の様な、
器である必要があるのだ。
理由は、僕にも解らない。
次に、シュンタは、改造紙コップを作った際に、
切り取った側・・・
つまり、紙クズを手に取り「おにぎり」を行った。
しかし、何も起こらない。
ゴミ箱でも、机の上でも、
反応は無い。
あわてて、改造紙コップで、
試すと、再び、ゴミ箱の中に、
改造紙コップが出現した。
「トイレで2回・・・」
「家で3回・・・」
「失敗が4回・・・」
「合計9回目・・・」
シュンタは、成功回数と、
失敗も含めた、実行回数を、数えていた。
理由は、昨日の、睡魔であった。
その事から、
この瞬間移動を使うと、
睡魔に襲われる。
その可能性は、充分に考えられた。
成功だけなら、現在、5回目、
「何回で、睡魔が来るのか・・・?」
シュンタは、それが知りたかった。
その後、シュンタは、少し考えた。
そして、机の中から、消しゴムを出した。
しかし「おにぎり」を実行しない。
考えている・・・
先ほど、改造紙コップを作った時に、
切り取った側・・・
それは「おにぎり」に反応しなかった。
「その理由は・・・?」
シュンタは、それを考えている。
現在、紙コップと水は、瞬間移動に成功している。
しかし、紙コップと、全く同じ材質の紙では、
失敗したのだ。
その事から、シュンタは考えた・・・
「雑貨店の、コーヒー・・・」
「その時、使われていたモノ・・・」
「それ以外は、移動出来ない・・・?」
昨日、コーヒー雑貨店で、倒れた。
その時、紙コップ入りのコーヒーを持っていた。
つまり、
「コーヒーと砂糖とミルク・・・」
「これなら、移動出来る・・・?」
そう考えたシュンタは、台所へ行った。
シュンタが、
インスタントコーヒーをホットで飲む事は、
珍しい事では無い様で、
彼は、当然の様に、作業を開始した。
幸運な事に、現在、台所には、誰も居ない。
そこで、シュンタは、
インスタントコーヒーの粉末を、
少量、左手に乗せ・・・
コーヒーカップを見ながら、
左右の手で「おにぎり」・・・
次の瞬間、カップの中に、コーヒーの粉末が出現した。
シュンタは、それを、もう1度行い、
適量の粉末をカップに入れた。
次は、砂糖である。
「角砂糖でも大丈夫か・・・?」
などと、多少不安を感じるが、
角砂糖を2個同時に「おにぎり」・・・
次の瞬間、2個の角砂糖が、カップの中に出現した。
そこで、シュンタは、少し悩んだ。
粉末のミルクを使うか・・・
ポーション入りの液体ミルクを使うか・・・
牛乳で試してみるか・・・
結局、安全を考え、彼は、粉末ミルクを選んだ。
そして、瞬間移動に成功した。
その後、お湯は、さすがに無理なので、
ポットのお湯を、カップに注ぎ、
それを持って、自室へと戻った。
カップを机の上に置くと、
新しい、改造紙コップを製作、
そこに、ホットコーヒーを、
スプーン2杯分入れる。
シュンタは覚悟を決めると、
ゴミ箱を見ながら「おにぎり」・・・
次の瞬間、ゴミ箱の中に、
少し潰れた改造紙コップが出現、
手の構造上「おにぎり」を行うと、
紙コップは、多少変形するのだ。
しかし、その紙コップは立った状態だった為、
中のコーヒーは、こぼれていない。
そこで、シュンタは、その紙コップを、
注意深く拾い上げると、机の上に置く、
「成功10回目・・・」
そう自分に言い聞かせた。
シュンタは、考えた。
今回のコーヒーは、インスタントコーヒーである。
それに対し、先日の雑貨店のコーヒーは、
豆から抽出したモノである。
つまり、コーヒーと言っても、
それは別物なのだ。
それは、紙コップも同じである。
別物なのだ。
しかし、改造紙コップでは、成功したが、
それを作る時に、切り取った側では、
瞬間移動が起こらなかった。
つまり、重要なのは、材質では無く、
自分が、同じモノと認識出来るモノ・・・
先日、雑貨店で貰ったコーヒー・・・
それは、紙コップ・・・
つまり、
両手で、包み込める紙コップ・・・
コーヒー・・・
つまり、メーカーや種類は関係無く、コーヒー・・・
そして、そのコーヒーは、
お湯・・・
つまり、水が入っていた。
だから、水も瞬間移動出来る。
そこで、シュンタは、疑問を感じた。
「では、醤油は・・・?」
「醤油は移動出来るのか・・・?」
「醤油をコーヒーと勘違いすれば、出来るのか・・・?」
実験方法は、改造紙コップを10個用意して、
その中の、5個はコーヒー
残りの、5個は醤油
「コーヒーも醤油も1滴だけにする・・・」
これで、見分けが困難に成る・・・
「その上で・・・」
「目を閉じて試す・・・?」
「目を閉じても、出来るのか・・・?」
そこで、シュンタは、机の上の改造紙コップを、
再び手に取る、
その中には、コーヒーがスプーン2杯分残っている。
そして、目を閉じた状態で、
「おにぎり」・・・
しかし、何も起こらなかった。
「見ていないと駄目なのか・・・」




