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妊婦である母のお腹は、
日々、大きく成っている。
出産が近い事を、
祖母は、僕に告げた。
台風上陸から、2週間・・・
当然、その台風は、すでに消えている・・・
確認はしていないが、
おそらく、南湖も無事である。
父や祖母は、生活の都合上、
湿地川に行く必要がある・・・
湿地川の向こう岸には、牧草地があり、
そこで生活する、狼タロや、恐竜ゴンに、
食事を与える必要もある。
その為、
父と祖母は、毎日、通っていたのだ。
つまり、2人は、毎日、肉を持って、
湿地川を渡っている・・・
湿地川は、その性質上、激流には成らない。
水位は、増水しても、50センチ程度あり、
最終的には、4キロ先の行き止まりで、
湿地帯に成って広がる。
その為、2人が毎日、肉を持って、
牧草地へ行っても、
疲労せずに帰って来る。
そこで、僕と母は、
2週間ぶりに、牧草地へと向かった。
ちなみに、僕は、全方向の、
4キロ範囲を見る事が出来る。
つまり、牧草地を見る事も可能なのだ。
しかし、
地面にいる状態では、木々が邪魔で、
その先は見えない。
だから僕は、この2週間、家にいたのだ。
無意識魔法の影響を、最小限にする為である。
しかし、もう2週間である。
そろそろ、次の何かを、始める必要がある。
では、2週間ぶりに見た湿地川は?
湿地川まで来てしまうと、
4キロ先の下流も見える。
『苗木は、流れていない・・・』
川の様子を見ると、
ドロは無く、水位も20センチ、
つまり、今回の台風の被害は、少なかった・・・
その事が、理解出来た。
これは、無意識魔法の影響なのか?
無事であった事にも、不安を感じる。
そして、無事であった事で、
さらに、不安が浮かんで来る。
『牛の大地は、どう成った・・・?』
過去、テレビで見た知識では、
世界の地域によっては、
「雨季」という時期があり、
数週間、雨が降り続ける・・・
つまり、
もし、牛の大地の向こう側・・・
山菜森や、
その先の、狼山が
雨季の場合・・・
今もまだ、雨が降り続いている・・・
その可能性もあるのだ。
『牛の大地は、どう成っているのか・・・?』
2週間前・・・
僕は、牛の大地が、
湿地帯に成っている光景を見た。
しかし、僕が、それを見たのは、
限られた範囲である。
それ以上見ると、
僕の無意識魔法が、
何かをする危険性があったので、
急いで、逃げて帰ってきたのだ。
つまり、僕が、
牛の大地が湿地帯に成っている・・・
その様に思っているのは、
ほんの少しの、地域である可能性も、
考えられるのだ。
そして、今、我々は、
次の牛を必要としている。
『では、牛の大地に行ってみるか・・・?』
しかし、雨が降り続いていた場合・・・
その結果、牛の大地の大部分が、
湿地帯に成っていた場合・・・
牛の大量死を目撃した場合・・・
などと、不安要素が多くて、
見に行く事は危険であった。
そんな光景を見たら、
僕は、助けたいと考えてしまう。
そして、僕が、それを「がまん」しても、
僕の無意識魔法は「がまん」しない・・・
結果、何が起きるのか解らないのだ。
『だから、牛の大地には行けない・・・』
『しかし、では、今後、どうするか・・・?』
それを考えた場合、
今、行くベキなのだ。
後、数日で僕は誕生する・・・
その時、何が起きるのか・・・?
それが、全く解らない。
つまり、生まれると同時に、
魔法が失われる可能性も、
考えられるのだ。
もし、そう成ったら、
もう2度と、牛の大地には、行けないのだ。
普通の原始人に、
千キロ以上続く、岩塩の大地を、
横断する事など、不可能なのだ。
そう成った場合、
現在、我々の牧草地には、
メス牛が2頭・・・
これでは、子孫は残せない・・・
つまり、今のうちに、
オス牛を、連れて来る必要があるのだ。
出来れば2頭・・・
『行くベキなのか・・・?』
もちろん、僕の誕生後も、
魔法が使える可能性は高い・・・
むしろ、魔法が使えない方が不自然である。
それを考えた場合、
今、無理に行く必要は無い。
あせって、オス牛を2頭も連れて来た場合、
『狼タロが対応出来るのか・・・?』
不安である。
恐竜ゴンに関しては、
先日、ゴンが、リュックを破壊した時、
母が悲しみ、
その悲しみの感情が、
魔法の力によって、
ゴンの心に流れ込んだ。
結果、ゴンは、何かを傷付ける事に、
恐怖を感じる様に成った。
つまり、トラウマが植えつけられたのだ。
その為、現在、ゴンは、
食事以外では、爪を使わない。
移動する時も、
恐る恐る・・・
周囲を心配しながら歩いている。
このゴンを、上手く育てれば、
将来、牧用恐竜として、
タロの手伝いが出来るのだが、
それは、まだ先の話である。
その為、今、急いで、
オス牛を2頭連れて来る事は、
合理的では無いのだ。
しかし、正直な所、
僕は、牛の大地に行きたい・・・
退屈なのだ。




